南区中村橋交差点に英字の標識があるのはなぜ?
ココがキニナル!
国道16号南区中村橋交差点の上り車線信号機に「RIGHT.ONLY」と英語で書かれた標識があります。どういう経緯で英語の標識が設置されたの? そもそも英語の標識は法律上有効なの?(横濱マリーさん)
はまれぽ調査結果!
「根岸住宅地区」と在日米軍横須賀基地を結ぶ道路上の「右折専用」信号の標識。戦後占領軍が設置したものと思われる
ライター:小方 サダオ
外国人ドライバー向けに設置された「右折専用」標識
投稿の国道16号線の全長は約331km。横浜市を起点に、八王子市、大宮市、千葉市、木更津市、横須賀市を通って横浜市へ戻る環状道路で、横浜から横須賀の間は明治時代からの帝国海軍の軍事用のルートでもあったという。
また、横浜から八王子間は「日本のシルクロード」と呼ばれる八王子街道が前身となっている。
その国道16号線上の南区の中村橋交差点に英字標識があるのはなぜなのだろうか?
投稿の標識のある場所(青矢印、Googlemapより)
その理由を探るために現地に向かった。
直進する国道16号線と枝分かれする道路の方に投稿の標識がある
右折専用レーンの車の進行方向にある「右折専用」標識
国道16号線を磯子方面から掘割川に沿って北上すると、首都高速道路と交差する少し手前で、道路は大きく二股に分かれる。そこが中村橋交差点で、信号の上部を見ると、信号灯の上には「右折専用」とあり、支柱とを結ぶ柱には「RIGHT.ONLY」との文字のかすれた英字標識が取り付けられている。
中村橋交差点の近くには交番がある
交通量の多い交差点だ
標識のやや上部に書かれた「RIGHT.ONLY」の文字
このような英字標識はあまり見かけないが、この信号に取り付けられているのは特別な理由があるのだろうか。
中村橋交差点周辺の住民に右折専用標識について伺う
そこで中村橋交差点の近くにある店の店主に伺うと「稲荷坂を上った山の上に米軍住宅があり、戦後間もなくは国道16号線を、ジープや水陸両用車、軍用トラックなどが頻繁に行き来していました。そのドライバーのための看板だと思います」という。
戦後は国道16号線を米軍の軍用トラックなどが走っていた(出典:『昭和の横浜』 画像提供:横浜市史資料室)
中村橋交差点(青枠)で分かれる道路の先を右折すると米軍住宅(緑枠)がある
「右折専用」標識のある信号の二つ目の信号を右折すると稲荷坂だ
その米軍住宅とは「根岸住宅地区」のこと。横浜市のホームページによると、1947(昭和22)年に接収されたもので、現在は在日米軍横須賀基地司令部の管理下にある。
土地面積は約429平方メートルで、米軍人、軍属、およびその家族が居住する住宅棟として使用されている。日米間で返還方針が合意されている。
稲荷坂を上ると・・・
頂上で米軍住宅に突き当たる
閉められた門の向こうに守衛室がある
米軍住宅の居住者専用の住宅のようだ
また近くの飲食店の店員は「米軍住宅に住む軍関係者は横須賀とここの間をスクールバスのような車で往復したりしていました。国道の枝分かれする場所で交差点の形が複雑なのであのような看板をつけたのでしょう」とのこと。
根岸(青矢印)の米軍関係者は横須賀(緑矢印)との間を往復していたという
中村橋の交差点(青枠)を曲がり稲荷坂を上るルート(出典:『昭和の横浜』 画像提供:横浜市史資料室)
「レース・トラック・ロード」と名付けられている
また稲荷坂近くの店の店主T・Nさんに伺うと「稲荷坂が国道16号線と合流する付近には通行が複雑な交差点があり、時間帯で通れなくなっているので違反者が多く、よく警察に捕まっています」
この地に古くから住むT・Nさん
午前7時から午前9時の間は右折が出来ない交差点がある
稲荷坂から国道16号線方面へと向かう交差点にある直進禁止の道路
午前7時から午前9時の間が右折禁止の道路(赤矢印)と直進禁止の道路(オレンジ矢印)
「稲荷坂の下で米軍住宅に向かう途中の横須賀からの外国人の来客が、取り締まり中の警察に捕まったことがあります。しかし警察官は英語が分からないので、私が通訳をお願いされました。一般的に日本人だと違反は許されませんが、『外国人で初めてだから許すので、今度から気をつけてください』と訳すように言われ、伝えたことがあります。警察官は英語が分からない人が多かったので、外国人違反者には甘かったようです」
「また日本の車と外国人の車の衝突事故もありましたが、山の上からMP(米軍の憲兵、ミリタリー・ポリス)のパトカーが来て対処したのです。日本のパトカーも確認のために来ていました」とのこと。
このあたりは交通事情が複雑なこともあり、行政側も米軍関係者のトラブルが少なくなるように気を配ったのではないだろうか。その中に交差点の「英字標識」もあったのかもしれない。