一大観光地「江の島」の今昔とは? 浮世絵と徹底比較!
ココがキニナル!
若者に人気の観光スポット「江の島」や「藤沢」。実は江戸時代も藤沢あたりは庶民の憧れのスポットだったと聞きましたが、なぜ?(ともろーさん)藤澤浮世絵館がオープン。どんな感じ?(kenkenさん)
はまれぽ調査結果!
藤沢は観光地として栄え人気浮世絵師や舞台の題材として取り上げられる庶民の憧れの地だった。藤澤浮世絵館は有名な浮世絵が入館料無料で楽しめる
ライター:岡田 幸子
神奈川県藤沢市。観光地として知名度抜群の鎌倉市と、「サザンオールスターズ」の活躍で全国に名を轟かせた茅ヶ崎市に挟まれ、ちょっぴり影の薄い感もある自治体・・・かもしれない。
神奈川県外の人に「藤沢出身」と言ったら「どこ?」と聞かれたなんて話も聞く
そんな藤沢市だが、「あの“江の島”がある・・・」のひと言で認知度はぐんとアップ。夏ともなると・・・
こうで
こうで
こーんな感じに
多くの海水浴客でにぎわう江の島は、行楽地として古くから人々に愛されてきたのだ。
て、どれくらい古くから?
そんな疑問に答えてくれる施設が2016(平成28)年7月16日、JR辻堂駅北口近くにオープンした。その名も「藤澤浮世絵館」。
JR辻堂駅北口から歩いて5分ほど。「テラスモール湘南」至近だ
江戸の庶民にとっても憧れのデスティネーションであったという藤沢の魅力を今に伝える浮世絵の数々に、この土地の魅力を再発見してみよう。
藤沢と浮世絵の意外な関係とは?
17世紀後半の江戸時代に誕生し、庶民に広く愛された浮世絵は、おもに当時の風俗を描いた木版多色刷りの錦絵だ。そんな浮世絵を扱う展示施設が藤沢市内に2016(平成28)年7月16日に新設された「藤澤浮世絵館」である。
藤沢に浮世絵!?
いまいちピンとこない藤沢市と浮世絵の関係について、藤沢市生涯学習部郷土歴史課の細井守(ほそい・まもる)氏に話を聞いた。
細井さん、お願いします!
「東海道五十三次6番目の宿場である藤沢宿があり、さらに一大観光地であった江の島や、大山詣での玄関口としても多くの人々を迎えた藤沢は、葛飾北斎や喜多川歌麿、歌川広重らの浮世絵師たちに愛された土地でした。江戸後期の旅行ブームを受けて多く描かれた名所絵(風景が)はもちろん、役者絵や美人画など、多くの浮世絵作品に藤沢の情景が描かれているのです」
歌川広重『富士三十六景 相模江之島入口』1858(安政5)年頃
葛飾北斎『江島春望(えのしましゅんぼう)』1792(寛政9)年
有名な葛飾北斎『富嶽三十六景』にも『相州江の嶌』が。天保年間(1830〜1844年)
名だたるビッグネームの作品に、江の島をはじめとする藤沢の風景が多く描かれているのだ。
藤沢市では市政40周年を迎えた1980(昭和55)年に、日本大学元総長であった呉文炳(くれ・ふみあき)氏から、江の島などを題材とした浮世絵作品を多く譲り受けたという。これをベースに美術作品としてよりはおもに郷土資料の観点から関連資料の収集を続け、現在では浮世絵、絵図、地図など合わせて約1500点を所蔵しているそうだ。
当時のにぎわいを巧みに描いた歌川広重『東海道五拾三次 藤沢(狂歌入り)』1840(天保11)頃
「浮世絵の命でもある色彩を保つためには、展示に細心の注意が必要です。市井(しせい)のギャラリーで気軽にご覧いただけるといった類のものではないため、専用の展示施設を用意することとなりました。現代の方はもちろん、後世の方々にも浮世絵の魅力を楽しんでいただくためには、その価値を保つことも大切なのです」とは細井氏のお話。
負担の軽いLED照明を採用し、作品に配慮した展示がなされている
「藤澤浮世絵館」では、作品を傷めないための照明や空調などの徹底した管理のもと、常時60点前後の作品を入れ替えながら展示していくという。入館料はなんと無料だ!
浮世絵師に愛された藤沢の情景とは?
「歌川広重の最高傑作である『東海道五十三次』(天保年間)はあまりに有名ですが、連作には当然藤沢宿を描いたものもあります。現在の藤沢橋交差点付近から遊行寺を望む風景には、当時の風俗を知るものが見れば思わずニヤリとするディテールが多数盛り込まれています」
藤沢宿に建てられていた江の島一之鳥居をメインとした構図だ
『東海道五十三次之内 藤沢(行書東海道)』を細かく見ると、江ノ島弁財天での断食祈願をきっかけに“管鍼法(かんしんほう)”を生み出したと言われる全盲の鍼師・杉山検校(すぎやま・けんぎょう)にあやかって「江の島詣で」に出かける盲者の一行や、大太刀を担いで「大山詣で」に出かける人などが描かれている。当時の江戸庶民にとって、藤沢が観光地として大きな魅力を持っていたことが分かる。
描かれている橋はこの大鋸橋(だいぎりばし・現遊行寺橋)
橋を渡った先には「藤沢宿交流館」がある
館内の模型で浮世絵の視点を示すとこんな感じ(矢印が浮世絵の視点)
「後ろに描かれているのは時宗総本山清浄光寺(遊行寺)ですが、大きくデフォルメして描かれています。よく見ると、なんとなく江の島にシルエットが似ていることに気づくでしょう。画面内には納めることが難しい江の島という要素も、こうした形で1枚の浮世絵に取り込んだのですね」
藤沢宿の背後にそびえていた時宗総本山清浄光寺(遊行寺/ゆぎょうじ)は
一遍上人を宗祖とする時宗の総本山
「惣門」をくぐり「いろは坂」を登ると
立派な「本堂」が今もある
湘南新道(県道30号戸塚茅ヶ崎線)から見るこの景色の方がおなじみかも?
このほか、中世から伝わり浄瑠璃や歌舞伎などにも脚色されている小栗判官(おぐり・はんがん)と照手姫(てるてひめ)の物語も藤沢が舞台となっている。このことから、役者絵の背景に藤沢の風景が描かれているものもあるという。
歌川国貞(三代豊国)『東海道五十三次之内 藤沢 小栗判官』1852(嘉永5)年
「有名な物語の舞台を訪れてみたいという願いは、現代の“ロケ地巡り”にも繋がるものがあるのではないでしょうか? そうした人々の思いを掻き立てるために、役者絵など名所絵以外の浮世絵にも、積極的に当地の情景が取り込まれたのです」