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横浜・大岡川の「ど根性桜」の運命は?

横浜・大岡川の「ど根性桜」の運命は?

ココがキニナル!

知る人ぞ知る大岡川の「ど根性桜」が伐採されてしまうという。一体なぜ?そしていつ?はまれぽ編集部が執念の長期取材を敢行!(はまれぽ編集部のキニナル)

はまれぽ調査結果!

「ど根性桜」の伐採は、治水保全のためにやむを得ないこと。今年の春も見事に花を咲かせた桜は、ついに6月6日伐採されてしまった。ところがドッコイ・・・

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ライター:結城靖博

お花見最盛期に「ど根性桜」最後の雄姿を激写しに行く!


 
2019(平成31)年3月の終わりごろ、各地の花見所の開花状況を伝えるテレビの報道・情報番組で紹介され、一般にも知られることとなった大岡川(おおおかがわ)護岸壁に咲く「ど根性桜」。
まずは実物に対面すべく、お花見最盛期の4月2日、南区弘明寺(ぐみょうじ)へと向かった。
 


弘明寺商店街・観音橋(かんのんばし)からの桜の眺め

 
平日にもかかわらず大勢の花見客でにぎわう大岡川プロムナード。川沿いの地元商店街の出店の方に尋ねると、「ど根性桜」の場所はすぐに教えてもらえた。
 
そこは、観音橋~弘岡橋(ひろおかばし)間の弘岡橋寄り、住所で言えば大橋町(おおはしちょう)3丁目付近だ。観音橋側から見て向かって右手の護岸。川沿いの道のはす向かいには、大岡小学校がある。
 


ど根性桜の場所 © OpenStreetMap contributors

 
辺りは大岡川プロムナードの中でもソメイヨシノの巨木が目立ち、屋台も多く、花見客の活気にあふれていた。だが「ど根性桜」は、人通りの多い沿道側の護岸壁の下方にあるので、わざわざ川岸から下を見降ろさなければ存在に気づきにくい。
 
そこで、弘岡橋を渡って川の反対側へ回り込んでみる。するとそこからは、プロムナードの桜並木から独り離れて、護岸壁から雄々しく幹を張り出す「ど根性桜」の「ど根性な風情」が、まざまざと見えた。
 


今まさに満開の花を咲かせる「ど根性桜」

 
ホントに不思議。なんでこんなところから桜の木が生えているのか?
とにかく、今年限りでこの姿が見られなくなるかもしれないのだ。まずは、さまざまな角度から、その「ど根性ぶり」を写真に収めることにした。
 


同じ角度からググッと寄ってみた。ブワッと咲いている

 


ちょっと左側に移動してポーズを決めてもらう

 


この角度から寄ると、護岸壁にしっかり根を張る様子が見て取れる

 


右側に移り少し離れて激写。この角度からも「孤高の根性」がうかがえる

 


こちらから見ても、根を張る力強さが伝わる

 
ただ、こうして撮影していても、筆者がレンズを向ける先に関心を寄せる花見客はあまりいなかった。お花見シーズン真っ盛りにここを訪れる人々は、主役のプロムナードの桜並木に目を奪われているようだ。
 
弘岡橋をまた渡って、対岸のプロムナード側からも写真を撮る。
 


途中、弘岡橋からの眺めもパシャリ

 


そして真上からのぞき込んでパシャリ

 


真上から根に迫る。ガシッと護岸壁を鷲づかみしているように見える

 


写真を撮っていると、釣られたように川を見下ろすカップルがいたが・・・

 


多くの花見客は宴に夢中。その背後で「ど根性桜」は健気に咲いていた

 
お花見最盛期の現地は、屋台を覗きながら沿道を練り歩く行列や、宴に盛り上がる団体客の多さで落ち着いた取材が難しい。とりあえず、もっとも美しいころの「ど根性桜」の姿を写真に収めることができたことを良しとして、現地を後にした。
 
 
 
「ど根性桜」最後の散りぎわを見に行く
  
そして一週間後の4月9日、「ど根性桜」の散りぎわの雄姿をとらえるべく、ふたたび現地へ向かった。
 


すでに「ど根性桜」の花はほとんど散っていた

 
プロムナードの桜並木はまだたいぶ花が残っていたが、ど根性桜の花はほとんど散ってしまっていた。なぜだろう?
いずれにせよ、川面を流れる桜の花びらの眺めも美しい。散りぎわの大岡川プロムナードの花見も風情がある。最盛期のような人混みもなく、落ち着いた時間を過ごせるのもいい。
 
実際、あえてこの時期を狙って訪れる花見客もいるようだ。
熱心に桜と川面に大型カメラのレンズを向ける年配の女性がいたかと思うと、筆者の隣りには、飽かず川面を眺め続ける高齢の男性がいた。
声をかけてみると、「花筏(はないかだ)を見に来た」という。「花筏」とは川面を帯状に流れる桜の花びらのことだ。ご近所にお住まいで、毎年この散りぎわの時期を楽しみにしているそうだ。
70代のその男性によると、ちょうど「ど根性桜」の生えている周辺こそ、川が少しカーブしてたまった花びらが渦を巻く、「花筏の名所」だという。
 


確かに「ど根性桜」の周辺は他所より多く花びらがたまっていた

 
昔からこの場所に花筏を見に来ている方なので、当然「ど根性桜」のことは前からご存知だろうと思って尋ねると、意外にも「今聞いて初めて知った」という。
この木が今年で伐られてしまうかもしれないことを伝えると、「そうですか。それはそれは・・・」と、しばし感慨深げに「ど根性桜」を眺めていた。
 
男性が去った後、桜を眺めながら散策する老夫婦が通りがかったので、向こうに見える護岸壁の桜が「ど根性桜」と呼ばれていることを知っているか訊いてみた。
すると、50年ぐらい前からこの近くに住んでいるという80代の老夫婦も、やはり「知らなかった」という。
今年でなくなってしまうかもしれないことを告げると、お二人ともやはり神妙なお顔はされたものの、ご主人が「まあ、実際まわりのコンクリがひび割れちゃってるし、仕方ないんだろうなぁ」と、わりとクールにつぶやいた。
 


根のまわりの護岸壁の様子

 
確かに、そう。満開時には花に覆われてあまり気づかなかったが、「ど根性桜」周辺の護岸壁は、「コンクリがひび割れている」というよりも、ブロック同士の隙間が目立つ。
 
シーズンも盛りを過ぎ、川沿いの屋台はほとんど撤収していたが、「ど根性桜」のほぼ真上にあるチョコバナナの屋台は、まだ営業を続けていた。
 


取材中のランドマークにもなったチョコバナナの屋台

 
弘岡橋を渡って、チョコバナナ店を訪ねる。
 
店は若い男女二人が切り盛りしていた。男性から話を聞くと、毎年同じこの場所で屋台を開いているそうで、「ど根性桜」のことも知っていた。ただ、それがあるからここで店を開いているわけではなく、たまたまだという。
先日、テレビ局から取材を受けたそうだ。けれども、今までお客さんから「ど根性桜」のことを訊かれたこともないし、自分から話したこともないという。
 
ちょうどそのとき、ママ友らしい二組の若い母子がチョコバナナを買いに来たので、買い終わった後、声をかけてみた。
 


チョコバナナの品定めに夢中の男の子

 
お母さんの一人が、チョコバナナを子どもと一緒にかじりながら、気さくに取材に応じてくれた。
「20年ぐらい前から近くに住んでいて、いつからかは忘れたけど、気がついたときには(ど根性桜は)そこにあった」という。「ど根性桜」と近所で呼ばれていることも、もうすぐ伐られることも知っていた。
20年前ということはその方が子どものころだ。そのころから住んでいる地元の若い人のほうが、川べりを遊び場にして大岡川に親しんでいるのかもしれない。また、伐られることはテレビで知ったという。
ただ、「ど根性桜」がなくなることに特別な感慨はないという。「だって、土手から生えてる草とか、ほかにいっぱいあるし」とのこと・・・。それとこれとはちがう気もしたが、どうやら「花より団子ならぬチョコバナナ」らしい。
 
聞き込みの結論――地元の人でも知らない人が、わりといる。また、伐られることに皆さん意外とクールな反応。
どちらかというと、川岸に立ち止まり川面を見下ろす人々の多くは、延々とボラの稚魚をついばみ続けるアオサギの姿のほうに関心を寄せていた。
 


休みなく稚魚を食べ続けるアオサギ。格好のえさ場であるらしい