横浜・大岡川の「ど根性桜」の運命は?
ココがキニナル!
知る人ぞ知る大岡川の「ど根性桜」が伐採されてしまうという。一体なぜ?そしていつ?はまれぽ編集部が執念の長期取材を敢行!(はまれぽ編集部のキニナル)
はまれぽ調査結果!
「ど根性桜」の伐採は、治水保全のためにやむを得ないこと。今年の春も見事に花を咲かせた桜は、ついに6月6日伐採されてしまった。ところがドッコイ・・・
ライター:結城靖博
「ど根性桜」はほんとうに伐られるのか?神奈川県に問う
2019年の花見シーズンも終わりを迎えた4月中旬、大岡川水系の土木事業設計・監督、維持管理を担当する神奈川県横浜川崎治水事務所の工務部河川第二課を訪ねた。
西区岡野町にある横浜川崎治水事務所
話を伺ったのは同課課長の於保茂治(おほ・しげはる)さん。
於保課長によると、あの場所になぜ桜が自生したのかは不明。また、月1ペースで河川をパトロールしていて、あそこに木が生えているのでいずれ処理しなければならないとは考えていたが、今回テレビ局からの問い合わせがあるまで、「桜」とは認識していなかったそうだ。
いずれにせよ、あそこまで大きくなると河川が増水したとき、流れてきたゴミが枝に引っかかり護岸壁に大きなダメージを与える恐れがあるので、これ以上成長する前に早めに伐ったほうが良いとの判断に至ったそうだ。
いつ、どのような方法で伐るかは現在検討中だが、梅雨に入る前には実施したいという。「連休明けの5月中旬ぐらいでしょうか・・・」と。
「県民の皆さまに対しては、せっかくの桜を伐ってしまうのは心苦しくもありますが、なにより河川の保全を第一に考えなければならないので、やむを得ないことです。どうかご理解をいただきたい」と於保課長は言う。もちろん、もっともな話である。
ちなみに、今までも護岸壁に生えた雑木を伐ったことはあるが、あれだけの、しかも桜の木を伐るのは初めてだそうだ。やはり、稀な事例であることは確かなようだ。
伐採日が決まったら必ず連絡をくれると約束していただき、事務所を後にした。
「ど根性桜」伐採の日を待つこと一月半
以後は、治水事務所からの連絡を待つ日々がしばらく続く。
その間、はまれぽ「桜開花予想も!横浜・桜の名所お花見最新情報2019」の記事で、大岡川プロムナードを取材させていただいた南区役所総務部区政推進課に問い合わせてみたが、同課も「ど根性桜」の存在は把握していなかった。どうやら、行政サイドから知られることなく、密かにかつ逞しく成長を続けていたらしい。
また、ネットで調べてみると、古いところでは9年前の個人ブログで、すでに「ど根性桜」を紹介しているページがあった。写真を見ると今よりもだいぶ細くて小ぶりだが、しっかり花は咲かせていた。少なくとも10年以上前からそこにあったことは確かなようだ。
そうこうするうち、とうとう6月に突入。だんだん梅雨が近づいてきた。
月が替わって数日を経たころ、ようやく治水事務所から電話が入った。「伐採日が6月6日に決まった」と。残念ながらその日は別件の取材で動けないため、伐採の様子は、業者が記録として撮る写真を後日提供していただくことにした。
伐採前日、「ど根性桜」最後の雄姿に会いに行く
その代わりと言ってはなんだが、伐採前日の6月5日、「最後のど根性桜の雄姿」を写真に収めるべく、三たび現地を訪れた。名残を惜しむように、また何度もシャッターを切る。
新緑がみずみずしい「ど根性桜」
相変わらず根はガッチリと護岸壁に食い込んでいる
まわりの緑も美しい。うん?「まわりの・・・」
そういえば「ど根性桜」の右横には、同じように護岸壁から生える桜以外の木々がある
右側の木々の根も護岸壁にしっかり根を張っているように見える
これらの木々も、明日伐採されるのだろうか?
ふと、そんな疑問を抱きながら、「ど根性桜」の最後の雄姿に別れを告げた。
おやおや、またアオサギがいた
いよいよ、「ど根性桜」運命の日が来る
そして2019(令和元)年6月6日、ついに「ど根性桜」伐採の日がやって来た。
ただ、治水事務所からご提供いただいた写真の中で、作業中を写したものは次の1枚だけだった。あとは、作業前後の桜の様子を撮ったものなので、それは筆者の取材写真で充当するとして、作業中の貴重な1枚を掲載しておこう。
写真提供:神奈川県横浜川崎治水事務所
伐り終えた桜を沿道に引き上げているところ。中心の幹の部分かどうかは定かでないが、伐採した木を人力で上げているように見える。こうしてみると、まわりの沿道の桜と比べてずいぶん可愛らしい。
ちなみに、作業は3名で2時間ほどかけて終了したそうだ。船やボートを出動しておこなうような大掛かりなものではなかったという。
「ど根性桜」伐採翌日の現地を訪ねる
伐採の翌日、筆者は四たび現地を訪ねた。この時点で、まだ筆者は治水事務所から伐採時の写真提供を受けていない。だから、現地にたどり着くまでは、ほんとうに前日伐られてしまったのか、半信半疑の思いだった。だが、現地に立つと、その場の光景は、事実をあからさまに伝えていた。
あったはずの場所に、あったものはすでになかった
グッと寄ってみた
こうして切り株だけの姿になると、まるでグローブのよう、いや、怪獣の手のように、いかにしっかりと護岸壁に根がしがみついていたか、その力強さが一層伝わってくる。
どの角度から見ても
どの角度から見ても
どの角度から見ても、ないものはない
だが、「あるものはある」とも言える。つまり、根からごっそり除去されてしまうのかと思ったが、切り株はこのように残っている。「ど根性桜」が完全に消滅してしまったわけではないのだ。
ところで、「ど根性桜」の右側の木々はどうなったかというと・・・
相変わらず青々と茂っていた
根の様子も一昨日と変わらない
横浜川崎治水事務所にふたたび話を聞く
この日、奇しくも関東は梅雨入り宣言をした。「梅雨入り前の伐採」を計画していた治水事務所は、ギリギリながら予定通り事を運んだことになる。
伐採後の様子を見に行った後、無事任務を遂行した治水事務所の於保課長にあらためて電話し、いくつかの疑問を投げかけてみた。
なぜ根株を残したのか尋ねると、根が深く食い込んでいるため、それも除去してしまうと護岸壁が崩れる恐れがあるからだった。
また、切り株からふたたび芽が出てこないか訊いてみると、「もし出てきたら、また時期を見て切るしかない」という。
「とにかく、枝にゴミが引っかかって護岸壁に大きなダメージを与えるという危険は、今回の処置で回避できました」
最後に、右側にある別の木は伐る予定がないのか尋ねると、「今のところない」とのこと。護岸壁の樹木伐採には非常に費用がかかるそうだ。今回は、今後さらに成長の恐れがあり護岸壁へのダメージが特に懸念される桜の木を、優先的に伐採したということらしい。
「ど根性桜」の正体が判明!
後日、「横浜の「桜」がついている地名の場所に桜が咲いていない訳」の取材でお世話になった保土ヶ谷公園園長の加藤岳二(かとう・がくじ)さんに、植物の専門家として意見を伺うべく、満開時と伐採後、2枚の「ど根性桜」の写真を添付してメールで問い合わせてみた。
すると、「桜については、さほど詳しくないですが」と前置きされたうえで、一般論として丁寧な回答をいただいた。
まず、あの「ど根性桜」の品種は、大岡川プロムナードの桜並木に植えられた「ソメイヨシノ」ではなく、「ヤマザクラ」の一種だという。これはわざわざ「県の事務所にヒヤリングしたうえでの判定」だそうだ。
「ど根性桜」の散りぎわを見に行ったとき、沿道の桜並木はまだ花を咲かせていた訳も、これで納得できた。品種が異なっていたからなのだ。
確かに沿道のソメイヨシノとは色も枝ぶりもちがう
ソメイヨシノなら、いわばクローンなので接ぎ木で増殖させる必要があり、種子から発芽することはなく、自然生育はほとんどあり得ないそうだ。
しかし、ヤマザクラは古くから日本の山里に自生する樹木なので、鳥などがどこかから種子を運んできて、この場所で自力で生育しても不思議ではないという(とすれば、あのアオサギが第二の「ど根性桜」を誕生させてもおかしくないということか)。
しかも、ヤマザクラは生育力が旺盛なので、この切り株に成長抑制剤などの薬剤を塗っていなければ、早ければ今年のうちにここから芽が出て、数年後にまた花を咲かせる可能性もあるそうだ。
取材を終えて
加藤園長からのメールは、最後に「あまり面白くない回答で申し訳ございません」と結ばれていたが、とんでもない。
なんだか今回の取材のすべてに合点がいき、また終着点で明るい希望をいただいたような、そんなメールだった。感謝である。
と言ってしまうと、今度は治水事務所の於保課長に申し訳ない気持ちになる。
今回の記事で筆者はさんざん「最後の、最後の」と書いてきたが、どうやら「ど根性桜」の命の火は、ドッコイまだ尽きていないらしい。いずれまた、成長した木を伐採しなければならない日がやって来るかもしれない。でもそれは、何年もずっと先のことだろう。
「ど根性桜」の取材は、まだまだ終わりそうにない。芽が出ているかどうか、年内にまた現地を訪ねてみることにしよう。
―終わり―
取材協力
◆神奈川県横浜川崎治水事務所 工務部河川第二課
住所/横浜市西区岡野町2-12-20
電話/045-411-2500(代表)
◆横浜市南区役所 総務部区政推進課
住所/横浜市南区浦舟町2-33
電話/045-341-1212(代表)
◆保土ヶ谷公園
住所/横浜市保土ケ谷区花見台4-2
電話/045-333-5515(代表)
のけたさん
2019年06月29日 08時50分
以前、土曜の朝の鉄道旅番組中でも紹介されていた弘明寺の呉服屋さんがど根性桜に思い入れがあり、コメントされていました。