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横浜・保土ケ谷区にあるハマレンガでできた「峰の赤富士」の正体とは?

横浜・保土ケ谷区にあるハマレンガでできた「峰の赤富士」の正体とは?

ココがキニナル!

滝ノ川あじさいロードにあるレンガ製の「峰の赤富士」は誰が何のために作ったの?また、道にも敷き詰められたレンガは「ハマレンガ」というエコ製品だそう。レンガの経緯や他の使用場所もキニナル!(ねこぼくさん)

はまれぽ調査結果!

「ハマレンガ」は「廃棄物リサイクル都市」を目指す行政の期待を背負った下水汚泥の再資源化製品だった。そして「峰の赤富士」には、事業を推進した元保土ケ谷区長の熱い思いが込められているようだ。

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ライター:結城靖博

「ハマレンガ」の誕生と顛末を探る


 
「ハマレンガ」が「下水汚泥を処理した灰で作られたもの」であることは、レンガが教えてくれた。確かにエコなものだった。だが、下水のドロでどうやってレンガを作るのだろうか。

調べていくと、1995(平成7)年8月の横浜市『調査季報124号』の記事「新・横浜はじめて物語/(1)ハマレンガ」で、ハマレンガの製造・販売開始を高らかに報じていた。
それによれば、増大する下水汚泥処分が市の大きな問題となるなか、汚泥を高温で焼却した灰100%を原料とし、それを長時間圧縮成形して作られたレンガが同年度から製造を開始したとある。
「焼却灰の成分による自然発色でレンガ色に」なるこのレンガは、高圧縮(約1トン/平方cm)で焼成するため通常のレンガよりも強度・耐久性に優れ、下水道資源を最大限に活用するため生産コストも低く抑えられるという。
執筆者である当時の下水道局担当係長は、記事の中で、供給体制や販路拡大などの課題を克服し、21世紀に向けて「廃棄物リサイクル都市ヨコハマ」を目指す製品のひとつとしてハマレンガに期待を寄せていた。

 
保土ケ谷区にあるハマレンガ製の「峰の赤富士」
期待を背負って生まれたハマレンガ
 

だが、現在横浜市のホームページでハマレンガの関連ページを調べると、2005(平成17)年3月末に製造を中止し、以後在庫販売のみ行っていたが、それも2007(平成19)年3月2日をもって完売した旨が記されている。

実は、ハマレンガの製造中止については、当時多くの新聞でも報じられていた。以下は、2005年2月1日付の朝日新聞全国版社会面「青鉛筆」のコーナーでの記事だ。
《横浜市が「ハマレンガ」(縦10センチ、横20センチ、高さ6センチ)の製造を3月末で休止する。(中略)透水性が低く滑りやすいことや形が1種類だけで使い勝手が良くないため売り上げは伸びず、01年には一時110万個が野ざらしに。今も40万個が売れ残る。03年度は製造コストが1億7800万円かかったのに対し、売り上げが5800万円。採算が合わず、新年度からは民間企業への製造委託を検討する。》

 
保土ケ谷区にあるハマレンガ製の「峰の赤富士」
雨上がり、ハマレンガの濡れた道(参考例:後出する坂本町の歩道)
 

そんなに滑りやすいだろうか? 筆者はさほどにも感じなかったが・・・。

ただし、この製造中止の理由については、問い合わせていた横浜市環境創造局下水道施設管理課からも、後日、次のような回答を文書でいただく。
「設備の老朽化に伴い大規模修繕や更新を検討するにあたり、需要の減少に伴う経費負担の増加が予想されたため、製造中止となりました」
また同書面には、製造中止後の下水汚泥焼却灰の活用法として以下の説明もあった。
「現在は、改良土(下水汚泥焼却灰を建設発生土などに混ぜ、良質な建設埋め戻材としたもの)や建設資材の原料、石炭の代替燃料(下水汚泥を炭のように蒸し焼きにしたもの)として、100%の有効利用を実施しています」

いずれにせよ、「ハマレンガ」の誕生とその顛末は、かくなるものだった。
新聞には「民間企業への製造委託」うんぬんとあるが、市のホームページにも「完売」とあり、回答書でも「平成18年度に在庫終了」と書かれていたので、少なくとも現在ではもう入手できないのだろう。

 
保土ケ谷区にあるハマレンガ製の「峰の赤富士」
かつてハマレンガが製造されていた金沢区の南部汚泥資源化センター
 
保土ケ谷区にあるハマレンガ製の「峰の赤富士」
環境創造局の資料によれば奥の四角い建物が当時の製造施設と思われるが定かではない
 



「峰の赤富士」に書き添えられた名前の正体は?



では、「峰の赤富士」に署名された「金子宣治」とは誰のことか?
その答えを知るには、それほど時間はかからなかった。

かつて保土ケ谷区には「あいさつ運動」や「お出かけ区役所」、区長みずから小学校に出向く「お出かけ授業」などユニークな施策を次々と打ち出し、さらには「区長室コンサート」やそこから発展した「保土ケ谷区の歌」の制定などにも携わった名物区長がいた。その名も金子宣治(かねこ・せんじ)氏。
しかも氏は、区職員採用当初から20年間下水道局に勤務し、その後も下水道事業にさまざまな立場から関わり続けながら、やがて下水道局長となる。そして、下水道局が機構改革で「環境創造局」に変わった2005年に保土ケ谷区長になるのだ。
そんな金子氏にとって、下水道事業の行政マンとして中核にあった時代と重なる画期的なハマレンガの開発は、おそらく思い入れの強い事業のひとつであったと容易に想像できる。

また、ここで「2005」という数字に注目したい。氏が区長となった2005年とは、前述した通り同時に3月末をもってハマレンガが製造中止となった年でもある。
ということは、金子氏にとって「峰の赤富士」は、氏のハマレンガに対するオマージュ(献辞)だったのかもしれない。

 
保土ケ谷区にあるハマレンガ製の「峰の赤富士」
丸いお皿が赤富士を照らす満月のようにも見える
 

ここまで筆者は、金子氏と「峰の赤富士」との関係について「想像できる」「かもしれない」と、憶測ばかり書いてきた。それは、この件について市および区に問い合わせたものの、正確なことはわからなかったからだ。

ただ、保土ケ谷区区政推進課から「峰の赤富士」について唯一残る資料として、以下の横浜市のホームページをご教示いただいたので、掲載しておこう。

 
保土ケ谷区にあるハマレンガ製の「峰の赤富士」
横浜市ホームページ「ほどがや語りべ集 ~常盤台エリア編~」より転載
 

左ページを見ると「峰の赤富士」の説明文に「タイムカプセルが埋められている」とある。いったいどんなタイプカプセルなのか、ますますミステリーは深まるのだが、それも区では不明とのこと。

いずれにせよ、もう二度と使われることのないハマレンガ。こうなれば、今見ることができる貴重な「ハマレンガスポット」を探してみようではないか。