横浜市の中学教科書が一本化される問題とは?
ココがキニナル!
横浜市の中学生が使う歴史と公民の教科書が、来年度から育鵬社のものに一本化されることが話題になっているが、何か問題があるの?
はまれぽ調査結果!
歴史観・国家観が、戦後の民主主義・平和主義の教育と違うのが問題だ。教育の保守・反動化の最大の動きとして全国的にも注目されている。
ライター:中北 宏八
横浜市が突出
変化が生じたのは2009年。横浜市の教育委員会が18区のうちの8区について自由社の歴史教科書を採択した。
この結果、港南、旭、金沢、港北、緑、青葉、都筑、瀬谷の各区では昨年から「つくる会」の教科書である「新しい歴史教科書」が使われている。
現在、横浜市8区の中学生が使っている自由社の歴史教科書
なお、この「新しい歴史教科書」が使われているのは、これまで横浜市の8区以外は東京都杉並区、栃木県大田原市、愛媛県今治地区くらい。東京都立や愛媛県立の中高一貫校、特別支援学校などを加えても全国シェアは2%弱といわれた。
今年、横浜市が改めて注目されたのは、これまで区ごとに決めていた教科書を、全市で一本化して採択することになったためだ。
これにより、横浜市立中学校全148校、1学年2万数千人、4年間で約10万人の生徒が採択された教科書で学ぶことになる。
そこで8月4日の教育委員会が注目されたのだが・・・
結果は、扶桑社を引き継いだ育鵬社の歴史教科書が、6人の委員のうち4人の支持によって選ばれた。歴史観や国家観の対立は「公民」についても同じで、やはり育鵬社が選ばれた。
来年度から横浜市立の全中学校で使用される育鵬社の教科書 |
専門家の審議会答申は無視
教育文化センター2階ホールに音声だけ中継する傍聴席を用意したが、朝早くから長蛇の列
教科書の選定には教科書取扱審議会という専門的な調査研究をする機関が作られている。校長、教員、教育委員会事務局職員、学識経験者、児童・生徒の保護者ら、教育委員会が任命した20人の委員で構成されており、候補の教科書についてさまざまな観点から評価する機関だ。
中学の歴史教科書については、7社の教科書を16項目で評価し、最も高い評価を受けた東京書籍が12項目、日本文教出版が10項目、教育出版と帝国書院が9項目で適切、育鵬社は8項目で適切である、とされていたという。
普通ならその答申で高い評価を得た教科書が採択されるはずだ。
つまり東京書籍や日本文教出版の教科書が選ばれるのが順当なところだ。
ところが委員会では、その答申は無視された。
以下が、育鵬社の教科書を選んだ委員の主張である。
- 「明治近代国家建設の大きな礎が大日本帝国憲法だった。近代国家建設の苦労と成果がきちんと記述されているかを重視する」(小浜逸郎委員)
- 「グローバル化の中、日本人であることの誇りを持たなければ」(野木秀子委員)
- 「日本という国に誇りを持って胸を張って将来に夢をはせられる子供を育てたい」(中里順子委員)
- 「日本文化の奥深さや素晴らしさ、先人の努力や苦労に思いをはせ、自信と誇りにつながるようなものを採択したい」(今田忠彦委員長)
これに対し
- 「歴史認識が極端でないことを大切にしたい。子供たちの学力(の違い)への配慮が必要で、学びやすい教科書が良い。憲法の国民主権、基本的人権、平和主義がきちんと書かれていることが大事」(奥山千鶴子委員)
- 「歴史観よりも学習実態に照らし、歴史事象を一面的でなく多面的多角的にとらえる学習が必要。いろんな意見や書物を読むための選択肢を与えることが大切」(山田巧教育長)
というのが、育鵬社以外の教科書を選んだ委員の主張だ。
記者の見方
今回の教科書採択を決めたのは、いずれも中田宏・前市長時代に委員になった4人だった。
林文子・現市長が任命した2人は教科書取扱審議会の答申を尊重した意見を出したが、「決めるのは委員の権限」という主張を変えられなかった。
育鵬社の教科書を選んだ4人の委員を任命したのは、前横浜市長の中田氏
教育委員会は地方行政組織法によって5人の委員で組織するとされているが、例外も認められており、横浜市は6人。
「政治的中立性の保持」を大原則にしており、独立性確保のため委員の罷免には制約が付いている。
だが、任命は地方公共団体の長が議会の同意を得て行うため、基本的には首長の意向が左右することになる。
民主党の新政権が野田佳彦首相をはじめ松下政経塾出身者の多さで目立つが、この塾出身者には国権意識が強いようだ。
中でも自治体の長として歴史教育から改革を進めようとしたのが、中田前市長や山田宏・前杉並区長らだったと言えよう。
「明治近代国家建設の大きな礎が帝国憲法。当時は諸外国からも称賛を浴びた」という小浜委員に対し、「憲法の国民主権、基本的人権、平和主義がきちんと書かれていることが大事」と主張した奥山委員。
この2人の意見の対立に、戦前の日本と戦後の日本の歴史をどう評価するかが表れている。
天皇を神格化し、軍国主義の基盤となった明治の大日本帝国憲法を、日露戦争の勝利など日本民族の偉大さの基本として評価するか、国民が主権者であることや、平和主義をうたい上げた戦後の憲法を尊重するか。
戦争の悲惨さを知らない人がほとんどになった時代に、近隣の国々との対立をあおる歴史を教えることには、時代逆行の危うさを感じる。
―終わり―
おおさかさんさん
2018年06月16日 16時37分
育鵬社の教科書を読んだみたが、この記事のような危惧が起こることはまったく感じませんでした。この記事は育鵬社の教科書を採用するなとの意思で書かれたものであり、公平性に欠ける記事です。
のぶやすさん
2015年10月14日 11時44分
この記事は、出来不出来の次元ではなく、「情報公害」と呼ぶべきひどいものです。教科書の一本化自体を問題視しているのかと思って読み始めたところ、教育委員会が育鵬社の歴史教科書を選んだことをテーマとしている。教科書選定の手続きなどに条例違反でもあるのかと思ったら、これも違う。結局、育鵬社の教科書を採用することが「近隣の国々との対立をあおる歴史を教える」とする記者独自のとらえ方と歴史観で問題視しているだけです。例えば、「保護者が育鵬社の教科書を特に問題視している」という世論調査のデータがあり、そういうデータ元に問題視するのならば分かりますが、そのような裏付けもありません。横浜市民が選挙で選んだ市長を誹謗することは、市民への侮辱でしかありません。元横浜市民として非常に不快に感じた記事です。
sakuragichoさん
2012年04月19日 21時11分
偏向を問題にするのであれば、全国がシェア2%しかなく専門家である教科書取扱審議会の評価も低い教科書を、大都市である横浜全域で採用することの方が、ずっと「偏っている」と思います。