安全確保のために移転した火薬工場

「火薬の取り扱いに関しては日本には『火薬取締法』という法律があり、さまざまな規則が厳しく定められています。それによると工場の周囲には空地（くうち）を作らなければならないという決まりがあり、そのために自然がそのまま残されたのだと思います」

安全確保のために広い面積と空地を用意しなければならないという火薬工場の特殊性が、思いがけず現在の「カーリットの森」の自然を守ったのである。
　

かつての保土ケ谷工場。住宅地が迫ってきている（画像提供：日本カーリット株式会社）

同社が保土ケ谷工場を閉鎖して群馬県赤城工場へ全面移転したのは1995（平成7）年。そこには横浜の人口増加そして都市化という時代の推移があったようである。

「横浜が都市化して住宅がどんどん迫ってくる。ものを作っても売れない時代になり、移転もやむなしという苦渋の決断をしたのだと思います」

危険ゆえに都市では火薬の製造が困難になったということのようだ。工場跡地は売却され、横浜市が管理する公園となった。

「跡地を公園にしていただいたことに感謝しています。私もときに訪問することがありますが、懐かしく感じます」
　

日本カーリットの跡地にたちばなの丘公園ができた
（クリックして拡大　画像提供：日本カーリット株式会社）

保土ケ谷工場時代には社員のために和田町駅からバスの直行便が出ていたという。横浜の産業史に残る日本カーリット株式会社は、現在では火薬のみならず電気分解の技術を応用するほか、電子部品の製造販売などさまざまな事業を行っている。

かつては火薬工場だった「カーリットの森」。それではこの緑地を管理する行政にも話を聞いてみよう。

現在まだ開発途中

「カーリットの森」の一部に作られた「たちばなの丘公園」に関して、三ツ沢公園にある横浜市環境創造局北部公園緑地事務所で小國徹（おぐに・とおる）課長補佐（写真NG）に話を伺った。
　

三ツ沢公園にある平沼亮三の像
　

北部公園緑地事務所

「現在、たちばなの丘公園に関しては、草刈りは年2回、トイレの清掃は週に数回行っている状況です」

投稿にある“荒れ放題”という意見には「たまたま草が伸びているときにご覧になられたのでは・・・」と首を傾げる。

公園の管理に関して、とくに苦情のようなものは届いていないとのこと。草刈りは業者に依頼しているが予算の都合上、そう頻繁にできないことをご了解いただきたいとのことだった。
　

図面を使って説明される

「たちばなの丘公園はまだ未完成で、全体の3分の1もできていません。入り口に近い広場しか整備されていませんが、完成すれば総合公園としてお披露目できると思います」

駅からは遠いが、いずれ駐車場も用意される。

いつ完成ですか？　という質問に対しては「予算の状況で変わりますので、はっきりしたことは公表できません」と、明言を控える。

細部に関することなどすべて決定されたわけではなく、これから計画し、形に移していく部分も多いようである。
この広い公園が今後、多くの人に知られ、憩いの場となることを期待したい。

取材を終えて

“火薬工場”とは何とも物騒な字面だが「カーリットの森」の入り口であるたちばなの丘公園は土塁に当時の作業部屋が保存され、説明板も添えられており、歴史的な価値を尊重する姿勢が感じられる。心身ともにリラックスできる公園で、思いがけず横浜の産業史をかいま見ることができるのは、心憎い演出である。

たちばなの丘公園は現在建設途中であり、今後いよいよ公園として充実していくとのこと。
　

広々とした空間
　

整備された通路
　

心安らぐ公園である

ただし、時期的なことははっきりしない。予算とのにらみ合いも、当分続きそうである。
たしかに駅からは若干距離があるが、バスもあるので、一度訪問されてはいかがだろう。かつて人を遠ざけた火薬工場がいまや人を惹きつける公園として生まれ変わったのは、愉快な「歴史の皮肉」といえようか。


─終わり─
　

取材協力
日本カーリット株式会社
http://www.carlit.co.jp/
　
カーリットホールディングス株式会社
http://www.carlithd.co.jp/
　
横浜市環境創造局
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/