川崎市多摩川の河川敷で行われる「水辺の楽校」っていったい何?
ココがキニナル!
川崎で、小田急線の河川敷付近に「水辺の楽校」なる所があるそうです。何やら釣りをしている人がたくさんいたのですが、どういう所なのかぜひレポートをお願いします。(へこみんさん)
はまれぽ調査結果!
「水辺の楽校」とは官民一体となって子どもたちに川の自然を体験型で教える場。大人も子どもたちと童心に返って自然との共存のあり方を考えさせられる活動だった。
ライター:小岩美穂
水辺の楽校の先生たち
捕まえたカニは先生たちがその生態を随時解説してくれる。この時は大人たちも子どもたちと同じような眼差しで先生の話に耳を傾けていた。干潟に生息するカニだけをとってみても、泥の中に隠れて暮らすカニ、石の裏を好んで暮らすカニ、草むらの陰に身をひそめるカニなど、生態はさまざま。
捕ったカニの特徴を教えてくれる先生
とても慣れた様子で子どもたちに説明する先生たちの中には、この「水辺の楽校」で教え始めて10年以上の大ベテランもいて驚いた。およそ50代~70代の先生たちは、特に学者や研究者ではない。なぜそんなに詳しいのか伺ってみると、長年渓流釣りや海でダイビングをしていたりするうちに、自然と水辺の環境に詳しくなっていったのだそうだ。そして子どもたちに教えるという立場をとる以上は、ボランティアとはいえ自分たちもさらなる観察を欠かさないようにしているという。
水面のかすかな動きで魚の気配を察知する先生
今回の観察場所となっている多摩川沿岸の干潟に関しても、「水辺の楽校」の佐川麻理子(さがわ・まりこ)さんは、ほぼ毎日この干潟館に来ては、川の様子を見に足を運んで知識を蓄えているという。水の水位や流れ、生き物の動きなどを毎日のように見つめては、日々その微々たる変化に目を見張っているとのこと。
今日も川の様子を見守る凜々しい佐川さん
佐川さんは「子どもたちに教える前に、まずは自分が一番川のことを知っていないといけない」と語り、「次また会う時までに、子どもたちに新たな発見を伝えられるように」と話してくれた。みずみずしい表情で川のことを語るその横顔を見ていると、こちらにまでその好奇心が伝染してくる。子どもたちに自然の魅力を伝えるためには、日々の努力を怠らないのだ。
干潟館に戻ってからも子どもたちに生き物の生態をレクチャーする先生
佐川さんに、どうしてそこまで細やかな観察をしているのか尋ねてみると、「肉眼でしか見えないものがたくさんあることを子どもたちに伝えたいから」なのだそう。毎日そこまで劇的な変化がある訳ではないが、日々の積み重ねが、ちょっとした川の変化に気づけるかどうかを左右するのだという。
実際に自らその場に足を運び、肉眼でものを見ていると昨日と今日の微妙な違いに感覚的に気がつけるようになる。「最近はネットで物事を知った気になってしまうけど、自分の目で見て確かめてみることも大事。子どもたちにはその場、その瞬間にしか見えない些細なことも見つけられるようになってほしい」と自然との触れ合いを体験する大切さを教えてくれた。
この日子どもたちがカニ以外に見つけたのは、小ぶりのシジミや1cmにも満たないハゼの稚魚。よく泥の中で、こんなにも小さな生き物を見つけられるなと、純粋に感心してしまった。
数mmしかないハゼの稚魚!
自然にも優しく、人にも優しく
ひと際たくさんの生き物を捕まえていたのは、3歳頃から4年間「楽校」に通い続けているという男の子。慣れた手つきでカニをつかんでは、初めて参加した男の子たちにもカニをよく見つけられる場所を教えてあげていた。そして捕まえたカニが珍しい種類だったときは、周りにいる子たちと一緒に仲良く観察する。もう何回も通っていると、すでに知っていることの方が多いような気もするが、男の子いわく「生き物を触るのはいつも楽しい。新しい種類の生き物を見つけるのが毎回楽しみ」とのこと。
毎回同じ場所に同じ生き物がいるとは限らない。以前いた生き物がすみかを移動させたり、そこに違う生き物が住み着いていたり、そんな新たな発見を喜んでいる姿は微笑ましかった。
肩寄せ合って仲良く観察
草むらの近くは生き物がいる確立が高いおすすめスポット
生き物を捕まえると先生たちからまず教わることは「捕った生き物は、元いた場所に戻してあげること」。それは、自分で捕ったとしても、それは自分のものではなくあくまで自然から借りているものという意識を持っていてほしいため。
その教えが身についているからか、取り合うこともなければ、数を競い合うこともない様子の子どもたち。誰の所有物でもない生き物、みんなでシェアして楽しんだ後は自然に返す。
観察したら自然に返してあげよう
お昼の12時ころ、観察が終了。先生はたくさんの長靴の足跡がついた干潟をあえて子どもたちに振り返らせて見せた。「来る前は平だった干潟が、今は皆の足跡で凸凹してるでしょう。今ここに住んでいるカニたちは自分たちのすみかが変わってしまってびっくりしています」と話す。
振り返って見た、皆が去った後の干潟
見ると、私たちが足を踏み入れる前はなめらかだった干潟が、たくさんの足跡でぼこぼことうねっている。先ほどまで戯れていたカニたちの顔が浮かぶので、少し申し訳ない気持ちになった。立ち去ってしまう前にその光景をきちんと目に焼き付けると、自分たちは少なからず、彼らの暮しを脅かしてしまったのだという意識が湧き、それと同時に、観察させてもらえたことに対しての感謝の気持ちも生まれた。
みんなすっかり泥んこに
安心して泥に帰って行くカニたち
「水辺の楽校」は、自分の足で歩き手で触れることで生き物の生態などを学び、水辺の自然を体験できる貴重な学びの場だった。
自分たちの生活圏内にある自然環境は、通勤途中に通り過ぎたり、周りを散歩するだけでは分からない部分も多いが、この体験を通じてもう少し敏感にアンテナを張ってみようという感覚になった。
取材を終えて
川での観察が終わった後は、任意参加で干潟館にて座学形式の授業も行われた。質問タイムでは子どもたちの素朴な質問に先生たちが真剣に答えてくれる様子が印象的だった。
川から上がった後はみっちり復習
例えば「どうしてカニは小さいの?」という、急に聞かれると思わず唸ってしまうような質問に対しても先生は、「生き物は自分の暮らす場所に順応して進化するんだ。ここに暮らすカニは小さいけど、世界には大きなカニもいる。多摩川に何メートルの巨大なカニが住んだら他の生き物は暮らせないでしょう?」と先生の回答に私も思わず頷いた。
子どもたち向けの活動ではあるが、一緒に参加している大人たちもきっと、改めて考えさせられることの多い内容なのではないかと思う。
今日干潟で見つかった生き物はカニとシジミ
-終わり-
取材協力
川崎市建設緑政局緑政部多摩川施策推進課
電話/044-200-2268
http://www.city.kawasaki.jp/kurashi/category/29-5-16-2-3-0-0-0-0-0.html
※川崎市の「水辺の楽校」への問い合わせは、川崎市建設緑政局緑政部多摩川施策推進課まで