鎌倉の謎地名、「谷」を「やつ」と読む理由は?
ココがキニナル!
鎌倉市には「~谷」を「~やつ」と読ませる場所がたくさんあります。その所以がキニナル!/鎌倉に近い金沢区でも同じような地名が!併せて調査を。(sky13748さん/たにけいさん)
はまれぽ調査結果!
「谷(やつ)」がつく地名が多いのは山の間という地形が由来。「やつ」と読むのはアイヌ語の語源とされ鎌倉では日常的に使われていた。
ライター:橘 アリー
どれだけ「谷(やつ)」があるのだろうか?
現代では「谷」という漢字は「たに」「や」と読むのが一般的であろう。しかし、鎌倉では谷を「やつ」と読むことが多いという。
鎌倉に谷を「やつ」と読ませる地名がどれだけあるのかについて調べてみると・・・
資料『鎌倉の地名由来辞典』付箋を付けたところが「やつ」と読む地名
ちょっと、気が遠くなりそうな数である。
この資料には、鎌倉に隣接する地域も載っているが、鎌倉のみで「やつ」と読む地名を書きだしてみると・・・
なんと、全部で56。こんなにあるとは本当に驚きである!※クリックで拡大
なお「谷」を「や」と読むのは、姥ヶ谷(うばがや)小袋谷(こぶくろや)関谷(せきや)などがあり、それ以外では、地獄谷(じごくだに)長谷(はせ)などがあった。
「やつ」と読む地名の多くは字名・小字名や谷の名前。その中で扇ヶ谷(おうぎがやつ)は、現在も住居表示の地名として使われており、ほかのものは、その地域の呼び名として残っている。
1919(大正8)年の鎌倉の地図で、いくつかの名前を確認できる
その中からいくつか印をつけて確認してみる。青丸が「扇ヶ谷」、赤丸が「葛西ヶ谷(かさいがやつ)」、黄丸が「比企ヶ谷(ひきがやつ)」。
名前の由来については「扇ヶ谷」は、諸説あるが「山と谷が入り組んだ扇形の地形であるから」という説が有力。「葛西ヶ谷」は小町の小字で、谷奥には「腹切りやぐら」があり、源頼朝の重臣である葛西清重(かさい・きよしげ)亭があったことに由来。「比企ヶ谷」の由来は、鎌倉時代の御家人の比企能員(ひき・よしかず)一族の屋敷があったことによる。
草が生い茂っている「葛西ヶ谷」。この奥の方に「腹切りやぐら」があるよう
『鎌倉の地名由来辞典』には、地名の由来についてはそれぞれ記述があるものの、「谷」を「やつ」「や」などと読むことについてその理由の記述はなかった。
それでは投稿にあった横浜市金沢区の「北谷(きたやつ)」についても調査してみよう。
資料『新版かねざわの歴史辞典』によると「北谷」は現在の釜利谷東5丁目の南部にあった字名であるとのこと。
「北谷」と呼ばれていた周辺は、現在は住宅地
「北谷」という名前は京急バス路線のバス停の名前として残っていた
そして「北谷」には民話の伝承があるようだ。
昔、北谷バス停近くに「うなぎの井戸」と呼ばれた井戸があったという民話がある。これは以前に「はまれぽ」で調べた関バス停近くの「うなぎの井戸」と全く同じ内容であるそうだ。
この2つの「うなぎの井戸」は共に上大岡方面から金沢区へ通っている笹下釜利谷(ささげかまりや)道路のそばにあり、笹下釜利谷道路は「かねさわ道」と言われていた鎌倉へ向かう道の一つであった。
地図で確認すると、青丸が「北谷」バス停。赤破線の辺りが鎌倉市
バス停のある「笹下釜利谷道路」はオレンジ線。黄色矢印方向が上大岡となる。
地図で見ると「北谷」は鎌倉に近い場所であり、そのため鎌倉と同じように「谷」を「やつ」と読むのかもしれない。
「北谷」の字名の由来は、いくつかの資料で確認したが載っておらず、金沢区のシティガイド協会にも問い合わせてみたが、残念ながら不明。
ますます、なぜ「やつ」と読むのかキニナってくる。
「北谷」バス停の近くには、鎌倉・室町時代の武士や僧侶の納骨堂として使われていた「やぐら」と呼ばれるものがあり、鎌倉を感じられた。
「やぐら」はフェンスで囲まれていている
なお、金沢区の「谷」がつく地名には、昔の字名は「関ヶ谷(せきがや)」「高谷(たかや)」「大谷(おおやと)」、現在もある地名では「釜利谷(かまりや)坂」「谷津坂(やつざか)」などがあった。
鎌倉、またその付近には「谷」を「やつ」と読む地名が多いことが分かった。続いて、人々は「谷」を「やつ」と読むことができるのか調べてみることにした。