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苦境に立つ「横浜いのちの電話相談」。日本一負担の大きい研修って本当?

苦境に立つ「横浜いのちの電話相談」。日本一負担の大きい研修って本当?

ココがキニナル!

「いのちの電話」のボランティアが不足していますが、横浜はその研修費用が全国で一番高く、宿泊研修も含めると約10万円も掛かるんだとか! どうしてそんなに高いの?(こりこりさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

横浜いのちの電話では、「養成研修費用」の引き下げを検討中。ボランティア相談員の負担の大きさと役割の重さ、減少する若者からの相談対応などに頭を悩ませながら、24時間対応の活動を行っている

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ライター:はまれぽ編集部

警察庁の統計によれば2017(平成29)年、日本では2万1000人を超える人が自ら命を絶っている。3万4000人を超えていた2002(平成15)年に比べれば減少傾向にはあるが、日本が「自殺大国」であるという事実は揺るぎない。

自ら死を選ぶことを防ぐための取り組みはさまざまだが、そのうちの一つが「いのちの電話」の取り組みだ。悩みを抱えた人がそれを打ち明ける受け皿として、各都道府県や政令指定都市など、全国49ヶ所に置かれたセンターで活動を行っている。
 


「横浜いのちの電話」は365日24時間電話を受け付けている(公式HPより)

 
そんないのちの電話の相談員は、全員がボランティア。交通費は出ず、謝礼などは一切ない中で、電話越しに相手の悩みに寄り添い、受け止めているのだ。
加えて、相談員になるためには希望者自身が費用を払い、1年間の研修や合宿研修を受ける必要があるという。

それだけでもなかなかできることではないが、実はこの研修費は各地のセンターによってバラバラ。中でも横浜は全国で一番費用が高いという。
つまり、責任や負担も大きい相談員になろうという人にとって、さらに高いハードルがあるということになる。

そしていのちの電話相談員は、深刻な人手不足に陥ろうとしている。いったいどういうことなのだろうか。今回は、横浜いのちの電話事務局へ取材に伺うことになった。
 


事務所は保土ケ谷区だが場所は非公開、写真もNGだった

 
いのちの電話事務局は、他の福祉機関も入居する建物の一室にあった。事務室の奥に電話相談を受けるボランティアが働く部屋がある。取材時には、2人の相談員が電話応対をしていた。

「横浜いのちの電話は、24時間365日電話を受け付けています。相談員は常に2人態勢で1日に5班が対応するシフトを組んでいますが、深夜は仮眠をとるために1人になってしまう時間帯もあります。人手はギリギリの状態です」。横浜いのちの電話事務局の花立悦治(はなたて・えつじ)事務局長は、そう説明する。
 


できるかぎり多くの電話に出たいという想いはあるが・・・(写真は事務局提供)

 
実際に、2人の相談員が電話に出ている間にも、他回線からの着信を知らせるランプがピカピカと光る。しばらくすると諦めたように着信ランプは消えたが、すぐにまた1つ、2つとランプが灯った。

「この着信は出ることができません。相談員が一人増えれば、単純に受電階数は50%増しになるのですが」と事務局長は沈痛な面持ちで話す。一回の通話ごとに、通話時間は平均20分程度。電話につながるかどうかは、タイミングと運の問題が大きい。20回から30回掛けて、ようやくつながる状況だという。

電話の内容はさまざまだが、「精神」「人生」「家族」「対人」などの悩みが多くを占めている。相談内容によっては専門家が必要なこともあるため、金銭問題や離婚、DVなどの法律問題にかかわる場合は法律相談の窓口につなげたり、臨床心理士による心理専門相談で対応する場合もある。
 


専門家の協力も得て対応している

 
「電話は朝から多くなり、夕方に掛けて減っていきますが、夜になるとまた増えていきます。一日誰とも話さなかった、悩みを受け止めてくれる友達がいない、など理由はさまざまですし、単純に寂しいからと電話をかけてくる方もいるようです」と花立事務局長。電話相談は一期一会で、その受電限りの対応だ。相談員が相手の個人情報を聴き出したり、内容を漏らすことはない。

そうした電話相談の性質上、相手の悩みに対する積極的なアドバイスをするのではなく、基本は聴き役となり、相手の言葉の受け皿になることが求められる。

相談員は年に1回、電話相談の専門家によるスーパービジョン(対人援助職者が指導者から教育を受ける過程のこと)を受けてフィードバックを受けたり、継続して研修を行うなど、勉強も必要になるようだ。

横浜いのちの電話の相談員数は、多い時期には300人を超えていたが、2017年度は167人。2016年度と比べても7人減った。対応した電話は21372件に上る。
現在の2人態勢を維持するためには160人の相談員が必要で、かろうじてレッドラインは超えていない状態だが、来年度はどうなるか分からない。



相談員希望者に立ちはだかるハードルとは?
 


助けを求める声に応えるには?(写真はフリー画像)

 
2017年度の電話相談員募集要項では、
・年齢が23歳から70歳未満の人
・横浜いのちの電話の活動と基本理念に賛同し、積極的に参加できる人
・1年間の養成コースに参加できる人(週1回2時間及び宿泊研修2回)
・電話相談員ボランティアとして無料奉仕できる人(交通費も自己負担)
・24時間年中無休の電話相談において、原則として月2回の担当ができる人

という条件に加えて、研修費用7万円(前期3万円・前期Ⅱ2万円・後期2万円)を支払う必要がある。別途、宿泊研修の費用も必要だ。

週に1回、夜2時間拘束の研修があることや、宿泊研修そのものも大きな負担だが、さらに大きな費用負担がのしかかることになる。
金銭的、時間的、心理的に余裕のある人しか相談員になれないのが実情のようだ。
 


自分の生活に余裕がなければ、相談員は難しいという現実がある

 
この横浜の研修費は、ほかのセンターに比べてどの程度なのだろうか。
花立事務局長は「金額として、ほかのセンターの研修費用よりも横浜が高いのは事実です。例えば、とある県では行政からの補助もあって研修費はかかりませんが、横浜では全て受講者の負担になっています。しかし相談員が不足する中でハードルを下げるために、研修費用は改定したいと考えています」という。

これまで、研修負担額を変えないまま運営してきたが、昨年、個人の方が全国の研修費用を比較してサイトに公開したことなども問題提起となり、費用の抑制を検討。研修会場の変更などによって、約1万5千円程度の引き下げが可能になりそうだという。

とはいえ、研修費用を下げれば相談員が倍増するわけではない。横浜では現在の費用負担でも2017年度19人から応募があったが、「研修費が安い県でも、応募者がゼロの場合もあります。研修所に通えない、過疎化が進んでいるといった影響もあるのかもしれません」。それでも、やはり研修費用が一つのハードルになるのは間違いない。



若年層の受け皿はどこへ?

もう一つ、いのちの電話相談が直面するのが、若年層のいのちの悩みについての課題だ。
いのちの電話事務局が集計した2017年度の年代別受信件数では、20代が912人、30代が1825人に対して、40代が3564人、50代が3486人と中年層が圧倒的に多くなっている。これは最近になって表れ始めた傾向だという。

花立事務局長は「かつては10代~20代の相談がもっとも多かったのですが、受信件数の山の位置がどんどんずれていっている。当然、若い世代の悩みがなくなったわけではありません」と訴える。
 


若年層の電話は減っているが・・・(2017年度活動報告より)

 
いま、10代の若者が悩みに直面した時に、頼るのはインターネットやSNSだ。顔の見えない相手を悩みの受け皿に選ぶことは、気軽であってもリスクが大きい。2017年に神奈川県座間市で起きた連続殺人事件など、そうした弱みにつけこんだ犯罪の被害者になってしまう場合もある。
 


若者の悩みが見えにくくなっている(写真はフリー画像)

 
全国のセンターを束ねる一般社団法人日本いのちの電話連盟では、試験的にメールによる相談受付を行うなどの取り組みが始まっているが、メールやチャットでの相談はノウハウがなく非常に難しい。電話では相手の声色で相手の気持ちが伝わり、こちらも声で伝えることができるが、文字では機械的な印象になってしまう。

「インターネットに相談の場を広げるという考えもありますが、電話相談にいかにつなげるかということも課題」と話す花立事務局長。そのためにも、やはり体制の維持・強化は必須と言えそうだ。



「ポルトガル語・スペイン語」対応の理由は?

横浜いのちの電話の特徴の一つが、ポルトガル語とスペイン語による「外国語電話相談」だ。これは、全国でも横浜と浜松のセンターのみが実施する取り組みだという。

背景にあるのは、かつて南米から出稼ぎにきていた人が、孤独や自殺願望の末に事件を起こしたこと。そうした人々のケアを求められたという経緯があり、神奈川県と横浜市の支援を受けて1993年に開局した。特に、自動車関連の工場などで働くブラジル(ポルトガル語)やそれ以外の南米諸国(スペイン語)の人が対象となっている。
相談時間は、水曜午前10時~午後9時、金曜午後7時~午後9時、土曜午後12時から午後9時までの週3日。相談員はやはり研修が必要になるが、行政からの補助もあり無料(交通費は自己負担)。

なぜ、多くの外国人が使える英語での相談はないのだろうか。
実は、英語での電話相談は「東京いのちの電話」が実施している。すでに窓口があるため、英語を母語とする人の相談は東京が受け皿になっているのだ。当然、都内やほかの自治体に住むスペイン語・ポルトガル語を話す人の相談は、横浜や浜松が受けることになる。
 


日本で孤独を感じている外国人労働者も多い(外国語相談案内ページより)

 
かつては、長距離での電話料金が高くなることから、各地域にいのちの電話センターが設置されてきた。
確かに、携帯電話やスマートフォンが普及した現代では、地域を超えた窓口に電話することも自然ななりゆきだ。そうした中で、地域のいのちの電話センターも役割分担を行うべきときに来ているのかもしれない。



それでもなりたい「相談員の魅力」

責任と負担は大きく、見返りはないーー。そんなイメージの強い電話相談員になるのはなぜなのか。相談員を代表して、元会社役員だという男性にその魅力をうかがった。

「決して数は多くないですが、私が話を聴いたことで『少し気持ちが軽くなりました』『明日も頑張ってみます』と言ってくださる方がいるのが、相談員のやりがいです。本当につらい内容の電話もありますが、相談者が何かを見つける、あるいは気付くための手伝いができるということは、何にも代えがたい活動だと思います」とその魅力を話す。

また、「特に男性は、聴き下手な人が多い。けれど、高圧的だったり上から目線で自分の価値観を押し付けるような人は、相談者にはすぐに分かってしまう」という。相談員になることで、家族とのコミュニケーションもうまくいくようになるなど、「私生活にも良い影響がありました」とも話してくれた。


取材を終えて

「相談員になる」というハードルは非常に厳しい。それは研修費が下がっても、あまり変わらないかもしれない。時間的な拘束、心理的な負担・・・活動に二の足を踏む理由はたくさんある。

それでも、取材時に「私も早くに研修を受けていたら、人生が大きく変わっていたかも」と話す現役相談員の方は、迷いなく「やりがいのある魅力的な活動です。多くの方にそれを知っていただきたい」と胸を張っていたのが印象的だった。

苦境に立たされている活動だが、誰かの人生を少しだけ楽にしているいのちの電話相談。事務局では寄付の受け付けや講演会などの活動も行っている。
筆者も含め、興味があっても今すぐには参加できない・・・と考えている人も、まずはできることからスタートしてみてもらいたい。


ー終わりー


横浜いのちの電話相談
http://www.yind.jp/index.html
相談窓口/045-335-4343
事務局/045-333-6163
※毎月10日はフリーダイヤル
0120-783-556
(午前8時から24時間)

 

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  • これは普段光が当たらないことに光を当てたいい記事。拡散したい内容。
    でも、ツイッターやり方わからない。。

  • 自己負担が多い上に逆恨みされないとも限らない、なんか報われないと思う人は少なくないはず。

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