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野毛山公園内に佇む佐久間象山(さくましょうざん)の碑が建てられた経緯とは?

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野毛山公園の中にある佐久間象山の碑が気になります。どういう理由で建てられたものなのでしょうか? (maniaさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

佐久間象山の主張によって横浜が開港された功績を称え、1954(昭和29)年、当時の横浜市会・兵頭政志議員の発案により創建されたもの。

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ライター:松崎 辰彦

象山は本当に横浜の恩人か



横浜開港が本当に佐久間象山の主張によって実現したものであるかについては、現在の時点では具体的な証拠が存在しない。ここで注意したいのは、象山が下田ではなく横浜開港を主張したのは、あくまで軍事紛争の際の利点からであって、海外との交易上の観点からではなかったということである。

そもそもペリー来航時に、彼らが要求したのは航行中に欠乏した物資を補給するための補給港であって、貿易港ではなかった。
 


日本に開国を迫ったペリー


実際の日米修好通商条約をアメリカ側と度重なる交渉の末にとりまとめ、締結したのは大老井伊直弼に仕えた岩瀬忠震(ただなり)と井上清直(きよなお)の二人の外交官だが、特に横浜開港を持論としていたという岩瀬が、佐久間象山の影響を受けていたことを示す資料は見つかっていない。
 


掃部山公園にある井伊直弼像
 

神奈川区の本覚寺にある岩瀬忠震のレリーフ


象山と横浜開港の関係性について、横浜市歴史博物館学芸員の小林紀子さんに話を伺った。

「象山は横浜の開港を主張しましたが、それは決して貿易を目的としたものではなく、あくまで軍事上の利点からだったといわれています。一方で彼は、国を開き外国からさまざまな科学や軍事技術を取り入れる必要性も主張しました。この“さまざまな知識、技術の輸入”を拡大解釈すれば碑にあるような“通商交易の必要”となるのかもしれませんが、象山の顕彰碑は、この二つの象山の主張である“横浜開港”と“知識、技術の輸入”を結びつけて、通商交易の場としての横浜開港を象山が主張したかのように述べており、これは疑問です」
 


横浜市歴史博物館学芸員の小林紀子さん


象山の主張が横浜開港を促した、という説に関しては「日米修好通商条約締結時、自分の門弟である吉田松陰が国禁を犯したために連座して蟄居(ちっきょ)中だったので、象山は外に出られませんでした。外部と手紙のやりとりはありましたが、その時期の手紙には横浜開港についての意見は特に見られません。彼の言動が横浜開港に影響を与えたとは考えにくいです」とする。

結論として、佐久間象山恩人説は、日米修好通商条約と象山の持説を後代の人が結びつけたものである可能性があるとのこと。象山を恩人とするのはまだ検証の余地ありと、さらなる研究の必要性を強調する。

しかし、と小林さんは付け加えた。「象山顕彰碑は象山を『横浜開港の先覚者』としていますが、これは正しいと思います。横浜こそを開港場所にと主張した彼の先見の明は、今にして高く評価されるべきです」
野毛山公園の佐久間象山顕彰碑。ここからも横浜の歴史の断面が見えてくる。



取材を終えて



佐久間象山という人物は、名前は聞いたことがあっても具体的に何をしたかはわからない、という人が多いのではないか。取材に当たり、童門冬二『佐久間象山』(実業之日本社)など何冊か彼の事跡をとらえた文献を読んだが、その強烈な個性には瞠目(どうもく)するばかりだった。

彼の主張がはたして本当に横浜開港を推進したかどうかは、新たな資料の発見を待つしかない。のみならず歴史の解釈とは、何事によらず途方もなく難しい。一つの事実が、人によってまるで別の見方をされる。「知識、技術の輸入」か「交易」か。言葉の選び方一つで見方が変わる、世界が変わる。

象山が横浜の持つ“顕彰熱”によって担ぎ上げられた「恩人」に過ぎないとしても、横浜が国際港として適していることを指摘したその洞察力を、私たちは賛嘆すべきであろう。いずれにせよ、ここにも横浜の歴史の奥深さを表すテーマがあることは、間違いないようだ。


―終わり―


<取材協力>
横浜市歴史博物館

参考文献
童門冬二『佐久間象山』(実業之日本社)
山本盛敬『小説 横浜開港物語 佐久間象山と岩瀬忠震と中居屋重兵衛』(発行所/ブイツーソリューション 発売元/星雲社)
『季刊誌 横濱』P6~P10「横浜開港の原点を探る」斎藤多喜夫
2009年夏号 神奈川新聞社
『季刊誌 横濱』P8~P9「佐久間象山」小林紀子
2010年夏号 神奈川新聞社



※横浜市歴史博物館よりお知らせ
横浜市歴史博物館では2014(平成26)年5月末~7月にかけて、佐久間象山の書簡の展覧会を開催する予定です。詳しくは2014年の早春以降、チラシやHP等でお知らせいたします。妻に当てた手紙など、象山の学者ではない人間的な一面をかいま見ることのできる、貴重な機会です。ぜひお越しください。
 

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  • 「新選組!」で石坂浩二が演じた象山もなかなか良かったです。

  •  「八重の桜」で象山を演じた奥田瑛二はものすごくはまっていたと思う。

  • 正しくは、横浜「市」歴史博物館ですね。

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