カレーが「関東で2番目に美味い」、江の島の怪しげな「BigSur」とは?
ココがキニナル!
料理界の重鎮・服部幸應氏が「関東で2番目に美味い」と絶賛した「BigSur」。湘南タイムの営業、世紀末・新世紀カレー、夜には壁面に女性と謎だらけ。…キニナル(スさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
「Big Sur」は午後6時“ぐらい”からオープン。「世紀末」は鶏モモ肉、「新世紀」は豚肩ロースが入った元気になるカレー。壁面の女性はお客さん作!
ライター:大和田 敏子
今回のキニナル店は、江の島にあるおいしいカレーの店だという。夏にぴったりだ! けれども、投稿を読むかぎり、なんだか怪しい雰囲気の店なのではという不安も少し・・・。とにかく行ってみます!
謎の多いカレー店「Big Sur(ビッグ・サー)」。マスターの話が止まらない!?
「Big Sur」の最寄り駅は・・・
湘南モノレール「湘南江の島」駅や江ノ電「江ノ島」駅
ここです!
徒歩5分ほどで数店舗が並ぶ建物の中に「Big Sur」を発見!(写真中央)
「純インド風日本のカレー」って何だろ?
店の中が見えないので、ドアを開けるのにちょっと勇気がいる。恐る恐るドアを開けると、迎えてくれたのはこの方!
マスターの吉田将武(よしだ・まさたけ)さん
ちょっと気難しそうな雰囲気で緊張する。けれども、すぐにきさくに話し始めるマスター。ホッとする間もなく、話はマスターのペースに。
キニナルTシャツ・・・「ああ、このTシャツ? お客さんがくれたんだよ」
こんなのも。「生涯仕事人って、ひどいよね」とマスター
店で着るTシャツは、ほとんどお客さんからのプレゼントだとか。いやいやマスター、その前に、店をオープンした経緯を伺いたい。
「Big Sur」がオープンしたのは1985(昭和60)年。マスターが30歳の時、外資系の会社を退社して物件探しなど本格的に準備を始めて約1年後のことだった。東京に出店したかったが、当時は飲食店というだけで保証金が高く、なかなか良い所がなかったそう。
それで、ここに!
店で出すのは、小麦粉を使わないスパイスメインのサラッとしたカレーで、お客さんには「元気がでるカレー」「薬膳カレー」と呼ばれているそう。
「当時は、辛い、水っぽい、ご飯が固いと言われたね」とマスターは振り返る。札幌発祥のスープカレーが全国的に知られるようになるのは、「Big Sur」開店より後のことだから、そうしたカレーはめずらしかったのだろう。
オープンから32年目!
マスターは、東京都文京区湯島の出身。お父さんが趣味でカレーを作っていたそうだ。また、湯島といえば創業59年の老舗カレー店「デリー」があり、本格的なカレーに馴染みがあった。
「デリーに追いつけ追い越せと言う気持ちでやってきたよ」
続いて「Big Sur」という店名の由来を。
24歳のころ海外旅行に行き、アメリカ・カルフォルニアのBig Sur近くを知人の運転する車で走っていたところ、250メートルもの崖から転落。
実際のBig Sur。こんな崖から転落したなんて!?※フリー画像より
「落ちていく時はスローモーションのようだった。でも、キレイだったよ、海に陽の光がきらきらして。助かると思ったんだよね」とマスター。
事故後の車にはタイヤもドアもボンネットもなく、外に放り出されたが、同乗していた3人とも無事生還。なんという奇跡! 25歳の誕生日は病院で迎え、見ず知らずの人たちにも祝ってもらったそうだ。
「落ちるところまで落ちたから後は上るだけ」と、店名を「Big Sur」に
「人生観が変わりましたか?」と伺うと、「もともと物事を深く考えていないから、たいして変わらないけど、死ぬ時は簡単に死ぬんだなと思ったね」と。あくまで明るい人だ!
ここで店内の様子を紹介!
6席ほどのカウンターだけの店(最大で9人くらいまで)
壁一面を埋めるポスターや記事の切り抜き、そして、いろんなモノ!
珍しいタバコや葉巻や・・・
何だろこれ!? みたいなモノ
マスターいわく「みんなお客さんが持ってくるんだよ」とのこと。たくさんのお客さんに愛されている店のようだ。
いよいよ「元気がでるカレー」の話へ
「元気がでるカレー」がコンセプト
「薬膳カレー」とも呼ばれる「Big Sur」のカレーはどのように生まれたのだろう。
実はマスターはカレーの作り方を独学で学んだそう。勉強している中で、丁子(ちょうじ)はクローブ、ウコンはターメリックなど、漢方薬とスパイスは呼び名が違うだけで実は同じものだと分かったという。
「スパイスの良さを生かした身体に良いカレーを作りたかった」
小麦粉や油脂を多く使った昔ながらの日本のものとは違う、目指すカレーを作るために、会社勤めのころは、金曜日にカレー屋さんに食べに行き、土・日に作ってみるという試行錯誤の連続。「ちょっと失敗すると、クスリになっちゃうんだよね」とマスター。
今のカレーに行き着くには3年以上かかったそうだ
カレーに使用しているスパイスは30種類以上。インドではあまり使わないものも使用している。「余計なものを入れず、きちんと作っているから“純”。インドに行ったことはないから“インドカレー”でなく“インド風”、日本人が作っているんだから“日本のカレー”」とマスターは言う。これが「純インド風日本のカレー」とした理由のよう。
メニューにも「純インド風日本のカレー」と書かれている
オープン以来、基本的な味は変えていないが、15年ほど前、塩分量を変えたという。「1人分を0.137グラム増やしたんだよ」とマスター。唐突に、細かい数字が出てきてびっくり!
もともと「Big Sur」のカレーはスパイスで食べさせるカレーなので、塩分は控えめ。でも、マスターが業務用として他店に卸していたカレーに、塩をかけて食べるお客さんがいたと聞いた。お客さんの判断で塩を加えるより、作る過程で塩を調整した方が、塩分量摂取量は少なくて済むと判断し、塩を0.137グラム増やしたそうだ。
食べる人の健康を考えて塩分を調整した(提供:ミイシマフミコ)
現在、厚生労働省の定める塩分量は男性1日8グラム未満、女性7グラム未満。多くの飲食店では、それを守れる塩分量ではないが、ここでは1人前あたり3グラム以下だとか。マスターからは、こういう話がスラスラと出てきて、健康への配慮をいかに大切にしているかが分かる。
マスターと「食」をテーマにした映画についても盛り上がる。熱心さが伝わってくる
ちなみに、マスターは日本食育学会の会員だそうだ。
全ての調味料やスパイスを計量して作り、でき上がった時間も毎回、記録。時間が経ちすぎると、薬効成分が落ち、塩分濃度が濃くなってしまうので、何時まで良い状態で出せるか把握するためだという。
ところで、投稿にあった「料理界の重鎮・服部幸應(はっとり・ゆきお)氏が関東で2番目に美味いと絶賛した」とは、どういうことなのだろう。
実は、『東京おいしい店ガイド 98-99』で服部氏が選んだカレー店のランキングで「Big Sur」を2位にあげているということのよう。
ちなみに1位は「新宿中村屋」
「服部先生はもともとウチのお客さんだったんだよ」とマスター。有名な人だと知ったのは、かなり経ってからのようだが、本に取り上げてもらったり、テレビの番組に呼ばれたりしたそうだ。