吉村家から受け継がれた味! 吉村家直系店と最初の独立店が登場! ~横浜の家系ラーメン全店制覇への道~其の弐拾四~
ココがキニナル!
今回は吉村家直系「末廣家」と家系にとって歴史的な意味を持つ店「がんこ亭」を味わう
ライター:永田 ミナミ
家系有史以前の家系ラーメン店「がんこ亭」へ
続いて向かったのは京急金沢文庫駅である。駅を出て今度は京急バスに乗り込み約20分。氷取沢停留所で下車するとその店はある。
暮れなずむ街にさりげなく佇む「がんこ亭」である
目の前の笹下釜利谷(ささげかまりや)道路は交通量が多いが、周囲は金沢区の豊かな自然が広がり、ゆったりとした時間が流れているように感じられたのは激戦区とのコントラストのせいもあるだろうか。
夕食の時間にはまだ早いが、食べている人たちが何組か
店に入ると「がんこ亭」の名にふさわしいねじり鉢巻の寡黙そうな店主、荘司敏晴(しょうじ・としはる)さんがやさしい笑顔で迎えてくれた。末廣家でもそうだったが、この日はどちらもの店主も気さくな方だった。
「よくうちが家系だってわかったねえ」と笑う荘司さん
「いやあ私、前に食べに来たことあるんですよ」とマーコさん
がんこ亭のさりげなく深い歴史について
がんこ亭は1982(昭和57)年開店。荘司さんが吉村家で修行を始めたのは1980(昭和55)年だという。吉村家は1974(昭和49)年新杉田に開店なので最初期に修行したことになるが、さらに驚いたのは「吉村家から独立したのはたぶん最初」という話だった。
荘司さんと吉村さんはもともと知り合いで「店がとにかく忙しいから手伝ってほしい」と頼まれ修行を始めたそうだ。修行に入って最初のころは寒い冬に店の裏で熱湯で絞ったタオルをざるに乗せて、よく「麺上げ」の練習をしたそうだ。
もちろん荘司さんはさりげなく語るのだった
その後1982(昭和57)年に独立するのだが、当時はまだ現在のような「家系」という概念も体系もなかった。ブームが巻き起こるよりもはるかに前に純粋に吉村家で修行し、独立したのである。
だから、店の屋号に「家」をつけるということも考えなかった。「がんこ亭」の名前の由来は「味に妥協はしない」という思いを込めたという。ちなみに「がんこ亭」の名前は商標登録されていて、ほかでは使えない名前とのことで、さりげなく押さえるところは押さえてある。
店の外に貼られたこのイラストも商標登録もしたが「もう更新していない」とのこと
そして「がんこ亭」はラーメンと並んでカレーもとても美味しいと評判とのことで「なぜカレーを出そうと思ったんですか」と質問すると「だってほら、ラーメンとカレーは子どもが好きな食べ物の1位、2位みたいなところがあるでしょ」と笑う。このへんの気負いのなさも何だか素敵だなと思うのであった。
実食
さて、以前来店したことがあるマーコさんによると「家系としては極めてあっさりした味」ということで、それはそれで楽しみだな、そろそろ注文しようと思ったところでマーコさんが口を開いた。
「これだけ無料トッピングが大盤振る舞いなところも少ないですよね。白髪葱だけで100円は取れますよ」そう唸るマーコさんに「まあ、うちは有料は卵と海苔だけだから」と荘司さん。
テーブルの上にずらりとならぶ無料のトッピングと画面隅で光るカフスボタン
白髪葱は多いときは1日に10kgほど出る日もあるという。ニンニクを入れる人がいちばん多いが、白髪葱や生姜は「好きな人はいっぱい入れるね」ということだ。
券売機の上に貼られた8種類のトッピングはすべて無料
券売機のメニューは卵、海苔、半ライスの有料トッピングのほかはラーメン、チャーシューメン、ビーフカレーの3種類にサイズや辛さのバリエーションがあるのみというシンプルな構成で、「いちばん小型の券売機でもまだ7つも余ってるよ」と荘司さん。
さて、ではいよいよラーメン(650円)と半カレー(280円)を注文して席に着いた。
豊かな森を眺めながら蝉時雨を聴くことしばし
まずは半カレーが登場。ほろほろに崩れたビーフがいい感じだ
ではいただきます
あ、美味しいカレーだ。そしてさりげなく忍び寄るほのかな辛さ
皿の上のカレーに野菜の姿は見えないが、裏ごしした野菜がたくさん入っているので、もちろん辛さだけでなく野菜の甘みもある。ほのかだがしっかりと舌に訴えかけてくる辛さは「辛さ2倍」になるとなかなか手ごわいかもしれない。
とそこへラーメンが登場。強烈な主張はないが確実に美味しそうな佇まい
おお、スープは噂通りあっさりとしているが、それでも家系らしい深みもある
続いて麺をいただくことに
こちらの麺は「自分のラーメンに合う」と選んだ増田製麺とのことで、家系らしいもちもち感
うん、美味しい。濃厚さを求める熱烈家系ファンにはもしかしたら少々物足りないかもしれないが、この醤油ラーメン寄りのすっきりとした味は個人的には好みである。チャーシューはしっかりと味がついていてほろりと箸でもくずれるやわらかいタイプだ。
こだわりは「豚と鶏から味を最大限引き出す」という荘司さん。「油を抑えて丁寧に取ったスープを味わってもらうことを目指した」という言葉に納得である。ちなみに夏の間は醤油(塩味)を強めに効かせているとのことで、季節によって変わる人の味覚に合わせ調整もしている。
もちろん油の量も含め、麺のかたさ、からさなどは好みに合わせて調整できる
その横でマーコさんもスープからスタートして
麺を口に運び「うん、そうそうこのあっさり感」と過去に食べた日を振り返っていた
それからマーコさん的に「がんこ亭」のカレーは「あ、結構辛いな」とのことである
ちなみに大盛(麺2玉)をスープまで完食した人にはサービスがある
こちらが永久に大盛が50円引きになるその「大盛喰之証」である
カレーとラーメンを堪能して店を出るころには時計は午後7時に迫っていた
がんこ亭を食べて
さて、吉村家で2年ほど修行を積んだのちに独立した「がんこ亭」は、33年の間に少しずつ変化しながら現在の味に至る。
「吉村家で習って同じ材料、同じ方法で作っても、やはりそれぞれ違うからね」と荘司さんは言う。厳然たる「家系」というジャンルや味が確立するはるか以前に独立した「がんこ亭」にとって、吉村家の味は遥かな高みにある揺るぎない味、守るべき味というよりは「がんこ亭」として歩みはじめるための土台であり出発点であったと言えるかもしれない。
駅から距離があるため客層は地元の人が多いかと思えば「大盛喰之証」が切れていて、あとで郵送すると住所を書いてもらうと、東京やもっと遠方の住所であることも少なくないそうだ。
店の歴史もラーメンとカレーの味も、さりげなく奥深い「がんこ亭」であった
がんこ亭のマーコメント
「現在の濃厚系家系ラーメンとは対局に当たる超ライト家系で、ある種歴史感を感じさせてくれる一杯。ただ、それ以上に今回の店のネタ度が物凄すぎて、もはや味どうこうはどうでもよく感じてしまったのも正直なところだ」
なるほど、確かにさりげなく独立し、さりげなく家系を引き継ぎながらさりげなく30年自分の味を探し続けてきた「がんこ亭」のラーメンは、家系有史以後の熱気や、家系のみならずラーメン戦国時代とも言える乱立と激戦区がつくりだす「ラーメン道」的世界観とは隔世の感がある。
学生時代にはそういうロマンに魅せられたこともあったが、しかし今は個人的にはこういうさりげなく美味しいラーメンに惹かれる気持ちも日増しに強くなっている気がするので、個人的にはこの味はちっともどうでもよくないのであった。
両店の評価をグラフ化したいので数値をと言われ「がんこ亭」「末廣家」ともに提示はしたが、いろいろな家系店を食べ比べて相対化できるほどの分母と舌は持ち合わせていないので、上記のグラフはあくまでも主観にもとづいた「印象」である。
取材を終えて
帰り道、マーコさんにさっき聞こうとして聞けなかった、なぜラーメンは「語り」の対象になるのか、という質問をぶつけてみた。「醤油、みそ、豚骨みたいにスープがいろいろあって、麺もいろいろあって、種類が豊富だからじゃないですか」専門家の答えは考えていたことと同じであった。
すっかり暮れた車窓を眺めながら、音楽が好きな人たちが機材や参加ミュージシャンやレーベルについて語り合うように、サッカーファンが出身国やユースチームや所属リーグの傾向やポジションの変化について語り合うように、ラーメンについても修行店や製麺所(あるいは自家製麺)やスープなど語りやすい要素がたくさん詰まっていて、それでいて音楽やサッカーよりも普遍性が高い「食」だからなのかなと考えていたら横浜駅に到着。
「ああ暑い暑い。じゃあ私こっちなんで」
猛暑日にこだわりの長袖シャツと長い襟足を掻き上げながら、マーコさんは雑踏のなかへ消えていった。
―全店制覇まで残り31店舗―
※上記軒数は現段階で調査できた店舗数となります。開店・閉店・発見により軒数が変動する場合があります。
2015(平成27)年8月21日時点の家系家系図<クリックして拡大>
―続く―
取材協力
末廣家
住所/横浜市神奈川区六角橋1-14-7
電話番号/045-642-3400
営業時間/月~土 11:00~21:00(スープ無くなり次第終了)
定休日/日曜日
がんこ亭
住所/横浜市磯子区氷取沢町356
電話番号/045-773-9660
営業時間/10:00~20:00
定休日/日曜日
としくんさん
2018年06月05日 20時20分
末廣家に2年間も行かないような人が家系マイスターを名乗るとは片腹痛いわ!
shinobu0614さん
2016年11月29日 05時46分
末廣家は本当にうまい。吉村家は完全に超えてるな。ぜひチャーシュー麺と野菜畑で食べてもらいたい
てぃかしさん
2016年02月04日 07時50分
私は吉村家(杉田店の頃から)、がんこ亭共に好きで30年程前から食してます。今回はどのような表現で評価 なさるか興味があったのですが「超ライト家系」の一言で済ますとは…これで店が違えばあれやこれやと最後に"フックが無い"と言うと思われるのですが。店(店主)によって態度変えてませんか?過去の他店の記事を読み返しても結局の所好みでしかないのでは?と。そしてこの記事、最後の帰りの下り全く必要ないです。まあでも私も技術者ですが修業を2年しかしていないとは驚きました。僕の業種は最低でも15,6年はかかりますが、ラーメンの修業期間ってその程度?