横浜の港北ニュータウンに残る里山、都筑区「茅ヶ崎公園自然生態園」とは?
ココがキニナル!
自然生態園という里山をそのまま保存・管理しているところがあります。土日祝日しか開いておらず入場は無料。ボランティアで運営しています。どのような方々に支えられているのでしょう(とりりさん)
はまれぽ調査結果!
茅ヶ崎公園自然生態園は、非営利団体のNPO法人によって運営されている自然体験施設。地域住民参加のさまざまな活動を通して、都市の中に奇跡のような里山の風景が守り続けられている。
ライター:結城靖博
「自然生態園」の成り立ちと現在の活動状況
子どもたちへのレクチャーが一段落すると、赤木さんとともに詰所へ入る。
詰所の中はこんな感じ
赤木さんからの話の前に、同園の成り立ちと現在の活動をざっくりまとめておこう。
都市開発の一環として公園整備計画が進む中、1980年代に「生物相保護区」が茅ヶ崎公園内にできる(“生物相”とは生物を特定しない自然全体を意味する)。
だが保護区時代は閉鎖された場所で、近隣の茅ヶ崎小学校の理科の教師たちなどが中心に、生物調査、観察、保全活動を行っていた。
かつてここは閉鎖された空間だった
やがて公園としての再整備が検討され「自然生態園」と名を変えたのが1999(平成11)年。2002(平成14)年に運営主体が小学校から地域住民に移り、翌年から土日祝日に園内が開放される。開園日が土日祝日に限定されたのは、人間が足を踏み入れることで生じる“踏圧”などの自然に対する負荷をなるべく抑えるためだ。
こうして今では、ここは「21世紀をになう子どもたちや地域の方々が豊かな自然とふれあい、親しみ、自然から学ぶ楽しさを味わう体験施設」(同園ホームページより)になった。
池の畔にはたくさんの野鳥の写真を掲示
現在の活動は、具体的には「保全」「観察」「体験」の3つに大きく分けられるようだ。
「保全」は、まさに今日の雑木林整備や池の外来種駆除がそれに当たるわけだが、そのほか草刈りや落ち葉かき、池に溜まる泥の除去(かいぼり)などさまざまだ。
また「観察」は、園内に咲く野の花や野鳥、昆虫、水辺の生物などの観察会を四季折々実施している。
釣って楽しい、見て楽しい「ザリガニ観察会」(写真提供:茅ヶ崎公園自然生態園)
「体験」も、田植えから餅つきまで年間登録で参加する「昔ながらの米作り」をはじめ、ヨモギを摘んで草団子を作ったり、竹を切って竹細工を作ったり、多彩なイベントが年中予定されている。
参加者でにぎわう「田植え」体験(写真提供:茅ヶ崎公園自然生態園)
スタッフの現状について若きリーダーに聞く
そんな「開かれた里山」のリーダー・赤木光子さんは、水辺回りスタッフの天野さんと同じ東京海洋大学出身。大学院博士課程まで進み、院生だった5年前にパートとしてここで働き始め、今では「NPO法人茅ヶ崎公園自然生態園管理運営委員会」の事務局長を務める。
笑顔の絶えない赤木さん
彼女をはじめとする同園の有償スタッフは、上は80歳から下は30歳の赤木さんまで、実にバランスよく各世代が並ぶ7人の男女からなる(別の事務所で会計に従事する支援スタッフも含む)。
ほかに、ボランティアとの中間的位置付けの支援スタッフの男性が数人いる。年季が入った彼らはチェーンソ―を扱うような危険な作業に秀でている。さきほど斜面で木を伐っていた人たちだ。
不安定な急斜面でのこぎりを扱うのは素人では危ない
彼らにかぎらず、スタッフはそれぞれ得意分野を生かして活躍している。
たとえば米作り担当の方は元々米作りイベントの参加者だったが、事務局に乞われてスタッフになった。「彼女の参加者目線に助けられています」と赤木さんは言う。
また、リヤカーを引いていた支援スタッフの大野さんは元々鉄工所の社長さんで、奥さんとたまたま散歩で通りかかったのがきっかけ。機械いじりが得意で、外で身体を動かしたり子どもたちと触れ合うのが好きだという。
ミッキーのTシャツが似合う大野さん
ただし、常勤は赤木さんのみだ。以上のスタッフのうち何名かと地域住民のボランティアとで、その都度の活動が行われている。
ちなみに今日の保全作業には、スタッフを含め約20人が参加し、うち子どもは4人だった。
自然生態園への赤木さんの思い
「小さいながらも、横浜市内でこれだけの池も山も田んぼもあるのは、奇跡に近いかけがえのないこと」と赤木さんは言う。「こんないいところに住んでいる、だから自分たちで残すべき場所なんだということを、近所の方々にもっとわかってほしいんです」。
ポカポカの陽を浴びた園内のメジロ。もうすぐ春だ(写真提供:茅ヶ崎公園自然生態園)
「そのためにイベントを通して地域住民と交流してきましたが、まだまだ私たちの発信の努力が足りない」とも言う。
だがこれまで、月々の『生態園 NEWS Letter』、季節ごとの『せいたいえんだより』を地道に発行し続けてもいる。
そんな中、昨年ボランティアの人がホームページを刷新してくれた。それ以来イベントの申し込みもしやすくなり、少し変化が起きているという。確かに現在のホームページは、地域の歴史も同園の活動も詳しく掲載されていて充実している。
また近年は、園内の動植物を紹介するガイドブックなども発行するようになった。
生態園の動植物写真集(写真提供:茅ヶ崎公園自然生態園)
とはいえ、非営利法人ゆえに管理・運営の資金繰りは厳しい。寄付金はほんのわずか。特別な遊具施設もなく、園内の動植物を持ち帰ることもできないので、入園料もとりづらい。ほとんどを市からの運営委託金に頼らざるを得ないのが実状だ。
また、民間施設のように目立つ場所に大きな看板があるわけでもなく、近所の人でさえ休日も閉まっていると思っている人がいるという。
駐車場がないのもマイナス要因の一つだ。
いっぽうで、生態園の好きな点をアンケートすると、一番多い答えが「人けが少なくて静かなところ」だと赤木さんは言う。
なるほど、ここはそういう場所だからいいのかもしれない。ゆっくりマイペースで自然を楽しめるところ。ふと、「等身大の自然」という言葉が思い浮かんだ。
詰所の前には手作り感満載のグッズも。なんだかホッコリする
正門の外では自主イベントも
赤木さんの取材を終え正門を出ると、すぐそばの高台のデッキで「想 ネイチャークラフト」というイベントが行われていた。
これは生態園の主催ではなく、「木工房 森の風」の白木登(しろき・のぼる)さんが開催している自主イベントだった。
赤いトレーナーの方が白木さん
正門の外だがここも生態園の管轄内で、場所貸しをしている形だ。
今日のイベントは、白木さんが用意したさまざまな木切れや木の実などの天然素材を使って、木工クラフトを体験するというもの。参加費は1体500円。
また、さきほどのドイツ人の親子がいた
次男クンが自慢げに作品を見せてくれた。芸術は爆発だ!
白木さんは元々植木職人で、木の扱いはお手の物。そのうえ現在は森林インストラクターの資格も持つ。
「クラフトを通して、子どもたちに森のよさを伝えたい。自分は森の入り口の案内人です」と語る白木さん。自然生態園で毎月このイベントを続けて、もう12年になるそうだ。
子どもたちの求めに応じて慣れた手つきで材料を微調整
資金的にも物理的にも自分たちだけで出来ることに限りがある中で、こうした外部の人による活性化も意義があるのではないだろうか。
少なくとも、山からの折れ枝運び、お雑煮と焼き芋の堪能、ザリガニの赤ちゃん観察、おまけに木工クラフト制作――と、あのドイツ人の子どもたちにとっては、今日は里山体験を大満喫した一日だったろう。
取材を終えて
大人も子どもも、一見つらそうに見える保全作業を誰しも「楽しい!」と言っていた。そうなのだ。自分の身体を使って自然と接することは、人間にとって本能的に「楽しい」。それを忘れかけていた自分に気づかされた。
また、記事の中で「ゼロからの開発の強み」と書いたが、あえてその箇所は残しつつ、それは間違えであったとここで言う。
確かに都市開発という近代的な視点では、山と田畑しかないとは、ブルドーザーで一気に整地して宅地化しやすい「何もない場所」かもしれない。
だがそこは、裏を返せば、山と田畑という自然と人間の絶妙な関係性によって成り立つ里山という「豊かさがある場所」だ。ゼロどころではない。
その「豊かな場所」を守ろうとする姿勢が、横浜北部の郊外都市づくりを洗練させたのだろう。とはいえ社会は、なお刻々と変化し続ける。だからこそ、これからも守り続けていきたい。
自然生態園はそんな思いを抱かせる「等身大の自然」だった。
―終わり―
取材協力
茅ヶ崎公園 自然生態園
住所/横浜市都筑区茅ケ崎南1-4
TEL&FAX/045-945-0816
開園日時/土曜・日曜・祝日(年末年始休)、9:00~16:00
入園料/無料
https://www.seitaien.com/
りょうちゃんさん
2020年03月18日 08時58分
ほっこりしました。山登り好きとして、とても感動しました。園の存在と、それを伝える筆者の筆力の高さに、文字通り、心動かされました。4月のササ刈り、予定が合えば参加したいです。ありがとうございました(^^) また記事を楽しみにしています!