恋愛は

久しぶりらしきお客さんが来ると「うちはね、しばらく料とるよ」と笑いながら「どうしてたの？　彼女出来た？」と尋ねる容子さん。

ご自身は「あまり結婚することが想像できなくて、若いころからずっとひとりだろうなと思っていた」と話していた彼女に「容子さんは、恋はなかったんですか？」と、いきおい聞いてみた。
　

「一度だけあったよ」

　
一度店に来たことのある男性が数ヶ月後に、開店前の店の前で花束を抱えて待っていた。

「ごめんね、しばらく来られなくて」

それから親しくなったが、店のほかのお客さんになんとなくそれが伝わってしまった。足が遠のいたお客さんたちと、彼ひとりとを「天秤にかけてしまったの」と容子さんは振り返る。

そして「もう会わないから」と別れを告げ、来なくなってしまったお客さんたちに電話で謝った。
　

「私はここで恋をしてはいけないんだって思いました」


「数年して、彼が結婚した噂をきいてよかったな、って」

　

お客さんに恵まれて

ここまでお店を続けられたのは、「お客さんの力」だと語る容子さん。

「この仕事でなければこんなに多くの人には出会えなかったんじゃないかな」という彼女が、36年間続けてきて、一番うれしかったことは、「お客さんの子どもが結婚して、この人がまたその子ども（孫）を連れてきてくれること」だそう。

お客さんの声も聴いてみよう。
　

西区在住の大沢さん

　
「華の魅力はなんですか？」の質問に少々大沢さんが考えていると、カウンターの中から「容子さんの色っぽさ」と代返が早々に飛んできた。
　

「パクチーサラダ！　これでパクチー克服しました」と大沢さん

　
もうひとり、聞いてみよう。
　

5年前から週に3～4回来ている、みなとみらい勤務のAさん

　
「料理もおいしいけれど、なによりお母さん（容子さん）の人柄に惹かれて」というAさん。

「店主と常連の中が良くて、初めて1人で来た人にも接点を作ってくれる。でも、ちょうどいい感じで放っておかれるところもいい。お客さん同士で今度この店に行こうかな、とかの広がりもできます。初めてあった人とも一緒にご飯に行ったりする居心地のよさがある」とのこと。

それはさっきからそんな感じで、混んでいない時間だったので、1席ずつ間を開けて座るような親しすぎない距離感と、でもみんなで楽しく会話している感じとが場に同居していた。

「華」のこれから

「ここでお客さんに恵まれて30余年。一番嫌なのは、お客さん同士のケンカなんだけど、うちは、それがないの」と容子さんは振り返る。
　

「どっちかっていうと私の方が強いからかな」

　
この先のことは、「体が続くまではやっていこうかな、お客さんにもやめたら絶対ボケるって言われてるし」と容子さんが答えると、お客さんがすかさず「みんな元気かどうか、様子を見に来てるんだよ」と返して、「華」が笑いに包まれた。



取材を終えて

中が全く見えないので、最初はすこし勇気がいるが、女性ひとりでも気軽に入れるとても居心地のいいバーだった。

実はこのお店、以前、曙町で50年続く名店「アポロ」の取材をした時にマスターのチャンさんに薦めていただいた店でもあった。
　

チャンさんのオススメのお店は「華」と、福富町の「クライスラー」

　
そして、Aさんの証言通りに、「華」でこの日初めて出会ったお客さん2人と一緒に、そのあとクライスラーにも行っちゃいました。
　

「クライスラー」もまごうことなき名店


3人で乾杯


ブーツ型のグラス


カウンターに並ぶお酒


棚に並ぶ銘酒


クライスラーもいつか取材したい・・・

　
横浜の夜ってなんて素敵なんだろう。


ー終わりー
　

参考文献
東京新聞（2016年9月28日）
横浜・都橋商店街　酒場残った　「横浜歴史資産調査会」で調整
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201609/CK2016092802000166.html

華
住所／横浜市中区宮川町1-1都橋ビル2F-224
電話／045-241-7854
営業時間／17:30～24:00
定休日／日曜・祝日（８月は月曜も休み）
ブログ／http://nogehana.blog119.fc2.com/