ずっとつづくアポロの時間

レトロな照明


布団張りの内壁


鳴ることのあるピンク電話


テープで補強されたカウンターは、ほどよくやわらかく自然と体が預けられる


そしてジュークボックス

　
レコードでのジュークボックスは珍しく、横浜市内に数軒しか残っていないのではないかと言われる。チャンさんの一番好きな曲だという、プロコル・ハルムのデビュー曲『青い影』（1967年）が流れた。

ジュークボックスは店を構えた時からあり、現在のものは3代目。「トヨタのコロナが45万円くらいのころで、お店の内装費が70万円、最初のジュークボックスは100万円した」とチャンさんは昔を振り返る。

チャンさんにとって「女房より大事？」と聞くと「そうだよ！」と即答。
　

手書き文字のジュークボックス曲リスト。3曲で100円

　
やがて、キープボトルのあるお客さんが入ってきたので、声をかけた。

「ここに来る人は故郷にくるような気分で来るよ」と話す横須賀市の長坂利広（ながさか・としひろ）さんと、しばらく話に花を咲かせた。15年ぶりに来た人のボトルがとってあったこともあるのだとか。

長坂さんに「アポロ」は飲んだことがあるかと聞いてみるが「ない」との答えで、初オーダーしてくれた。そして、常連さんからのオーダーなら、とついにアポロと対面！
　

これが「アポロ」。太陽のような赤いカクテル


味は「太陽のさわやかさと海を感じる」と長坂さん


そうか、最初からメニューの裏に姿を現していたのが「アポロ」だったのか

　
「バーテンダーっていうのは癒しの商売。みんな悩みもあってやって来て、そういう人にお酒を提供して、気持ちよく帰させるのがバーテンダーの仕事だからね」と話すチャンさんに、最後にお店に来る人たちに一言をと尋ねると・・・
　

「しあわせになってね」「あはははは」

　
ああこの笑顔と笑い声に、幾人どれほどしあわせになってきたことだろう。
　

ずっと変わらぬ棒タイと、チャンさんの笑顔とともに、曙町の夜が更ける

取材を終えて

今夜は赤い階段なので赤い服も、そして顔も赤いよ・・・

　
この階段の「入り口が2階で入りにくい」という投稿で来たとチャンさんに伝えると「入ってくりゃいいのに」と笑っていた。入ってしまえば、こんなに居心地のいいバーはない。常連客ばかりでなく、週末はインターネットを見て初めてくる人もいるそう。ただ初めて訪れる際は、同ビル1階は別店舗で風俗エステ店なため、入口を間違わないよう気を付けたい。

前回の東京五輪の年から始まり、まもなく次の五輪も横浜で迎えるであろうアポロとチャンさん。

100歳まで！　と言われれば「いやぁ100歳までなんて無理だよ」と笑うけれど、ずっと訪れるお客さんも多く、中には、48年間毎週土曜日に欠かさず来る人もいるという。

2年前の50周年の日には、小さなお店に約150人も同時に訪れたというほどに愛されて続けている名店。

生れも育ちも横浜で、「白塗りする前からメリーさんも知ってますよ。かっこいい人だった」と言うチャンさんはこの町をどう見てきたのだろう。
　

在りし日の「白塗りのメリーさん」（提供:森日出夫さん）

　
「このへんは変わった。昔は遊郭があって赤線青線で繁盛している街だった。地方から来た人は、みなとみらいが今の横浜でしょ。本当はこういう下町をもっと歩けば、いい所がいっぱいある。本当にいいところっていうのがまだまだある」

そんなチャンさんのお勧めのお店は
　

都橋商店街の「華」さん(左)と、福富町の「クライスラー」

　
今度そこにも行ってみよう。


―終わり―
　

パブレストラン　アポロ
住所／神奈川県横浜市中区曙町４丁目４５
電話／045-261-2576
営業時間／19:00～3:30 (フードは2:30まで)
定休日／火曜日