約1000年前からあるやぐら? 金沢区六浦のスシロー裏にあるぽっかり開いた巨大な謎の穴の正体は!?
ココがキニナル!
環状4号沿い、六浦にあるスシローの駐車場から見える謎の穴。一体何なのでしょうか?通る度に気になります。調査をお願いします(らむねさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
穴の正体は横浜市の見解ではやぐらである。ただやぐらを調査してみないと確定はできないとのこと。
ライター:三輪 大輔
「あの穴は防空壕ではないと思うよ。この周辺にも、まだ防空壕が残されているけど、そこの穴は貫通してるじゃない? 近くの横浜市立大学周辺も戦時中は武器庫として使われていたし、そういう類の穴じゃないかな」
キニナル投稿にあったスシローの駐車場から見える大きな穴について、六浦周辺で調査をしているとき、近くで自転車店を営む岩澤(いわさわ)さんが、こんなエピソードを教えてくれた。年齢は60歳代半ばになる岩澤さんは、生まれてからずっと六浦に暮らしているという。
キニナル投稿にもあったスシロー駐車場の穴
「自分が生まれたころには、もうあったかな。昔は中に入れたんだよ。小さい方にはタイヤが4本積まれていたね。でも何の穴かは、聞いたことがないな」
いつどのようにできたか分からない大小2つの穴。大きい方の高さは4メートルほどで、幅も5~6メートルはあり、かなり大きい。しかし六浦の歴史をたどることで1つの手がかりを発見した。それが上行寺(じょうぎょうじ)裏遺跡だ。上行寺はスシローと目と鼻の先の距離である。
地図でみるとこのような位置関係
もしかしたらスシローの穴も遺跡なのかもしれない。そこで「かながわ考古学財団」で、六浦周辺に点在する遺跡について話を聞いてみることにした。
以前はまれぽでもレポートしたかながわ考古学財団
上行寺裏遺跡群とは?
「六浦周辺には、鎌倉時代に作られたやぐらの残されたエリアがあります」 と説明してくれたのは、かながわ考古学財団の阿部友寿(あべ・ゆうじ)さんである。
かながわ考古学財団の阿部さん(右)と植山さん
「鎌倉時代、鎌倉市周辺では傾斜地に穴を掘って、そこを墓とする風習が見られました。鎌倉市内では、およそ3000あまりのやぐらが発見されており、六浦でも上行寺裏周辺でやぐらが発見されています」
つまり六浦周辺には、鎌倉時代に墓として使用された穴が数多くある。 14世紀中盤から多く作られるようになったそうだ。六浦では上行寺の近くに、明治時代まで嶺松寺(れいしょうじ)という寺があったが、その周辺でもやぐらが多数発見されている。
六浦周辺でやぐらの発見されているエリアを示す資料
やぐらは高さ2~4メートル、奥行きも2~4メートルほどの真四角の穴である。その中に供養のための五輪塔を立てて死者を祀った。遺骨は土器に納められて、五輪塔の前に埋められたそうだ。
現存する上行寺にあるやぐら
やぐらの中の五輪塔。手前の穴に土器に納められた遺骨を埋めた
遺骨が納められた土器類
傾斜地に穴を掘って墓とするやぐら は、鎌倉時代に現在の鎌倉市周辺でのみ見られたものである。全国的には供養塔として五輪塔や宝篋印塔(ほうきょういんとう)、板碑(いたび)が一般的だ。それでは、なぜ鎌倉市周辺でだけ、やぐらは作られたのだろうか。「明確な理由は判明していませんが」という前置きの上、阿部さんが鎌倉にやぐらが作られた推察を話してくれた。
「鎌倉の中心地は南が相模湾、東・西・北が山に囲まれているため、活用できる土地が限られています。そこで崖に穴を掘ってやぐらを作ることで、土地を確保したのではないでしょうか」
六浦周辺は鎌倉時代、港として栄えた金沢に抜ける街道があり、幕府の影響力が強く及んでいたエリアであった。そのため、やぐらの遺跡群も多く見られるようになったそうだ。
全国的に広範囲で見られる「板碑(いたび)」
なお一つのやぐらには数体ほどの慰霊が葬られたが、そのほとんどが武士や僧侶である。その理由について阿部さんが説明してくれた。
「やぐらは寺の周囲にあります。墓を建てるのにはお金が必要となり 、やぐらの中に埋葬される階級も限られます。当時、庶民の埋葬先は由比ヶ浜などの海辺でした。鎌倉時代以前、寺に埋葬されたのは貴族階級が中心です。しかし、その風習が鎌倉時代になると、武士階級に浸透することになりました」
初めて武士階級が力を得て鎌倉幕府が成立したが、それは埋葬の文化にも影響を与えた。現在、寺に埋葬される風習は定着しているが、文化的な広がりを見せる契機 は鎌倉時代にあったのだ。そして江戸時代になると、寺への埋葬は庶民でも行われるようになる。
由比ヶ浜での埋葬は某新聞社でも報じられた
しかし鎌倉時代が終わり、政治の中心が再び京都へ移る。すると武士の影響力も落ちて、やぐらも別の用途で使用されることになっていく。そこにスシロー駐車場の穴に関する謎を解明する手がかりもあるかもしれない。