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横浜のココがキニナル!

今回は吉村家直系「末廣家」と家系にとって歴史的な意味を持つ店「がんこ亭」を味わう

ライター:永田 ミナミ (2015年08月21日)

ラーメンと「語り」における疑問

なぜラーメンは「語り」の対象になるのか。なぜ「制覇」や「聖地巡礼」といった類のロマンが尊ばれ、「評論家」と呼ばれる伝道師が存在するのか。もちろん、スープや麺などの多様性が無数の組み合わせを生み出していることが「語りやすさ」の土壌となり、同時にその無数の組み合わせを提供する無数の店から選択するため「案内人」が必要とされるのは分かる。

「修行」や「暖簾分け」といった職人的徒弟制度が、求道的姿勢を好む日本人にとってはとても魅力的に映るということも言えるだろう。しかしその過熱ぶりと、語り部たちに漂うペダンチシズム(衒学〈げんがく〉趣味/知識をひけらかす姿勢)にはかねてから疑問を感じていたところに、ラーメンコンサルタントである通称「マーコ」なる人物と家系ラーメンを食べてほしいという連絡がきた。

少し躊躇したが、かねてからの疑問を解決するいい機会かもしれないし、何より美味しいラーメンは美味しい。というわけで今日も暑い東急東横線白楽駅へ向かった。



家系総本山吉村家直系「末廣家」へ
 


六角橋仲見世通りを通り抜け
 

六角橋交差点を右に曲がるとほどなく見えてくるのが
 

迫力ある看板の末廣家である
 

「家系総本山吉村家直系店」の頼もしさよ


真夏の太陽に照り映える看板を見上げていると「単に吉村家で修行をしたというだけでは『吉村家直系』にはなれないのだよ。総帥・吉村氏より『免許皆伝』を許された者だけが得られる称号であり、横浜市内では杉田家・末廣家・環2家(8月末閉店予定)のみがその直系店なのだ」とマーコさん。
 


ではさっそく


店内に入ると店主の末廣良信(すえひろ・よしのぶ)さんが笑顔で迎えてくれた。何でもかつてマーコさんが来店し、とても美味しかったと「神奈川ご当地系トップ3」の1位に選出したことを非常に喜んでいたという。
 


その記事は現在も店内の壁に飾られている
 

ほかにもいろいろなメディアで紹介されているようだ


美味しいラーメンを楽しみに万全の空腹で入店したが、まずは「末廣家」について話を伺うことに。



末廣家のはじまり
 


気さくな人柄と笑顔とまっすぐな眼差しに話を聞く前から何だか胸が熱くなる


末廣家は2013(平成25)年7月16日開店。かつてはラーメンとは関係のないビジネスマンとして働いていた末廣さんだが、当時からラーメンを愛食し「いつか自分のラーメン店を」という思いを15年間温めていたという。同時に「自分の店を開くなら絶対に家系」という思いもあった。
 


末廣さんにとって吉村家の「醤油の尖ったあの味」がラーメンの理想形だったのだ


そして5年間、缶コーヒー1本すら節約して開店資金を蓄え退職。吉村家に弟子入りした。もとより覚悟の上だったが、修行はとても厳しかった。

しかし、吉村さんの教えをひとつも聞き漏らさず、すべてを学ぼうとする姿勢を見てか、午前2時から始まる仕込みのときに吉村さんがふと「おまえ絶対リタイアするんじゃないぞ」とかけてくれた言葉は本当に胸に沁みたという。
 


現在の場所は修行中に見つけた最初の物件だったという


六角橋といえば、家系だけでも「とらきち家」「六角家」などの人気店があるほかにも「くり山」「らーめん中々」など多くの人気ラーメン店が凌ぎを削る激戦区であったが「ここしかない」と思い契約。修行しながら家賃を払い続け、全面改装した。蓄えていた資金はすべて使い果たしたそうだ。

やがて修行を終えて独立。オープン当初はなかなか味が安定しないなど、いろいろ失敗して寝る時間もなかったが、今はいつも忌憚のない感想を言ってくれる常連の方から「ほとんどブレはないね」と言ってもらえるようになった。
 


「2年前にマーコさんが食べたときからだいぶ進化したと思います」と末廣さん


開店から2年。あいかわらず六角橋は激戦区だが、見方を変えれば「そのおかげで切磋琢磨し、緊張感を保つことができる環境」があるという。今は周辺のラーメン店には感謝しているそうだ。



末廣家のこだわり

続いて味や素材のこだわりついて聞いてみると「すべての素材が生」とのこと。冷凍は一切使わず、豚骨、チャーシュー用の肉、ホウレンソウはすべて国産の生のものを毎日その日の分を仕入れているそうだ。
 


スープに使う豚骨(国産)は毎日大量に仕入れ、夜の時間帯の前にすべて入れ替える


豚骨は焚くと骨から細かい肉が剥落するが、末廣家ではそうした細かい肉がスープに混ざらないように丁寧に取り除いているという。
 


最後に垂らす鶏油(ちーゆ)は九州の地鶏からとったもの。すくったときの質感や透明感が違うそう


できあがったどんぶりの中は、醤油スープの上に薄い豚骨の油膜が張った状態で、その上に鶏油を垂らすと、きれいに分離して鶏油のまるい玉が表面に散らばるそうだ。
 


そして「このチャーシューにも徹底的なこだわりがある」という


そう言って、末廣さんが小皿に乗ったチャーシューを1枚差し出してくれた。ピンク色を帯びた薄切りの豚肉の皿の縁からはみ出し部分がふわりと垂れ下がった。
 


「これ、このやわらかさなんですよ」と末廣さんが言った


モモ肉のこれだと思った部位を厳選して仕入れ、じっくり時間をかけて釜で火を入れると、直火で焼く方法では出ない「しっとり感」が生まれるのだそうだ。このチャーシューを熱いスープの上に乗せると、最後に肉がきゅっと締まるとのこと。
 


スープやチャーシューの話を聞き艶のあるチャーシューを目の前にもう限界だった




実食

というわけでチャーシューに悩殺された永田は「チャーシュー麺(750円)」、デフォルトのラーメンにこだわるマーコさんはニラもやしが別盛りだということを確認して「ラーメン(640円)」と「ニラもやし(100円)」を注文。ちなみにニラもやしだけでなく、ホウレンソウやコーンなど、すべてのトッピングはラーメンの味や温度が変わらないよう、すべて別盛りで提供しているという。
 


末廣さんの勇姿を見守りながら、胃袋は悲鳴をあげていた
 

ラーメンを待つ間、マーコさんにも話を聞いてみた


知っている人は少なくないのかもしれないが、幼いころからラーメンが好きだったマーコさんは大学院でラーメンによるマーケティングやラーメン店の経営を研究し、好きなラーメンと仕事を結びつけようと思い立って起業したそうだ。

今まで直接プロデュースした店舗は30~40。間接的なものや部分的なもの含めると150店舗ほどになるという。写真で見かけていた印象よりちゃんとプロフェッショナルなのだなあ、と感心しつつかねてからの疑問について聞いてみようとしたところで、ニラもやしがやってきた。
 


おおお、どんぶりいっぱいのニラもやしの迫力


やあ、すごいですね、とシャッターを切っていると「さっきの鶏油をひと匙(さじ)垂らして、特製ダレをひと回しかけて食べてみてください」という声とともに、ぴかぴかの白米(140円)がやってきた。
 


これはやばいですねえ、と嘆息をもらしたのも束の間
 

チャーシュー麺がやってきてしまった。ななな、なんだこれは
 

あの人なら「チャーシューのラージヒルや」と言うかもしれない溢れ出す豚肉
 

醤油の味にはっきりとした輪郭を感じるような。これが「尖った醤油」ということか


濃厚ながらすっきりとした味わいだな、箸が進むなと思っていたら、背脂などの脂身は「油に頼りたくない」ということで一切使っていないそうだ。
 


おお、どうりで。それは個人的に素晴らしいと思います。とても美味しいです


そして麺はもちもちした家系ならではのあの食感。美味しいなと思って頬張っていると「この麺は酒井製麺のものなんだよ。酒井製麺が家系ラーメン店に卸している麺は約3種類と囁かれているが、そのなかの1種類が、吉村家および直系店だけに卸している麺、つまり特注麺と言われているのだ」とマーコさん。
 


ちなみにこちらはマーコさん撮影によるデフォルトのラーメンである
 

おはしゃぎになるマーコさん
 

ひと口食べるや「なんすか、これスーパーサイヤ人化してますよ」と叫ぶマーコさん


「やばいこれ、戦闘力半端ないすね。マジでスーパーサイヤ人じゃないすか」と麺をすすりスープを口に含むたびに繰り返すマーコさん。「戦闘力」とはマーコさんがラーメンを形容する表現のひとつ(編集注:国民的人気漫画『ドラゴン◯ール』から。ラーメンの美味しさを表現する言葉。戦闘力が高い=旨い)とのこと。「スーパーサイヤ人」は「戦闘力」の系譜にある用語(編集注:こちらも同作から。主人公の孫悟空らサイヤ人がパワーアップした状態。つまりとてつもない戦闘力=とてつもなく旨いということ)のようだ。

写真からも分かるが、ホウレンソウの盛りがとても大きい。生ホウレンソウが美味しいとトッピングの注文が増え、デフォルトの盛りも多くなったそうだ。
 


さて、自分のどんぶりに戻ると忘れてはならないのがチャーシューの美味しさである


さっき目にしたしっとりした薄切り肉は、箸でまるめて持ち上げることも簡単だが、口に入れてみるとしっかりとした歯ごたえがあり、そして何よりよく味がしみている。

豚肉の厚さを売りにする店が多いなか、末廣家ではこの薄いチャーシューにこだわっている。なぜこだわっているかは先に述べた通り。この薄さがラーメンの上に乗ったときにチャーシューの美味しさが最大限に引き出されるからである。
 

 

ラーメンかチャーシューメンの2択というのもチャーシューへの自信が垣間見える
 

さて、ここで裏メニューの「鶏油ひと匙(さじ)&特製ダレごはん」を
 

いただきます
 

おおお、広がる広がる。これは美味しいなあ
 

その後もよどみなく箸は進み、ごちそうさまでした




末廣家を食べて

開店から2年。激戦区六角橋において右肩上がりで売上を伸ばし続ける末廣家。午前11時に開店し、閉店時間が午後9時と早めであることを考えると、激戦区においても人気店であることは紛れもない。

ちなみに、深夜まで営業しているラーメン店が少なくないなか、末廣家が午後9時閉店なのは、清掃に時間をかけたいからだという。師である吉村家の教えを守り美しい店を維持するために、売り上げよりも清掃をとったそうだ。
 


たしかに寸胴鍋上のプラスチックの板のこの透明感といい
 

レンジフードなども含めてすべて真新しい輝きを保っている


1日中スープを焚き続ける寸胴鍋と寸胴鍋のまわりは特に汚れやすいが、ここは今でも末廣さんみずから手洗いしているという。ラーメンと真摯に向き合い吉村家の味を受け継ぎ、素材や作業のすべてに全力を注ぐ末廣さんの姿勢をそのまま表した店内と言えるだろう。
 


最後にマーコさんに末廣家Tシャツが贈呈された
 

そして店を手伝う奥様と娘さんと一緒に記念撮影。家族の温かさも知るのであった


末廣家のマーコメント
「もはやスーパーサイヤ人化された一杯で、怯えるフリーザ状態(編集注:スーパーサイヤ人となった孫悟空に対して宿敵のフリーザは怯えた。つまりそれほど驚愕する旨さであったということ)になる一杯であった。醤油感、鶏油感全てがしっかり主張しながら、鬼のバランス力を持ち合わせたまさに正気を失うほどパーフェクトであった」

過去に家系を食べたとき、何度か途中で油の重さにやられた記憶があったのだが、ここ末廣家はいくら食べ進んでもそういう気配がないと思っていたら「油に頼らない」という頼もしいこだわりがあった。さりとて軽やかというわけではまったくなく、ラーメンとしての「重さ」を感じることができた。そしてチャーシューメンにして本当によかった。
 


末廣家のラーメンは個人的にはこのように

 
 
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