横浜で美味しい「モーニング」が食べられる「昔ながらの喫茶店」はどこ?
ココがキニナル!
橫浜西口の喫茶店「珈琲さろん午後」は、午後なのにモーニング!?(スさん)名古屋発の喫茶店がチェーン展開されて人気ですが、昔ながらの喫茶店でモーニングサービスをやっているお店はある?(ココポリととさん)
はまれぽ調査結果!
「珈琲さろん午後」は昔の店名を引き継ぎ、モーニングサービスを提供。モーニングをやっている昔ながらの喫茶店では、ゆっくりした時間が流れていた。
ライター:吉澤 由美子
スタンドカフェ全盛期の昨今だが、名古屋発祥といわれる喫茶店文化が東京や横浜にも進出してきている。そこで人気があるのが充実したモーニングのセット。しかし、横浜生え抜きの喫茶店にも魅力的なモーニングセットはある。
ということで、横浜の特色ある喫茶店3店のモーニングセットをご紹介。
今回のお店は、横浜らしい雰囲気でモーニングセットが味わえる老舗店をセレクト。
午後なのにモーニング!? 珈琲さろん午後
まずは「午後なのにモーニング?」ということで、キニナル投稿にもあった「珈琲さろん午後」。
「珈琲さろん午後」は、横浜駅から徒歩8分の横浜STビルの1階にある
何はさておき、店名の由来を伺うと、関内にあった「午後」というお店がはじまりとのこと。今でいうライブハウスのような、コーヒーを飲みながらライブを楽しめるお店だったそう。
「美空ひばりとダークダックス以外の有名歌手は全員、その店で歌った」と、実際にライブを行った歌手名ではなく、来なかった方で語られるほどの店だったようだ。
お話を伺った森真知子社長
そのお店が、お酒も楽しめる「カクテルラウンジ午後」になった1995(平成7)年ころから森さんが経営に参加。
「会員の方たちのためのお店で、音楽を中心にした文化サロンのようなお店でした」と森さん。バブルのころには、お店主催のゴルフコンペを頻繁に行うなど、相当華やかだったという。
その後、この場所に店を移すことをきっかけに業態を喫茶店に変え、1996(平成8)年に「珈琲さろん午後」として開店。ここのお店は開店から18年だが、「午後」の歴史としては60年ほどになるそうだ。
広く開放的で明るくゴージャスな店内
豪華な店内は、会員制のラウンジだった歴史を感じさせ、また音楽にゆかりが深かったことを店内に置かれたグランドピアノが物語っている。
客層はターミナル駅近くという場所柄、銀行マン、証券マン、一部上場企業のビジネスマンが中心。取材中にも、携帯電話で話しながら店内に入ってきたお客が「うん、“さろん”で。ハイよろしく」と通話を切ってテーブルにつく。改めて見回すと、落ち着いて打ち合わせや商談ができそうだ。
「パーティーに使われることも多いんですよ。この間はコーラスのグループの方がいらして思う存分歌われていました。ビルの上にオフィスのある方々がここで会議をされることもよくありますね」と森社長。
センターの大テーブルだけで20名の会議ができる。店内全部で68席
保険会社の女性が集まって会議するときには、2杯以上が入るビッグカップの飲物を頼んで何時間も話し合うのが珍しくないとか。また、ゆっくり過ごしてほしいという思いから、コーヒーや紅茶(450円〈税込〉)を、200円追加でおかわりができるサービスも用意している。
ビッグカップは600円~650円(税込)。生姜紅茶オレが人気だとか
さて、本題のモーニングは2種類。トーストセットは700円(税込)で、ホットケーキセットが750円(税込)。提供時間は、平日のみの午前8時30分~午前11時(土日祝日は店自体が正午からの営業)。
トーストセット(700円・税込)
ホットケーキセット、750円(税込)
モーニングのサラダはとっても新鮮でパリパリシャキシャキ。イギリスパンを薄めにスライスしたトーストは、丁度良い焼き加減でサクサクしている。2枚のしっかりしたホットケーキにはメープルシロップがたっぷりついてきて、なかなかのボリューム。コーヒーか紅茶が付いてホットかアイスかを選べる。
「午後という店でモーニング」について伺うと「古い人間なので、喫茶店をするならモーニングを出すものと思っておりましたし、これまでのお店の名前を引き継いだ店名なので・・・。午後というお店でモーニングというミスマッチには気付きませんでした。言われてみたらそうですね」と笑う。
「言われるまで気付きませんでした・・・」
年末年始(12月31日から1月2日まで)とビル自体が休みの日以外は毎日営業しているが、森社長は、仕事を休んだことがない働き者。
もともと和歌山の紀ノ川で材木商をしていた家に生まれ育った。「サラリーマンと違って商家にはお休みが基本ありませんから、毎日働くのが普通なんです」。現在は、娘さんが経営するエステサロン2店の手伝いもしながらこの店を切り回し、忙しい日々を送っている。
モーニング、ランチ、おやつタイムと、時間ごとにさまざまなセットを楽しめる
濱マイクのたまり場「コーヒー マツモト」のモーニングセット
過去にもTVドラマ『私立探偵 濱マイク』で主人公が溜まり場として使っていた喫茶店として取材させていただいた「コーヒー マツモト」は、横浜市営地下鉄阪東橋駅から徒歩5分ほど、活気のある横浜橋商店街から少し入った路地で営業している。隣には金比羅大鷲(こんぴらおおとり)神社。
細い路地にあるコーヒーマツモト。右側の緑は大鷲神社
昭和の匂いがする喫茶店
見るからにレトロな雰囲気を漂わせる「コーヒー マツモト」は、戦前、ご両親が野毛で喫茶店をやっていたころから数えると創業年数は約95年になるという。
「常連さんが調べてくれたんだけど、うちの店は神奈川県の喫茶店で2番目に古いそうだよ」とマスターの松本輝夫さん。
店内も昔の喫茶店そのもの
野毛の開店当初は「ミルクホール」というのれんが、お店の入り口にかかっていたそう。喫茶店という言葉がまだ一般的ではなかったころ、コーヒーなどを出すお店はミルクホールと呼ばれていたのだ。
野毛の店は戦時中に空襲の被害にあって、新しく店を探している時にこの場所にめぐりあった。1945(昭和20)年に「コーヒー マツモト」はこの地にオープン。
「活気のある商店街もだけど、当時はナカ(遊郭)が近くにあったから、お客が見込めるとここに決めたそうだよ」と笑う。
「ナカが近いからってオヤジがここに決めたんだ」
大学卒業後、東急百貨店に入社し紳士服御誂え(おあつらえ)部門で仕事をしていた輝夫さん。そのころは店を継ぐ気は全くなかったらしい。
30年くらい前に、ご両親が同時に身体を悪くしてしまい、お店の常連から「もったいない」「ぜひ続けてくれ」と懇願されて「そんなに惜しんでくれるなら」と店を継いだ。
松本さんが継ぐ10年ほど前に少し手を加えたが、店内はほぼ67年前の姿をとどめている。
ドリンクやフードの値段も17~18年くらい変えていない。
昔風のメニュー。20年近く変わらない値段のコーヒーは300円(税込)
「値上げしたいけどさ、常連さんに上げないでくれって頼まれちゃうし。なんとかやれるとこまでやってみようという感じかな」とマスターは苦笑いする。
モーニングも含め、お店で出しているフードはパンとお餅だけ。お餅もこの店の人気メニューで、いそべ焼きやお汁粉、お雑煮がある。
お餅メニューも人気で、モーニングとお餅というお客もいる
モーニングと餅はあるけれど、ご飯ものはやってないというマスター。
「商店街の喫茶店だからさ、近所に食べ物屋さんがたくさんあるでしょう? 昔風の考え方だけど、喫茶店がご飯ものを出したら、そういうお店のお客さんが減っちゃうからって。明治生まれの両親がうちじゃそういうもんは出さないって決めたんだよ。だから今も、ご飯ものやパスタはやっていないんだ」
モーニングも昔はなかったが、朝忙しい商店街の人たちが食べてくれるからと、輝夫さんが引き継いでから始めた。
モーニングのセットでは、甘めに焼いた卵焼きを挟んだエッグサンドがマスターのおすすめ。ほかにチーズとハムがある。
モーニングは午前7時から午後1時まで。飲み物セットで570円(税込)
関東では珍しい、焼いたタマゴのエッグサンド
パンは横浜橋商店街にある老舗「丸十」のものを使っている。
「昔は耳を切って出していたんだけど、丸十のパンは耳もおいしいからさ、今は切らないでそのまま出しているんだ」と、耳付きの理由を話してくれた。
このお店は、TVドラマや映画になった『私立探偵 濱マイク』シリーズの主人公がたまり場にしていた喫茶店としても知られおり、お客さんは商店街に買い物に来た人、商店街の人がほとんどだが、遠方から訪ねてくる濱マイクファンも多い。
「濱マイクという作品もだけど、演じた永瀬正敏さん個人のファンが多い感じかな。毎年1000人くらいファンだっていう人が来てくれる。大阪や京都、名古屋なんかの人が多いかな。DVDが新しく出たり、フィギュアが出たりというタイミングで増えるね」とマスター。
店に飾られているマスターと永瀬正敏さんのツーショット写真
「永瀬正敏さんはとにかく誠実な人。本当にいい人なんだ」とマスター。
この近辺は雰囲気があるからか、それまでもたびたびドラマの撮影に使われていた。
「『あぶない刑事』や石原軍団のTVドラマのロケもこのあたりでよくやっていたよ。有名な俳優がずいぶん来たけど、永瀬正敏さんの人柄の良さは別格だったね」とマスターは永瀬正敏さんを褒める。
「アメリカンとかは嫌いでね。昔風の重いコーヒーが好きなんだ。豆や焙煎より、味を大きく左右するのはドリップだね」と言うマスターが淹れてくれたコーヒーは、まろやかでこくがあって、とても美味しかった。
昭和の古き良き喫茶店の雰囲気を味わってみたい方はぜひ。
≫