きみちゃんと「赤い靴」

野口雨情ときみちゃんに関係があるとしたら、接点となったのは鈴木志郎・かよ夫妻であろうと言われている。野口雨情と鈴木志郎はほぼ同時に北鳴（ほくめい）新報という新聞社に入社し、親しくなったのか両夫妻は一軒家で同居もしている。

赤い靴のモデルがきみちゃんであるなら、この時に鈴木夫妻が、開拓に伴うことができずに外国人宣教師に託した娘について語ったのだろう、と。

赤い靴の女の子がきみちゃんだという説自体に異論もあるようだが、これについては、後述させていただく。
　

野口雨情と鈴木志郎は北鳴新報で同僚だったようだ（フリー素材より）

　
赤い靴の女の子・きみちゃんの像は既に紹介した横浜、日本平、函館、麻布以外にも建てられている。筆者の調べた限りでは設置された像は全国に全部で8つ。

北海道の留寿都村役場企画課、小樽市産業港湾部観光振興室、青森県鰺ヶ沢（あじがさわ）町観光協会から写真を提供していただいたので、ご紹介したい。

まず、鈴木志郎・かよ夫妻の入植した留寿都にある「母思像」と「開拓の母」。
　

こちらは「赤い靴公園」の「母思像」。遠くを見つめている

　
「赤い靴公園」に「母思像」と名付けられた女の子の像が「ルスツふるさと公園」に「開拓の母」として、かよの像が建てられている。
　

開拓の母。二つの像は、離れているが向かい合っているという

　
そしてこちらは小樽。鈴木志郎・かよ夫妻が晩年を過ごした地である。
　

穏やかに語り合うような表情の親子像

　
今回撮影したり提供していただいたりした全ての像の写真の中で、このきみちゃんが一番幼い印象を受ける。鈴木夫妻ときみちゃんが、離れずに暮らしていたら、こんな親子だっただろうか。
　

きみちゃんがふっくらしているのが、なんだか逆に切ない

　
最後に青森県鯵ヶ沢町。ここは鈴木志郎の出身地だ。
美しい海を背に座る親子の姿が印象的である。
　

きみちゃんが両親と手を繋いでいる像だ

　
こちらの像は、地元の方により、夏には麦わら帽子、冬には防寒具を身につけている。写真のマフラーの手編みっぽい風合いに、ほっこりする。
　

夏には麦わら帽子、冬にはお揃いの帽子とマフラー

　
前述の通り、赤い靴の少女がきみちゃんであるという説に対して、異論も存在する。
・ ヒュエット夫妻が幼い女の子を引き取ったことを証明する資料がない
・ 野口夫妻に、鈴木夫妻がきみちゃんの話をするとは思えない
・ 野口雨情の息子である野口存彌（のぐち・のぶや）がモデルの存在に否定的である
など、いくつかの理由から、菊池寛の説が誤りであるというものである。
　

「赤い靴はいてた女の子」の「真実」はまだ分からないが・・・（フリー素材より）

　
しかしながら、きみちゃんという女の子の存在や、各地の赤い靴の女の子像が地元の人々によって大切にされ、そこに何らかの交流が生まれていることは事実である。

取材を終えて

童謡と昔の横浜のレトロモダンな姿をモチーフとした、山下公園の赤い靴の女の子像も、各地の「きみちゃん」をモデルとした像も、その点では変わらない。
今後実物を見る機会があれば、いずれの像にも物語や人々の愛着があることを忘れずに見つめてほしい。
　

―終わり―
　

参考サイト
函館市公式観光情報「はこぶら」
http://www.hakobura.jp/db/db-view/2013/04/post-228.html
麻布十番未知案内
http://jin3.jp/
　

参考文献
『赤い靴はいてた女の子』（菊池寛著）現代評論社
『捏造 はいてなかった赤い靴―定説はこうして作られた』（阿井渉介著）徳間書店
『案外、知らずに歌ってた童謡の謎』（合田道人著）祥伝社