生粋のハマっ子、桂歌丸師匠が生き抜いた真金町と横浜橋通商店街の足跡を辿る
ココがキニナル!
落語家の桂歌丸さんがお亡くなりました。生前の功績、足跡を調査してください/桂歌丸師匠の訃報を知り涙が溢れました。所縁の地でエピソードなどを取材してください(こむちゃんさん、ナチュラルマンさん)
はまれぽ調査結果!
盆踊りなど地域の催しには積極的に参加し、商店街に足を運んでは「調子どう?」と声をかける気さくな人柄。真金町出身であることに誇りを持っていた
ライター:はまれぽ編集部
歌丸師匠が愛した横浜橋通商店街
続いて、歌丸師匠のご自宅からほど近い横浜橋通商店街へ。
下町風情が残る横浜橋通商店街
商店街の中ほどには、献花台と横断幕が設置されており、
献花台には多くの方々が献花に訪れ手を合わせていた
普段は音楽が流れている横浜橋通商店街には歌丸師匠の落語が流れ、足を止めてその懐かしい声に耳を傾けている人もいた。献花台の設置と落語の放送は、当面の間継続するという。
横浜橋通商店街の八百屋さんで買ったさくらんぼを供えていた女性は、「よくこの商店街に来ていたみたいだから、商店街で買ったものをお供えしました」と話す。
「この商店街のものがいいかな、と思って」
「お亡くなりになったとお聞きして、私たちにできることはないかと考えた結果、献花台を置き、落語を流すことに決めました」と話すのは、横浜橋通商店街協同組合の高橋理事長。
献花へ訪れた人々へ花を手渡す高橋理事長
「歌丸師匠は目立ちたがらない人で、よく女将さん(歌丸師匠の奥さま)が商店街に買い物へ来られていましたよ。2015(平成27)年には、横浜南税務署で確定申告のイベントに無償で参加してくださったり、自身の著書のサイン会を行ってくれたり、街の発展に尽力してくださいました」という。
献花に訪れた人と笑顔で話す
高橋理事長は、「歌丸師匠にはこれからも落語家として、向こうの世界でも笑いを忘れずに、向こうの世界の方々を笑わせていただきたいです」と笑顔で話してくれた。
歌丸師匠が40年以上通ったそば処「安楽」
続いて、歌丸師匠が40年以上通ったそば処で、師匠が好んで食べていたそばをいただくことに。
伊勢佐木町寄りの北エリアに位置する、そば処「安楽」
「歌丸師匠がお好きだったものをいただきたいんですけど・・・」と入店すると、「はい、どうぞ!」と快く席に通してくれた。
年季の入ったお品書
「歌さんはね、あったかい『たぬきそば(650円/税抜き・以下同)』と『よこはまばしそば(1000円)』をよく注文してくれましたよ」と女将さん。
「よこはまばし」には、かきあげとろみと書いてある
「歌丸師匠と同じものをください」とお願いすると、「えー! 今日は外暑いけど大丈夫?(笑)」と気遣っていただいた。厨房へ注文を通すと、「歌さんと同じもの食べるんだって!」とご主人らしき方へ声をかける女将さん。なんだか嬉しくなる。
店内には地元の方らしきお客さんが入れ替わり立ち代り入店している。歌丸師匠をはじめ、地元の方に愛されるお店なのだろう。
料理を待っていると、一本の電話がかかってきた。女将さんが、「はい、歌丸さん。天丼と、たぬきと、よこはまばしと・・・」という声が聞こえてきた。まさか、と思っているとタイミングよく注文した料理がやってきた。
よこはまばしそば(温)
よこはまばしそばは、なめことしめじのあんかけが入っており、しっかりとしたしょう油味。熱々なのでハフハフしながら食べる。
細めの麺が食べやすい
かき揚げにはネギ、ニンジン、カボチャ、エビなどが入っており、とろみのあるつゆに溶けてよりまろやかな味わいになる。こりゃ美味い。
ぷりっぷりの大きなエビ
最後まで熱々だったので、汗を流しながら食べた。歌丸師匠もこの熱々のそばを夏に食べたのだろうか。
たぬきそば(温)
たぬきそばは、シンプルなのに深みがあって箸が止まらない。歯切れのよいコシのある麺で、甘みのあるしょう油味。天かすの油があっさりした味を程よく後押して、素材の味を堪能できた。
最後まで美味しくいただきました
ランチのピークを終えると、安楽の店主、石塚安太郎(いしづか・やすたろう)さんからお話をうかがうことができた。
安楽ファミリー。写真左から2番目が安太郎さん
「歌さんはね、この街のシンボルで、みんなの心の中に残る人。悲しいんだけど、涙は出ないよ」と安太郎さん。
歌丸師匠は温かいものが好きで、出前の注文が多かったという。
安太郎さんは、「さっきもね、歌丸さんのお家に配達へ行ってきたよ。ご家族のみなさん、思ったより元気そうで安心した。いつも配達へ行くと歌さんが出てきてくれて、偉い人なのに偉そうにしない、下町のおじさんだよ」と話す。
先ほどの電話は歌丸さんのご家族からの注文だったようだ
以前は横浜橋通商店街協同組合の理事長を務めていた安太郎さん。2011(平成23)年2月に大通り公園へ福島県の「紅枝垂桜(べにしだれざくら)」植樹に尽力し、桜の愛称を「歌丸桜」にしたいと師匠に直談判したそうだ。
日本三大桜「三春滝桜(みはるたきざくら)」の子孫
「歌さんは最初しぶっていたんだけどね、女将さん(歌丸師匠の奥さま)が『いいじゃないの』と後押ししてくださって。さっき出前へ行った時に女将さんに、『あの桜に“歌丸”の名前が残って良かった。ありがとう』とおっしゃっていただいて、本当に嬉しく思いました」と笑顔を見せた。
来年の春にはきっと素晴らしい花を咲かせるだろう
「『そばは縦に食べるから横に太らないんだよなぁ』とか、横浜橋通商店街の名誉顧問も、『顧問料は大福10個でいいよ』なんて言ってくれたり、営業前に店で朝ごはん食べていたら、ひょいっと顔を出して『お、食べてんの?』と声をかけてくれたり、本当に素敵な人だった」と安太郎さん。
『笑点』で座布団を10枚取った人にご馳走すると言って、安楽の2階で、林家木久扇(はやしや・きくおう)さん、林家たい平(はやしや・たいへい)さん、春風亭昇太(しゅんぷうてい・しょうた)さんなどと食事をしたこともあったという。
その時に持ってきてくれた笑点メンバーのサイン
安太郎さんからは、「どなたかが、『すごいの食えるぞ!』って言えば、『そば湯だよ!』と即座に切り返して(笑)」と、歌丸師匠のエピソードが溢れ出てくる。
お隣で食事をしていた近隣にお住まいの女性も、歌丸師匠のエピソードを聞いて大笑いしていた。
「さっきは商店街で歌丸さんの落語が流れていて涙が出てきちゃったけど、やっぱり歌丸さんは笑顔が似合うわね。定期的にやっている独演会に行ったことがあるんだけど、こんなに上手い人がいるのかって感激したのを思い出したわ。あんなに素晴らしい人はいないわね」と話してくれた。
こちらは出前に行った時にもらった笑点の50周年記念品
「歌さんが亡くなったら開けようと思っていてずっと開けられなかったんだけど、少し落ち着いたら中を見てみようと思うよ」と話す安太郎さん。
最後に、「歌さん、長い間お疲れ様でした。あちらの世界で清流釣りでもして楽しんでください! こっちは『歌丸桜』を見て歌さんを思い出すからね」とメッセージを届けてくれた。
タバコの代わりにハッカ
続いて向かったのは、歌丸師匠が買い物に来ていたというお菓子屋さん。
中央北エリアに位置する「タカナシ菓子店」
「いらっしゃい」と声をかけてくれたのは、タカナシ菓子店の店主、高梨晃(たかなし・あきら)さん。生まれも育ちも横浜橋通商店街だという。
写真左から、高梨さんの奥さま、高梨さん
高梨さんは、歌丸師匠も苦しんでいた腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)を患っており、「店に顔を出しては、『どう?』と声をかけてくれた。歌さんは目立ちたくない人だから、帽子かぶったりして変装して来ていたよ」と話す。
歌丸師匠が購入していたものをうかがうと、「タバコの代わりにハッカをよく買っていったよ」とのこと。
三角ハッカ(190円)
高梨さんは、「歌さんは甘いものも好きだったから、『医者にタバコを止められたからハッカ買いに来た』ってね(笑)。それから会話する中で同じ病気っていうので、ちょくちょく顔を出してくれるようになったんだよ」と笑う。
「三角ハッカってどんな味がするんですか?」と聞くと、「それ、開けて食べてみな」と高梨さん。「えっ!?」とこちらが戸惑っているのも何のその、
ささっとハサミで開けてくれた
「ここは下町だからさ、ほら食べな」とご馳走してくれた。
これが歌丸師匠が愛した味か・・・
口の中へ入れるとじわ~と甘みが広がり、少しずつ溶けていく。噛んでみるとホロっとほどけてハッカの香りが広がった。イメージしていた強いハッカではないが、甘さもハッカのスッキリとした香りも楽しみたい場合はちょうど良いかんじ。
優しくて素朴でどこか懐かしい、そんな味がした。
「歌さんは昔懐かしいお菓子が好きだったのよ」
高梨さんの奥さまは、「たまにね、商店街を歩いている方々に『歌さん来ているよ~』なんて言うと、『やめてくれよ~』って、とっても恥ずかしそうに笑っていらしたわ。女将さんがお孫さんを連れておもちゃを買いに来てくれたこともあって、女将さんも気さくで素敵な方でした」という。
店内にはお菓子を持った歌丸師匠のお写真
高梨さんは、「特別に仲が良かったとかそんなんじゃなくて、歌さんは誰に対しても気さくで優しい人だったんだよ。寂しいけど、でもきっとあっちでも笑っているんじゃないかな」と話してくれた。