横浜市が掲げる特別自治市構想のその後は?
ココがキニナル!
大阪都構想法案が成立、横浜市の特別自治市構想はどうなっている?(はまれぽ編集部のキニナル)
はまれぽ調査結果!
横浜市の案は大阪都構想のように、特別区を設けるものではない。また、神奈川県の構想とも違うので実現は遠そう。
ライター:吉田 忍
横浜市に特別自治市制度が求められる背景
同骨子には、横浜市に特別自治市制度が求められる理由について、いくつかの背景が記載されている。
その内容は、「大都市部において、より深刻な状況になると予想される高齢化への対応が求められる」「横浜市の市民税に占める個人市民税の割合は約86%と高く、将来、横浜市の税収に影響を与える可能性がある」「下水道、道路、学校などの施設が老朽化しており、更新時期を次々と迎える」というもの。
横浜市は他地域に比べ、より高齢者が多くなると予想
※画像:横浜市政策局
個人市民税の比率が高い横浜市
※画像:横浜市政策局
老朽化した施設が多い
※画像:横浜市政策局
税収が減り、お金がかかることが増える一方である。早急な対策が必要だが、では、横浜市が特別自治市になると、なぜこうした問題に対応できるのだろうか?
横浜市は特別自治市になることにより市内で3.7兆円の経済効果があると試算している。また、37万人の雇用効果が見込まれ、それに伴い税収も1740億円増加するとしている。
少々眉にツバを付けて聞きたい数字だが、特別自治市となって権限を得れば、経済成長に寄与する分野に投資を集中することなどができるので可能な数字だとのこと。
また、二重行政において、県から移譲される職員1200人を削減できるという。
ただし、神奈川県は、県と市との二重行政はほとんどないと否定している。
さらに、横浜市に特別自治市制度が求められる理由について「日本の国際競争力が低迷している。横浜市がこれまで以上に日本の経済をけん引する役目を果たすため」としている。
横浜市が大都市の役割に見合った権限と財源を持つことで国際競争力が高まり、経済の活性化になるということだが、ここについては、個人的には異論がある。
港の貨物取扱量はアジア各国とこれだけの差がある
※画像:横浜市政策局
例えば、横浜港をシンガポールや上海のようなハブ港にしようという施策とのことだが、貨物取扱量はすでに横浜より東京の方が多くなっており、また、東京と横浜を合わせてもシンガポールの1/4の貨物取扱量でしかない。
このような経済面での国際競争力強化については、横浜、川崎、東京などを合わせてあたらなければ太刀打ちできないのではなかろうか。
地方自治のいろいろな考え方
地方分権には、より広域な行政という考え方もある。
すでに、2006年に「道州制特区法」が成立しているが、これは、3つ以上の都府県が合併すれば、道州制特区となり、大きな権限が与えられるという法律。
より広域な地方行政が適当だとする考え方に基づくもので、かつて市町村合併が盛んに行なわれたが、その合併を都府県にまで広げると考えると分かりやすい。
黒岩知事の言う「神奈川独立国」(神奈川州構想)は、神奈川県単独で、道州制における権限を得ようとするもの。横浜市が特別自治市となるよりも、現在の神奈川県程度の行政単位の方が有効としている。
地域の問題は、小さな行政単位でより有効に、一元的に解決されるべきである。一方、道路や河川などの問題については、より広域な自治体である方が効率的だろう。
現在は県が担っている警察も特別自治市の役割とするとなっている
※画像:横浜市政策局
川崎市も独自に特別市構想を持っているが、阿部市長は「特別自治市の実現と、道州制はセットだ」と述べている。「現在の」にこだわらず、大きな視野で見直すことも必要だろう。
取材を終えて
神奈川県と横浜市の構想は違うものだが、解決しなければならないとする課題は同様である。両者が上げるメリットもほぼ同じ。
横浜特別市構想も神奈川州構想も、今後、より具体的な内容が公表されるだろう。
残念なのは、今まで県と市で公式な話し合いが持たれていないということ。
大阪が実施しようとしている大都市地域特別区設置法でも、府と関連市町村の合意が必要。お互いが違う案を主張しているだけでは、実現はない。
横浜市の借金の総額は、平成23年度末現在で5兆484億円。そのうち、料金収入などで償還する分を除いたもの、つまり市税などで返していかなければならない借金は、3兆4753億円、市民一人あたりに換算すると約94万1500円。来年には、負債総額約1500億円を抱えた土地開発公社の解散で、横浜市は借金をさらに上積みすることになる。
権限が大きくなれば、さまざまな局面で債務のリスクも当然上がる。国や県から権限を委譲されるということは、責任もそれだけ大きくなること。さらに、独断で決定できるということは、即効性はあるが、抑止力が効かなくなる可能性もある。
大阪都構想は来年にも実現に向けて動き出すが、制度の変更には住民投票が必要になる。
最終的に決めるのは住民である。このような大きな制度改革は、神奈川県、横浜市の未来に大きな影響を及ぼす。注意深く推移を見守りたい。
― 終わり―
*横浜市大都市自治研究会第1次提言
http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/daitoshi/bunken/jitiken/teigen-honbun.pdf
*横浜市特別自治市大綱素案(骨子)
http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/daitoshi/bunken/torikumi/date/120621soankossi.pdf
*横浜市が提案する「特別自治市」ってなあに?
http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/daitoshi/bunken/leaflet/leaflet-tokubetsu.pdf
totoron274さん
2013年04月09日 10時32分
大阪市の橋下徹市長は2012年8月2日午後、区長の公募(横浜市長選挙と同様に、区長選挙もすること)に慎重姿勢を示している林文子横浜市長を「本質的な議論から逃げている」などとツイッターで批判したが、個人的には橋下市長のいうことが正しいと思う。今現在、大阪府と大阪市の関係同様に、神奈川県知事よりも約370万都市を束ねる横浜市長の方が権限が強く、何も出来ない神奈川県知事は「湘南知事」と揶揄されている。なので大阪都構想が上手くいったら、横浜市が提案する特別自治市ではなく、「横浜都構想」を実現させてほしい。当然権限が奪われる現在の林文子横浜市長等々は猛反発するだろうから、大阪維新の会の前「中田宏横浜市長」に市長選挙に立候補してもらって、川崎市等を巻き込んだ「特別区」設置に向けた「横浜都構想」を実現させてほしい。そうなれば区長も選挙となり、それぞれの区にあったきめ細やかな行政サービスが実現する。
Nicksさん
2012年11月14日 23時26分
客観的な視点を維持する事が大事ですね。記事は冒頭から何故「大阪のように大都市地域特別区設置法を適用できないか」と切り込んでいますが、留意したいのは大阪都構想は関西が大阪市や堺市のような市単位での郷土意識より関西という意識が優勢なので政令市を除いて特別区を設置しようとする機運が熟成しやすいと思います。横浜市のように区人口が10万~30万人程度で推移し区民意識より市民意識が優勢な地域では特別区設置で横浜の冠が失われることへの抵抗はあると思います。また区議会や区長選出による議員や公務員数の肥大による支出増という視点も必要でしょう。横浜市民としては同じような仕事をする機関が地域に県市2系統で存在することに無駄を感じる人もいるでしょう。国交省が主導した国際戦略港の中で横浜・東京・川崎を京浜港として競争力強化といった話しもありましたが、東京港は独自戦略を先行させ各港の足並みが揃わない現実もあります。
acts29さん
2012年11月13日 11時08分
横浜市は370万人の人口は独立国家並みの規模。一人の市長でカバーするのは到底無理だ。地域に応じたキメ細かい施策のためには横浜市役所の分権が必要だが、抜本的な改革は無理。神奈川県の提案が合理的とも思われるけれど、横浜市の良さもある。こうした議論が市民レベルで活発になることが望ましいので、さらなる情報提供を望みたい。