三浦市にある江戸時代から続く県内唯一の「大漁旗」の染物店とは?
ココがキニナル!
ミニ大漁旗の手染め体験もできるという、創業180年以上の歴史を持つ神奈川県唯一大漁旗を製作する染物店「三富染物店」ってどんなお店?(トラズキノコさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
今でも江戸時代と同じ方法で染められている三富(みとみ)染物店の大漁旗。受け継がれた技は、その世界を広げていた
ライター:やまだ ひさえ
「大漁旗」をご存じだろうか。新しい船の進水式のときに、船に飾られるお祝いの旗だ。
大漁旗があげられた船 (フリー画像)
三浦市は、昔から漁業が盛んな土地。今回取材する「三富(みとみ)染物店」について、大漁旗を作る店の存在は知っていたが、まさか江戸時代から続く老舗だとは思っていなかった。そのうえ、体験までできると聞いて、新たな期待とともに伺った。
場所は三浦市三崎。マグロの街として知られる、沿岸漁業や釣舟の拠点としても知られている三浦市屈指の漁港だ。
三崎港の船着き場
城ヶ島大橋をバックに今も多くの漁船が係留されている三崎日の出の船着き場。目的の三富染物店は、ここから歩いて1分の場所にある。
三富染物店
三富染物店は江戸時代から続く老舗で、1833(天保4)年創業。神奈川県内ではただ1軒、大漁旗の製作を行っている。
「江戸時代は幕府の御用職人でした」と話してくれたのは、7代目になる三冨由貴(みとみ・よしたか)さん。
自作のはんてんを着て話を聞かせてくれた由貴さん
三冨家では、代々当主は「實右衛門(じつえもん)」を名乗る決まりだが、6代目實右衛門のお父さんは、体調を崩されていて残念ながらお会いできなかった。
江戸時代には、戦用の幟(のぼり)やはんてんを染めていた三富染物店。
伝統の技を生かした垂幕(たれまく)
お土産としても人気の手ぬぐい (1枚700円)
染の伝統を生かしながら、「三崎に三富染物店あり」と名声を博しているのが大漁旗。「かながわの名産100選」にも選ばれている伝統工芸だ。
店のシンボル、畳3枚分もある巨大な大漁旗
「大漁旗が作られるようになったのは、大正時代の終わりごろからです」と由貴さんは言う。
その経緯は「船の所有者を示す印旗が進化した」という説や、「間祝い(まいわい)と呼ばれる大漁の祝いで、船主が漁夫や知人に背中におめでたい図柄を染めた、はんてんの背中の図柄を旗にした」などが有力な説だ。
大漁旗のもともとの目的は、大漁を浜で待つ家族に知らせ、人手を集めるためのものだった。それがいつしか、新しい船の進水式にも使われるようになった。
1956(昭和31)年に三浦海岸で行われた進水式
大漁旗は、大漁と航海の安全を願い、知人や関係者から船主に贈られるもの。進水式は、地元をあげてのお祝いだった。
大漁旗を掲げて初航海を祝う新造船
技術の進歩で漁船の性能は格段に進化した。だが、大漁を願う気持ちも航海の安全を祈る思いも変わらない。新造船を祝う大漁旗の習慣は、今も受け継がれている。
人々の思いが込められている、それが大漁旗だ