【横浜の名建築】西谷浄水場
ココがキニナル!
横浜にある数多くの名建築を詳しくレポートするこのシリーズ。第27回は、赤煉瓦と白い大谷石、青銅の屋根の洗練された大正時代の建物が残る西谷浄水場。遥か未来を考えた横浜近代水道の歴史がそこに残っていた。
ライター:吉澤 由美子
西谷浄水場
野毛山、川井と明治時代に2つの浄水場が作られ、その中間に西谷浄水場が完成したのは大正時代。高台にある広大な敷地は今も、みなとみらい、スカイツリー、そして空気が澄んでいると宮ヶ瀬ダムの堰堤(えんてい:水をせき止めている壁)まで見える横浜有数のビューポイント。
西谷は、周囲360°を見晴らすことができる。海抜は70m
水道記念館の展望台からの眺めは抜群。唯一建物の影になる富士山を見たいなら前庭へ
見晴らしが良い場所ということは、水を供給するにあたって、高低差を使える。さらにすぐ下に帷子川があって、建築資材を港から船で運べるという利点もあった。西谷は緻密に計算された立地だったのだ。
浄水場では、できたての水道水を飲める
土木建築の文化財
ここに残されている文化財は、6棟。浄水施設に必要とされる機械が設置されていた創建当時の建物だ。広々とした敷地の中に、ルネッサンス様式の赤煉瓦を基調とした6棟の上屋が点在している。
春になると舗道を囲む茂みがピンクの花に覆われる
濾過池整水室上屋が3号棟から8号棟までは四角い建物。そして、配水池(はいすいち)浄水井上屋と配水池配水井上屋の2棟は八角形。これらの6棟は1973(昭和48)年にその役目を終え、中にあった機械類は運び出されている。
建物の形は違うが、6棟すべて同じ意匠が施されている
浄水場には、水源からの水が轟音を立てて流れ込む着水井があり、そこから水は沈殿池へと送られる。沈澱池の次に濾過池で細かな浮遊物まで取り除かれた水は、配水池に送られて水道水として貯蔵され、需要に応じて供給される仕組みだ。
濾過池整水室上屋は、濾過池から次の行程へ送り出す水量の調整をする機械を設置した建物だった。
濾過池整水室上屋。現在の沈澱池と管理棟や濾過池の間にある
10フィート角の正方形で、4面の壁には上部にアーチを設けて小さな窓とドアが作られている。屋根は銅板葺の方形。この屋根は四方に傾斜を持っており雨の流れはいいのだが、垂直面がないため小屋根の換気が悪くなる。そのため頂部にはルーバーがはめられた換気口が4面についている。
濾過池整水室上屋は4棟が保存されている
内部の壁は白とクリーム色の漆喰。天井は板の組み方に変化を持たせてあり、爽やかなブルー。
窓やドア枠は天井より薄いブルー。水のイメージが室内にも漂う
中心に残った模様のある陶器は灯りが下げられていたもの