弘明寺の家具店にいるツタンカーメンの正体は?
ココがキニナル!
鎌倉街道を弘明寺から関内方面に走行中、信号で止まった右手の家具屋の中にはツタンカーメンが。気になる(ルミルミさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
商品ではあるものの、商品というより人目を引くかなと思って置いた棚だった。そして、この投稿があったということは実際に人目を引いている模様
ライター:永田 ミナミ
弘明寺ツタンカーメンの正体
「ちなみに開けるとね」と言って、渡辺さんがやおら棺に手をかけた。
「棚になってるんですよ。だから残念ながら子どもも入れないんだよね」
蓋が開いてみると、なるほどなかなかふつうの棚である。左右にそれぞれ7段ずつ、計14段の、幅35センチ奥行20センチほどの棚は、本棚にちょうどよさそうだ。
重厚な棚に蝶番が1つというのはちょっと心許ないが安定した開閉ぶり
鎖を反対側の蓋に引っかけてピンで留めて閉める方式
センターには開きすぎ防止の鎖もついている
ちなみに販売価格は、仕入れた4〜5年前に輸入業者が話していた定価が10万円くらいだったので、「買いたいという人がいればそこから少し安くする感じかな」とのこと。
ツタンカーメンを紹介してくれた業者は、ここのところ変わったものをあまり輸入していないそうで、渡辺さんは「これが売れたら、そのあとはどうしようかな、というのはあるけど」と笑っていた。
というのも、ツタンカーメンがやってくる前は、同じくらいの大きさのワインの瓶をかたどったワインラックが、初代宣伝担当として店に置かれていたからである。
もちろんツタンカーメンと同じ輸入業者から仕入れたその巨大ワインボトルは、ツタンカーメンがやってくることになる4〜5年前までの2〜3年間、店内で人目を引いてくれていたが、ついに買い手がつき、現在はふつうの家のリビングに収まっているという。
巨大ワインボトルが売れてしまったので、後継者を探していたところ、今度は巨大ワインラックをはるかに上回る存在感を放つツタンカーメンを見つけて、さっそく仕入れたそうだ。
忠実に再現していると思いきや、実物(フリー画像)と比較すると結構ちがう弘明寺の少年王
<クリックして拡大>
「本当は2体で一対のセットのような扱いだったんだけど、まず買う人はいないだろうし、さすがに2体もいらないなと思った」ということで1体だけ仕入れたとのこと。
取材後、ツタンカーメンが「一対」というのが少し引っかかり、第2の棺か第3の棺とセットなのかなと思ったが、頭部の蛇が実物は2匹であるところやアイラインの有無のほか、弘明寺のツタンカーメンのほうが現代的な顔貌をしていたりして実物と結構ちがうので、第2、第3とつくり分けているということはなさそうだ。
そこで調べてみると、同じシリーズで、ツタンカーメンの妻、アンケセナーメンの棚が販売されていることがわかった。999ドル(約10万1730円)がディスカウントされて949ドル(約9万6600円)である。渡辺さんの話の「一対」は、もしかしたらツタンカーメンとアンケセナーメンの夫婦セットだったのかもしれない。
ということで渡辺さんに確認したところ、「同じような大きさのものであればそうかもしれない」とのことだった。完全にセットだったわけではないので、仕入れ先に2体でならんでいたうちのツタンカーメンだけを仕入れたという。
ちなみに商品名は「Queen Ankhesenamum Life-Size Sarcophagus Cabinet」とあるので、等身大ということになっているが、アンケセナーメンは棺はおろか、ミイラもまだ特定されていないので、もはやオリジナルである。
本物の黄金の玉座に描かれた少年王夫妻。右側がアンケセナーメンである(フリー画像)
ツタンカーメン(King Tutankhamen's Life-Size Sarcophagus Cabinet)はオークションサイトでは現在500ポンド(約8万5400円)や575ドル(約5万8500円)で出品されているものは見つかったが、ネット上で新品が紹介されているのは2012(平成24)年(当時は850〜899ドルほど)までで、どうやらソールドアウトの模様。ということで、現在購入できるのはアンケセナーメンのみのようだ。
※本文中のレートは取材時のもの。
木でできたものなら何でも
ツタンカーメンにまつわる話をひととおりうかがったあと、店内にある動物や乗り物の玩具についてもきいてみると「別にこだわりがあるわけじゃないけど、家具屋なので一応、木を使ったものならいろいろ置いていてね」という。
いろいろなものがあるが、特に猫の置き物が多いことに気がついた
この猫の多さはひょっとして猫好きなのかと思い、きいてみると「いやあ、動物をかたどったものは圧倒的に猫が多いから多いんだよ」と笑う。渡辺さんは特別猫好きというわけではないそうで「猫の曲線的なフォルムが、置き物に向いてるんじゃないかな」というのが渡辺さんの見解だ。
そして、入口横にいる大きくて細長い黒猫の置き物の手前で無防備な腹を見せている犬を指さして「ほら、この犬なんか、かわいいのかかわいくないのかわからないでしょ」と笑う。
デフォルメされた巨大猫の手前でじゃれあう2匹の犬は
たしかにかわいいと言いかけてリアルさが二の足を踏ませる感がある
もちろん店内のあちこちにいる猫の置き物たちは、エジプトの猫崇拝とかかっているわけでもない。
ちなみに女神バステトが定着したのは第22王朝、紀元前10世紀ごろである(右:フリー画像)
ほかにも玉がいい音をたてながら螺旋状に転がり落ちるこの玩具は約2万円
ビールの木製立体パズルはだいたい3000円
螺旋状に転がり落ちる木の玩具はサンプルなので、購入したい人がいれば新たに仕入れることになる。
価格は仕入れた当時のものなので、現在は全体的に木材が値上がりしているため、メーカーに問い合わせると価格は上がっているだろうとのことだった。
また、ビールの木製パズルは輸入品で、業者の倉庫から探し出してまとめて仕入れてきたものの最後のひとつ、そして業者はもうこのパズルは扱っていないということで、買いたいということであれば販売するが、半分記念にとってあるものとのこと。
価格は3000円を基準に応相談ということだった。
この強烈なCDラックは仕入れ時に左腕が骨折していたが渡辺さんが修理(2万9800円)
取材を終えて
いろいろな玩具や治療によって復活した髑髏(どくろ)CDラックは、「買いたい人がいれば売りますけどね」と笑う渡辺さんの飄々とした人柄と、同時に「木を使った商品なら何でも」と幅広く扱い、木材についても詳しい話を聞かせてくださった渡辺さんの、家具と木製製品に対する深い愛情があるからこそ、渡辺家具にならんでいると言えるだろう。
そして、「まず買う人はいないだろうと思った」ツタンカーメン棚が渡辺家具にならんでいるのもそんなご主人だからこそと言うことができそうだ。
家具への愛情は「いい椅子やソファは手入れをすれば何十年でも使うことができるけど、安いものを数年おきに買い替える時代だからね。品質もどんどん落ちているし」と家具業界を憂う、渡辺さんの話からも窺い知ることができた。
店を出ようとしたときに、ツタンカーメンに夢中で気がついていなかったアール・ヌーヴォーのランプが気がついて「ガレのランプなんかも置いてるんですね」と近づくと、「ああ、これはギフトショーなんかでもよく売られている中国製で、別にめずらしいものじゃないんだよ。本物だったらこれだけでひと財産だからね」と笑って8000~1万円ほどのガレ風やティファニー風のランプにスイッチを入れてくださった。
ランプを見て来店する人もいるそうで、少年王と同じく人目を引いている
渡辺家具では質のいい家具やツタンカーメン棚、猫を中心とした置き物からアール・ヌーヴォーのランプまで多彩な商品を販売しているほか、さまざまな家具の修理やリフォームも請け負っている。
古くからある家具の修理を考えている人は、ツタンカーメンを見に行きがてら、渡辺さんに相談してみるといいかもしれない。豊富な知識と経験によって、たいていのものは蘇らせてくれるはずである。
―終わり―
渡辺家具
所在地/横浜市南区通町4-81
電話/045-731-5855
営業時間/10:00〜17:00(閉店時間は多少早まることも)
定休日/水曜日定休
参考文献
『ツタンカーメン』大城道則著(中公新書)2013
とんさん
2014年11月03日 02時15分
これと同一と思われるツタンカーメンを最近港南区で見かけ、気になって調べたところ この記事を見つけました。はまれぽって何でもあるんですね! 渡辺家具さんは車で通り過ぎる時 いつも気になっているお店です。今度行ってみようと思います。
吉閥さん
2014年05月25日 14時22分
こういう個人で経営している、真面目でちょっと面白みのあるお店もすっかりと減ってしまいましたね。安価な量販店は便利ですが、こういうお店で長く使える良い物を買いたいです。(でも、弘明寺は我が家からはちょっと遠いです。)