【探訪】令和に生きる横浜の銭湯Vol.2 ―中区北方町・泉湯―
ココがキニナル!
もはや横浜市内全域で60軒ほどに減ってしまった昔ながらの銭湯。それでも今なおどっこい生き抜くキニナル現場、その第2弾は果たしてどんなところか!?(はまれぽ編集部のキニナル)
はまれぽ調査結果!
横浜八景のひとつ、北方の町。泉湯はそこで70年以上続く。落ち着いた住宅街の中にあって庶民的な客層が多い老舗銭湯は、「もらいもの」と創意工夫でたくましく移りゆく時代を乗り越えてきた。
ライター:結城靖博
泉湯のお客さんたち
客層は周辺がずっと住宅地なので、昔からサラリーマン家庭の人が多いそうだ。家に風呂があっても、広い浴槽にあえて入りに来たいと思う人たちだ。
まわりはひたすら民家(しかもけっこう新しめの建物が目立つ)
ただしご多分に漏れず、客足は最盛期の10分の1ぐらいとか。
「終戦直後は風呂のない家が多かったから、そりゃすごかった」と健一さんは懐かしむ。
「昔は中区だけで43軒も銭湯があったんだから。今ではたった9軒だけど、それでもほかの地域よりはまだマシですよ」
とはいえ最近は、時にはネットで調べて来たという若者もいるらしい。その中には外国人の姿もあるそうだ。
男湯脱衣所には、訪問時からずっとキニナッテいたキン・シオタニの色紙がある
TVK(テレビ神奈川)の旅番組でおなじみのイラストレーター、キン・シオタニが、何年か前に『銭湯物語』という番組で訪れたのだという。この動画は今YouTubeでも見られる。そんなことからも、若い人たちの来店があるのかもしれない。
いよいよ湯船を体感、そしてお客さんに突撃
のんびりとお話を聞いているうちに、いつの間にか開店の13時をオーバーしていた。
「お客さん、来ませんね~」などと筆者が言っていたら、ようやく一番風呂をゲットする幸運な人が現れた。すでに13時半近く。かなりの高齢と思しき方だった。
その方につられるように、筆者も服を脱いで泉湯の湯船に向かう。
タオルは用意してきたのだが「濡れたらもったいないから」と、タオルもボディソープも貸してくれた親切なお二人。
ジェットバスはすでに良い具合にブクブクしている
お借りした一式で身を清めた後、まずは深めの左側のジェットバスに入り、続いて右側の足が伸ばせるほうへ移る。ジェットバスの浴槽に仕切りはないので、湯加減は同じ。少々熱めの43度だ。
「う~ん、沁みるなぁ」
しばしここで身をほぐした後、一番右の薬湯へ。
袋に入った薬湯の素から成分が沁み出し、良い色になってきていた
入ってみると、ちょっとジェットバスよりもぬるめ。これなら長い時間浸って十分に薬湯の効果を得られそうだ。
ちなみに、この薬湯の素は海藻のカジメを粉末にしたもので、冬だけの特別仕様だという。
薬湯からもう一度ジェットバスに戻って浸かっていると、お年寄りが隣の薬湯に入ってきたので声をかけてみた。
よくここに来るのか尋ねると、まだ2~3回目だという。
実はこの取材当日は、新型コロナウイルスの市中感染が深刻になってきた頃だった。83歳の男性は十数年前から近くに住んでいるが、普段は老人福祉センターの無料入浴施設を利用しているという。ところが、一週間前に施設がコロナの影響で休館になったため、ここへ来るようになったそうだ。
風呂から上がった後「老人福祉センターと泉湯とどっちが気持ちいいですか?」と訊いたら、「そりゃあ、もちろんこっちだよ」と火照った笑顔を見せて帰っていった。
満足げな表情で湯上りののれんをくぐる男性
ふたたび脱衣所に戻ると、一番風呂をゲットした男性が長湯からようやく出てきたところだったので、話を聞いてみた。
80歳の男性は、ここに通い始めて3年ぐらいだという。夏は毎日、冬は一日おきに、本牧のほうから自転車で15分かけて来るそうだ。
前の男性と同じく、家風呂はあるが一人身になって、面倒くさいから銭湯に来るという。
「(自転車が)いい運動になるよ」と笑った。
男湯脱衣所のロッカー。数はあまり多くはない
その後また脱衣所で滋夫さんと雑談めいた会話をしている間に、ポツリポツリと数人の来店があった。どなたも年齢は高い。
その中のお一人が、湯上り後、妙に目を引いたので声をかけてみた。お年は召していたが、背がとても高くて姿勢がいいのだ。
男性の名前は鎌田さん。現在70歳だが、子どもの頃からこの銭湯に来ているという。
「今は本牧に住んでいるけど生まれは北方。小学校も北方小。昔と全然風呂屋の感じが変わらないので、懐かしくてバイクで週に1、2回は来ているよ」
笑顔が素敵な鎌田さん
鎌田さんからそんな話を聞いていたら、背後で滋夫さんが「この人は元大洋ホエールズの選手だよ」と言う。えっ!?
よくよく聞けば、星野仙一(ほしの・せんいち)、山本浩二(やまもと・こうじ)、田淵幸一(たぶち・こういち)とドラフト同期の元プロ野球選手・鎌田幸雄(かまた・ゆきお)さんだった。道理で大きくてがっしりしていると思った。そして肌の色艶も素晴らしい。これは泉湯のおかげだろうか。
思わぬ出会いに妙に満足していると、すでに開店後2時間が経っていた。鎌田さんを見送ったのち、筆者も居心地のいい泉湯の脱衣所をそろそろ立ち去ることにした。
取材を終えて
滋夫さんも鎌田さんも北方小学校出身。お話を聞いていると、「北方育ち」ということに、なんとなく誇りを持っているように感じた。
それは冒頭で書いた通り、ここ北方がかつて横浜八景に選ばれるほどの景勝地だったこととも関係するのだろうか。
お二人が通っていたという北方小学校へ、泉湯を出たあと立ち寄ってみた。
北方小学校15時のグラウンド風景
新型コロナウイルスの影響で横浜市内の小中高一斉休校中のグラウンドには、当然ながら人っ子一人いない。
だが北方小の真向かいにある、日本のビール発祥の地「キリン園公園」では・・・
「麒麟麦酒開源記念碑」の前で子どもたちがサッカーに興じ
ブラタモリ風の大人集団も訪れていた
筆者はこの状況になんとも言及しがたい。ただ「う~ん・・・」と、複雑な思いを抱きつつ、キリン園公園をあとにした。
世界的な異常事態のさなかの取材だっただけに、最後にこんなこぼれ話をとどめたが、いずれにせよ、泉湯は世の中がこんなときでも、長い歴史を背負いながら、身の丈に合わせて、無理せず、ゆるっと、頑張っているのだった。それだけは確かなことだ。
―終わり―
取材協力
泉湯
住所/横浜市中区北方町1-37
電話/045-622-0586
営業時間/13:00~22:00
定休日/6・16・26日(日曜日の場合は翌日)
料金/大人(中学生以上)470円 中人(小学生)200円 小人(幼児)100円
https://k-o-i.jp/koten/izumiyu-2/
参考資料
『横浜の町名』横浜市市民局総務部住居表示課編集・発行(1996年12月刊)
Yang Jinさん
2020年03月23日 17時50分
第二弾もなかなか渋いですねー
三日坊主さん
2020年03月23日 14時30分
私は諸般の事情で行った事が無いのですが、知り合いの方が新山下の山下館が閉業されてからは、ずっと此処に行っておられるそうです。何時までも頑張って欲しいですね!