横浜の趣きある茅葺き屋根の古民家がある場所を教えて!
ココがキニナル!
横浜市内にある茅葺屋根の建物で、現在でも現役(住居、物置等)の建物ってあるの?(にゃんさん)/一般に公開展示されている古民家は、市内にどれくらいあるの?(ねこぼくさん)
はまれぽ調査結果!
総数は不明だが、一般公開の茅葺き屋根の古民家は市内に複数存在する。個人宅もあるので、プライバシーに配慮して鑑賞されたい。
ライター:松崎 辰彦
茅葺き屋根に浮かぶ名家の威光
飯田家14代目の助知さんは、長年にわたり高等学校教師として教育に携わったが、藤沢市内の県立高校校長を最後に定年退職し、現在は神奈川県立学校教職員退職者会会長や財団法人神奈川県高等学校教育会館理事長、社会福祉法人仁成会理事などを務めている。
ご自宅の茅葺き屋根に関して、飯田さんはいう。
「この家のように茅葺き屋根を維持するとなると毎年相当の金銭的な負担があり、正直いって何らかの経済的基盤がある家でなければ難しいのではないかと思います」
飯田さんは1996(平成8)年に長屋門の全面解体修理と、主屋の茅葺き屋根の葺き替えを行った。
長屋門の解体修理を行った(画像提供:飯田家)
「茅葺き屋根を修理できる職人さんがもう数少なく、このときの解体修理では県外から来てもらいました」
このようにおよそ20~25年に一度、葺き替えをして茅葺き屋根を維持している。
肝心の住み心地はどうなのだろう。
「夏の快適さは何物にも代え難いです。扇風機一つで事足ります。その代わり、冬の寒さが大変です。家が広いのでエアコンなど役に立たず、コタツを引っ張りだして家のなかでも上着を着ています」
森が間近に迫っている
茅葺きならではの苦労もある。
「茅は放っておくと虫が湧き、それを目指して鳥も集まり、茅が荒らされたりします。また茅は湿気で腐ったりも当然しますので、その対策も必要になります」
話を聞けば聞くほど、維持管理に途方もなく費用も労力もかかる茅葺き屋根。しかし、飯田さんは屈託がない。
「先祖が近隣の農民たちの意を体(たい)して幕府と掛け合い、当時は五公五民が標準だった年貢の比率を、このあたりでは三公七民まで引き下げました。またこの周辺は鶴見川による水害の多い土地だったのですが、その対策も積極的に行いました。こうしたことで飯田家は地元民の信頼が厚く、今でもなにかあると多くの人が助けてくれます」
左から助知さんの祖父・助夫氏(大綱村村長・県会議長)と父・助丸氏(横浜市議・県議)
現在でもさまざまな行事の中心である飯田家だが、1888(明治21)年に一度火災で消失し、翌年復元したという歴史を持つ。それ以来、横浜大空襲でも運よく焼失を免れて今日に至っている。
「文庫倉に保管していた文書類が助かったのが幸いでした。歴史的に非常に価値のある文献で、現在学者の間で『飯田家研究会』が組織され、文書をもとにさまざまな研究がなされています」
名家のみが持つ力と財産。茅葺き屋根は、そのステータスシンボルにも思える。
現代でこそ光る茅葺き屋根の魅力
年々少なくなる茅葺き屋根職人。現在、茅葺き屋根を維持修理する側はどのような見解をもっているのだろう。
川崎市にある川中工務店の市川茂さんは、横浜でも茅葺き屋根工事を手がけるなど、古民家と深く関わっている。
川中工務店の市川さん。茅葺き屋根を愛する一人
市川さんは祖父が宮大工。自身が家の跡取りとしての修業中に茅葺き屋根の魅力にとりつかれ、現在は工事の現場監督をするなどして茅葺き屋根の修理や復原を行っている。
茅葺き屋根の復原 (画像提供:川中工務店)
茅葺き屋根を手がける上での苦労を聞いてみた。
「例えば神奈川県の屋根を直すために県外から職人さんを呼んだ場合、元請けが何も説明しないでその人に任せたら、その人のやり方で屋根を葺いてしまいます。こちらがその土地の葺き方をよく調査して、工事に入る前に全体的な構想を職人さんに示さないと、その職人さんの流儀になってしまうわけです。ですから監督もよく勉強して、茅葺き屋さんが納得できるような説明ができないといけないのですが、勉強したくて本屋に行っても詳しい本がありません。自分で調べるしかないんです」
建築資料を調べる市川さん
茅葺きは技術的にも難しいと市川さんはいう。
「どこかの職人の弟子にならないと覚えられないし、そうそう入れてもくれません。また、せっかく弟子になったのにすぐにやめていく人もいます」
後継者がなかなか、育たない世界のようだ。
子どもたちに体験学習をさせる(画像提供:川中工務店)
市川さん自身は茅葺き屋根の魅力をこう語る。
「茅葺き屋根というわけではなく古民家に関して思うことですが、古いものを残してほしいということですね。古民家は屋根もいいし、壁もいいし、周囲の光景もいい。人間だって、子どもがいて中年がいて、おじいちゃんがいてこそ社会です。古い家も、残してほしいです」
都市デザイン室の小田嶋さんはいう。
「茅葺き屋根のお宅は、皆さん苦労しつつ茅葺きを維持しておられます。またメディアに掲載されると、公共施設と勘違いした人が『今日は見せてくれないの?』などと訪ねてきたりして、その応対だけでも大変です。
もし茅葺きの個人宅を見たら、どうかプライバシーを配慮して、遠目で眺めるだけにしていただきたいと思います」
かつての日本の風情を伝える茅葺き屋根。効率重視の現代にこそ、その魅力は際立って見える。
取材を終えて
横浜市には、本文に挙げたほかにも本郷ふじやま公園内の旧小岩井家住宅、都筑民家園内の旧長沢家住宅、あるいは横浜市農村生活館みその公園内の旧横溝屋敷といった一般公開の茅葺き屋根の古民家がある。いずれもかつての日本人の生活を現代に伝える、質朴で懐かしさにあふれた建物である。
茅葺き屋根は心を和ませる
のみならず一般の民家として、茅葺き屋根を維持しているご家庭もある。そうした個人宅への取材を望む声もあるが、いろいろ問題もあり、今回は本文中のように港北区の飯田さん宅への取材にとどめた。
取材を快諾いただいた飯田さんには、衷心より感謝する次第である。
茅場が少なくなり、技術を継承する職人も年々減っている。茅葺き屋根の柔らかな形状は郷愁と温かみを感じさせる。維持管理も大変であろうが、どうか現存の茅葺き屋根建築の保存、そしてその技術の将来にわたる伝承を期待したい。
―終わり―
舞岡公園
住所/横浜市戸塚区舞岡町1764
電話/045-824-0107
横浜市長屋門公園
住所/横浜市瀬谷区阿久和東1-17.
電話/045-364-7072
本郷ふじやま公園
住所/横浜市栄区鍛冶ケ谷一丁目20
電話/045-896-0590
都筑民家園
住所/横浜市都筑区大棚西2番
電話/045-594-1723
横浜市農村生活館みその公園「横溝屋敷」
住所/横浜市鶴見区獅子ケ谷3丁目10
電話/045-574-1987
<取材協力>
・横浜市都市整備局
http://www.city.yokohama.lg.jp/toshi/
有限会社川中工務店
http://kawanaka-k.jp/index.html
<参考文献>
『横浜市指定有形文化財 飯田家表門(長屋門)解体修理工事 報告書』(編集/株式会社建文 発行/飯田助知)
他
みち坊さん
2013年10月15日 11時59分
三つ境にある長屋門公園のファンです。寺子屋塾やさとまつりなど様々なイベントをやっています。なによりこのイベントは地元の人たちが支え(リタイア後の男性たちが「おやじの会」を立ち上げ得意分野で長屋門を支えています。まあ勝手連みたいなものですが目立たずに支えています)、また地元の活動の核ともなっています。そして門外不出の山形県の黒川蝋燭能を呼んできてしまったことでしょう。これは館長の情熱の賜物です。また伝統行事を世間の風潮に媚びずに暦通り実施しているのも清々しいです。七草がゆは1月7日、節分は2月3日の夜と言う風に…
jetstarさん
2013年10月15日 08時44分
綱島の飯田家、立派な外観で中が気になっていました。いつまでも残っていて欲しい古民家です。
角さん
2013年10月14日 19時52分
古民家を見ると、もともと昔の日本は今で言うところのフローリングが普通に家の中にあったことが分かりますね。 戦国時代のドラマを見ると、大名は畳の上に座って、家来はフローリングに直に座ってますもん。