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野毛の街の歴史について教えて!【後編―開港期にできたお店で一番古いのはどこ―】

ココがキニナル!

戦後まもない野毛周辺の街並みが気になる。今もあるお店の中で一番古いのは!?(とっくんさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

野毛に今ある店のなかでいちばん古いのは、人力車製造業として1876(明治9)年に開業した河本輪業である

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ライター:永田 ミナミ

野毛にならぶ店



前編では、野毛の歴史を俯瞰するかたちで、幕末まで小さな漁村に過ぎなかった野毛が、開港、関東大震災、戦争という大きな変化と困難をくぐり抜けて、独特な雰囲気をもつ活気ある街へと発展していく様子を振り返り、中編では、戦後まもない野毛で創業した店と、接収などの理由で戦後まもなく野毛に移ってきた店を訪ねた。

前編で開港からの歴史を振り返ったのは、戦後の野毛を知るために、より古い店へとたどりはじめたところ、意外とあっさり明治時代までさかのぼってしまったからである。
 


明治時代の野毛本通り(提供:横浜市中央図書館)
 

明治時代の野毛坂(提供:横浜市中央図書館)
 

「復興せる横浜」とあるので震災後の大正末期か昭和初期ごろ風景だと思われる
(提供:横浜市中央図書館)
 

同じく関東大震災後の「復興の横浜」野毛町通り(提供:横浜市中央図書館)
 

というわけで、今回は「現存する野毛でいちばん古い店」を訪ねて歩いたら、戦前から大正時代、そして最後には明治時代にたどりついた完結編である。前回も書いたが、明治の開港期から野毛で商売をしてきた店は、街の歴史をすべて見てきた店でもあるだけに、それぞれの店で聞く話はどれも興味深く、何気ない言葉が心に沁みたりもした。
 


まずは今回も古くからある店を調べてくださった「パリ一(いち)」田井さんに感謝
 

そして野毛に関する書籍を貸してくださった「苅部(かるべ)書店」苅部さんに感謝
  



ジャズ喫茶ちぐさ



日本のジャズ喫茶、そしてジャズの発信地として草分け的な存在であるジャズ喫茶「ちぐさ」は、1933(昭和8)年、吉田衛(まもる)さんが野毛に開業した。

戦後、コーヒーが10円の時代、1枚3000円のレコードはとても高価だったということもあり、進駐軍のキャンプなどで演奏していたトランぺッターの日野皓正(てるまさ)氏やサックス・プレーヤーの渡辺貞夫氏、ピアニストの龝吉敏子(あきよしとしこ)氏らが足繁く通い、ジャズに耳を傾けていたことで知られる。

そして、この野毛のシンボルである「ちぐさ」は、一度は閉店したものの、地域やジャズファンの尽力によって再生した店でもある。
 


現在のジャズ喫茶「ちぐさ」
 

「ちぐさ」は、もともと現在よりも大岡川寄りの野毛本通りに近い場所にあった。貿易関係の仕事をしていた父に連れられて、子供のころに渡米し、早くからジャズに触れていた衛さんが「ちぐさ」を開業したのは20歳ごろ。

それから61年後の1994(平成6)年、店主の吉田衛さんが亡くなられたあとは、衛さんの妹の孝子さんと、伝説的な店を守ろうという「ちぐさ」のファンたちによって運営されてきたが、そろそろ潮時だろう、ということで、2007(平成19)年に閉店した。
 


店内の階段を上っていくと、かつての「ちぐさ」の写真が展示されている
 

そして、新旧の「ちぐさ」の位置関係はこんな感じである
 

かつて「ちぐさ」があった場所は現在マンションになっているが
 

上の写真の駐車場入り口付近の地面を見てみると
 

この場所に「ちぐさ」があったことを示すタイルが埋め込まれている
 

2007(平成19)年に一度、歴史の幕を閉じた「ちぐさ」だが、閉店から3年後の2010(平成22)年に、東京芸術大学講師の川崎義博氏が、ビルの一室に「ちぐさ」を完全再現した「野毛にちぐさがあった アーカイブプロジェクト」を開催すると、10日間で2000人が来場するという、異例の集客となった。

そうした結果が商店街を動かし、野毛に「ちぐさ」を甦らせようということになり、2012(平成24)年3月11日、一般社団法人として、現在の場所に新しい「ちぐさ」が開店したのである。再生した「ちぐさ」は、1階がジャズ喫茶、2階は「吉田衛記念館」になっている。
 


記念館には、8割ほどのサイズに縮小された旧「ちぐさ」が再現されている
 

記念館の店内には、壁一面にビル・エヴァンスのレコードが飾られている
 

かつての看板の下の棚には『スウィング・ジャーナル』などジャズ書籍がならび
 

ジャズ・ミュージシャンと吉田衛さんの写真も数多く展示されている
 

お話をうかがった、現在の店長の島直希さん
 

島さんは、もともと開店時に知人から誘われ「ちぐさ」のスタッフとなったのだが、店を運営していた「ちぐさ」のファンたちから「これからのことを考えると若い世代に引き継ぐべき」という声が出て、昨年10月に店長を任されたという。

ひょんなことから店長になった島さんだが、「ちぐさ」にやってくる常連客が、いまでも衛さんを慕って来店し、衛さんがそこにいるかのように話しているのを見ていると、どんなに惜しまれてもなくなっていく店はなくなっていくなか、こうした人たちが行動して復活させた店の存在意義を強く感じるようになったという。

「1930年代前半にジャズ喫茶を開店した吉田衛さんは、当時でいうと最先端の文化に目を向けていた人間だと思うんですよね。いまの『ちぐさ』は、一般社団法人というパブリックな側面も持っているので、さまざまな文化活動を通して、新しいもののための実験場も提供していきたい。それが『ちぐさ』を受け継ぐということでもある」という島さん。野毛のシンボルとしての「ちぐさ」の今後の活動に期待である。
 


1階はかつてと同じスピーカーの音に満たされ、静かな時間が流れている