南区井土ヶ谷の横浜市歴史的建造物に認定された町内会館とは?
ココがキニナル!
かつて見番だった井土ヶ谷にある町内会館が歴史的建造物に認定されたそうです。芸者の事務所や練習場として使われていたようですが、どのような建物か認定されたポイントなども知りたいです(massuruさん)
はまれぽ調査結果!
井土ヶ谷上町第一町内会館は、外壁の復元計画が具体化したことで2018年9月に横浜市歴史的建造物に認定された。今後は町内のシンボルとして様々な活動に使われることが期待される
ライター:奥井利幸
井土ヶ谷上町第一町内会館とは?
投稿にある井土ヶ谷の町内会館とは、以前はまれぽでも取材した南区井土ヶ谷上町の井土ヶ谷上町第一町内会館である。1937(昭和12)年に建設された木造2階建ての建物は、かつて芸者が稽古をしたり、芸妓組合の事務所として使用されていた見番(けんばん)だった。
この近辺は、昭和の初めころに10軒ほどの料亭があり、1950(昭和25)~1951(昭和26)年くらいまでは芸者が行き来する花街として栄えていた。その後、花街が衰退し見番も使われなくなったため、見番は1957(昭和32)年に警察の寮として使用され、1976(昭和51)年から町内会館となった。
町内会館がある場所は、京急本線井土ヶ谷駅から徒歩8分ほどの住宅街
住宅街の中に、玄関部分が特徴的な町内会館がある
この町内会館が、2015(平成27)年11月に横浜市の歴史的建造物へ登録され、その後、2018(平成30)年9月13日に認定されたということだ。
では、どのような経緯で認定へ至ったのか、記者向けに行われた現地内覧会へ向かった。
横浜市「認定」歴史的建造物とは?
まずは、横浜市都市整備局都市デザイン室の梶山祐実(かじやま・ゆみ)室長、渡辺荘子(わたなべ・そうこ)担当係長に、井土ヶ谷上町第一町内会館が歴史的建造物へ認定されるまでの経緯についてお話を伺った。
写真左から、梶山室長と渡辺担当係長
そもそも「横浜市歴史的建造物」とは、景観上価値がある歴史的建造物の保全や活用を行うため、条例に基づいて横浜市都市整備局が指定している歴史上・景観上価値がある建物のこと。2018(平成30)年9月現在では「登録」された建造物は205件あり、「認定」されているものは94件。登録された建造物の中で、特に重要な価値があると認められたものが認定されているのだ。
また、すでに認定されている建造物には、横浜赤レンガ倉庫や山手の異人館「ブラフ18番館」、山手資料館などがあり、横浜市民に馴染み深い建物が多い。
「横浜市歴史的建造物」認定という価値ある建物として、井土ヶ谷上町第一町内会館が登録された理由を渡辺さんは「この見番は井土ヶ谷地域が花街として栄えていた歴史を伝える建築物として貴重です。特に玄関部は入母屋造(いりもやづくり)と呼ばれる伝統的な構造は、建築当時の状態で残されています。また2階の広間は、芸者が稽古をしていた当時の様子を伝えるものとして価値あるものになります」と話す。
建設時の面影を色濃く残す玄関部
玄関部上部の欄間(らんま)は細かい組子細工が施されている
しかし、外壁は建築当時とは異なり金属製トタン板に改装されていた。そのため、「特に重要な価値がある景観を有する」の認定基準に合致せず、「当時2015年の審議の際には登録のみでした」と渡辺さんは話してくれた。
現在はクリーム色の金属製トタン板となっている
今回、認定に至った経緯は、町内会より外観を復元する具体的な改修計画が示され、復元工事の実施を前提に認定されることになった。認定後は、外観の保全改修や維持管理、耐震改修(構造補強)に対して横浜市から助成を受けられるため、今後、助成を受けながら、外観を創建当時の建築法である押縁下見板張(おしぶちしたみいたばり、※横板の下側を手前に出して雨水が中に入らないように板張り〈下見板張〉したうえで、縦木で押さえた〈押縁〉工法)のイメージに近くなるようなデザインで、防火性・耐震性にも配慮して改修を行っていくという。
押縁下見板張の例
昭和33年頃の写真。外壁は押縁下見板張だった(画像提供:井土ヶ谷上町第一町内会館)
外観の復元イメージ
梶山さんは「地域住民に直接関わる建物であり、また町内会館としては、横浜で初めて認定された歴史的建造物なので大変嬉しいです」と話す。また「認定されたことで終わるのではなく、これをきっかけに地域の方々の地域の歴史への関心と愛着がより深まり、皆さまの財産として末永く活用していかれることを願っています」と歴史を生かした街づくりへの熱い期待を感じた。
続いて、2階の広間を管理人の星君枝(ほし・きみえ)さんと町内会副会長の齊藤好子(さいとう・よしこ)さんに案内してもらった。
管理人の星さん(左)と町内会副会長の齊藤さん
芸者がかつて稽古をしていた28畳ほどある大広間。この天井は格天井(ごうてんじょう)とよばれる太い木を格子上に組んだもので、欅(けやき)の1枚板をその上に張っている。これは近代和風建築の特徴で、創建当時の姿とあまり変わらず残っているのだ。
創建当時とは変わらない大広間でかつて芸者が稽古していた
階段は三味線を持って行き来できるように幅は広い
大広間に座ると和風建築のありさまを肌で感じることができ、和の心を改めて思い起こさせてくれる。