ツルが飛んできた?旭区鶴ケ峰の地名の由来を探る!
ココがキニナル!
旭区にある鶴ケ峰という地名。由緒正しそうな地名ですが、由来が知りたいです。宜しくお願いします。(ポスポスさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
当地を流れる川とその近くにある小高い場所というふたつの特徴的な地形から付けられたという説が有力!
ライター:田中 大輔
もしかしたら“コウノトリヶ峰”?
冒頭のタンチョウのように、ツルは寒いところにいるイメージがあるが、江戸時代には江戸近郊にも飛来していたんだそうだ。
だとすると、横浜に来ていても不思議ではない。
確かに不思議ではないのだが、しかし、この話にはひとつ無理がある。
ズーラシアで飼育されているクロヅル。彼らは冬鳥として日本に渡る
ツルという鳥は、足の後ろ側の指が短くなっていて、基本的に木の上に止まるということがないのだ。だから、巣も天敵の多い地上に作る。
なので、わざわざ木が茂っているであろう峰に上がって休息を取るというのはちょっと考えにくい。
「鶴」という落語の演目でも、「オスが“ツー”っと飛んできて松に止まった。メスが“ルー”っと飛んできて松に止まった」というくだりがあるが、鶴は松には止まれない。
どうやら、かつては姿の似ているツルとコウノトリを混同していたらしいのだ。
ズーラシアのコウノトリ。ツルっぽいと言えばツルっぽい・・・か?
コウノトリは木にとまることもできるし、巣も樹上に作る。
だったら、昔の人の勘違いで「コウノトリヶ峰」になるのが正しいのだろうか。
こうなってくると、なんだかよく分からなくなってくる。
いえいえ、本当は“水流ヶ峰”
実は、地名研究において、この鶴説というのは歓迎されていない。
“ツル(鶴)”がつく地名は日本中に数多く見られる。そして、その多くの語源は“水流”と書いて“ツル”というもので、意味はそのまま水の流れを指している。
今回も『横浜の町名(横浜市市民局刊)』を開いてみよう。
初版を見ると「鶴ケ峰とは「川の流れのところにある山」ほどの意味となろう」とあり、ここでは二俣川の流れが“水流”に当たると推察している。
また、この地名の発祥は現在の鶴ケ峰本町であるとも書かれている。
区役所付近を流れる二俣川(上)と鶴舞橋から見た帷子川
鶴舞橋にも触れていて、「明治初期の地図を見ると、まさに水流が廻っている(=曲流している)」とあり、こちらも鳥ではなく川の地形が元になっているのだろうという説明。『地名の語源(鏡味完二、鏡味明克著)』を当たってみても、ツルは「水路、水路のある低地」とあるし、地名における“ツル”の多くが“水流”が語源となっているという考え方は非常に有力なようだ。
市内に鶴見という地名もあるが、『横浜の町名(初版)』では、これも同様に鶴見川の形状から付けられたものであろうとしている。
鶴見区役所の外観。こちらも意味としては“水流見”?
どうやら、ツルではなく水流。
鶴ケ峰という地名は、当地を流れる川とその近くにある小高い場所というふたつの特徴的な地形から付けられたと考えるのが自然な印象。
ちなみに、神奈川区の鶴屋町は、当地を埋め立てた加藤八郎右衛門の屋号からとっているのでちょっと事情が違うようだ。
取材を終えて
『新日本地名索引(アボック社出版局刊。精度は完璧ではないと著者のただし書きあり)』を見ると、“ツル”で始まる地名は日本に数えきれないほどあることが分かる。もちろんすべての語源が同じではないだろうが、九州には“水流(ツル)”という地名がそのまま残っている場所も複数紹介されている。
余談だが、“水流”と書いて“ツル”というのは苗字にも使われている。
有名どころだと、横浜出身で横浜高校を経て広島カープに入団した下水流昂(しもずるこう)選手など。
こういった苗字も、同じように川辺にご先祖様が住んでいたのかもしれない。
ツルが飛んでくる町というのは話としては素敵だが、地名の由来としては説得力に欠けている。来るか来ないか分からない鳥よりも、連綿とそこにあり続ける地形の方が地名の謂われにはふさわしいようだ。
―終わり―
さぶさぶろーさん
2013年12月12日 11時02分
昔の航空写真を見るとわかりますが、確かに十数年前の河川工事前の帷子川は、鶴ヶ峰駅から上流方面が「水流」でしたね。勉強になるいいレポートです。
町田県民さん
2013年12月11日 22時13分
古書からの的確な引用の通り、ツルは水の流れが蛇行している(ストレートに流れる水はツルではない)ことを表すと地名学上考えられています。県下には他にも 鶴間=境川流域、鶴巻=大根川流域など類似の地名が多数ありますね。
紀洲の哲ちゃんさん
2013年12月11日 15時58分
おお!まさかこの記事でカープの下水流昂選手の名前を目にするとは!。また、かつてヤクルトには上水流洋(かみずる ひろし)選手もいました。