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美術館? 民家? 川崎市麻生区にある普通の民家すぎて一見入りづらい謎の美術館があるって本当?

ココがキニナル!

川崎市の麻生区に、山田土筆細山美術館というのがあるのですが、普通の民家ぽくて、とても入りにくいです。2度アタックし、2度とも引き返しました。とても気になっています(オオバさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

山田土筆細山(やまだどひつほそやま)美術館は、一見民家風で入りにくいが小路の奥にあり、昔の麻生区を描いた日本画を鑑賞できる美術館だった

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ライター:吉澤 由美子

運命的な出会いと美術館の成り立ち

「朝顔の鉢植えでした」。日本画家を志したきっかけはという質問に意外な言葉が飛び出した。

「私が育てていた朝顔の鉢を、たまたま通りがかった日本画家の田中以知庵(たなかいちあん)先生がご覧になって、『このしつらえは只者ではない。絵心がある。私のところに寄越(よこ)しなさい』と言ってくださって、それで田中以知庵先生の元に通うようになりました」とのこと。才能が一目でわかるほどの朝顔はいったいどんなものだったんだろう。普通に育てていただけとの言葉に想像が膨らむ。

「土筆(どひつ)」という雅号(がごう)は、自然を描く画家になれと田中先生がつけてくれた。「モノには存在感がある。見えているものだけを描いていてはダメだ。石を描きたいなら石と遊んで来い」というのが一番印象的な教えだったそう。
 


やわらかく豊かな自然が人や動物のいとなみを包み込んでいる絵の数々




経歴もまたドラマチックだった!

「そのころ、私は東京物理学校(現在の東京理科大)に通っていました。学徒動員では陸軍の気象研究所に行き、その後召集を受けています。戦後は小学校で先生を2年ほどやってから東京理科大に入学したので、24~5歳での入学ですね」

東京理科大には天文関係の学部はなかったが、もともと天文学が好きだった山田土筆先生が学園祭で流れ星の研究発表を行ったことで、そのレベルの高さに大学側が驚く。天体物理学で大きな業績をあげた藤田良雄先生のいる東京大学に2年間の国内留学をすることになり、その後、理科大には学部のない天文学の卒論を提出して大学を卒業する。

「日本画家になるのが夢でしたが、実家は絵描きなんてとんでもないという農家。かといって天文を続けると、日本画を続ける余裕がなくなる。将来について悩んでいたところ、『絵を続けながらでいい。展覧会の時期は休んでもいい』という寛大な条件で実践女子学園(東京)の高等学校教師にならないかという誘いを受けました。数学なら教えられるし、絵を続けることもできそうだと教師になる決心をしました」
 


当時先生をされていた実践女子学園(フリー画像)


「1954(昭和29)年に実践女子学園の教師になり40年間の教師生活でした。最後は教頭まで務めたのですが、校長のお話をいただいた時は、さすがに絵を描けなくなると固辞しました。高校では美術部の顧問をしていました。教師を辞める時に、絵が好きでよく母校を訪ねてくれた教え子たちが『集まれる場所がなくなる』と寂しそうにしていたのをきっかけに、この美術館を作ったんです。今でも同窓会などはここが会場になっています」

準備もあり美術館の開館は退職して数年後の1996(平成8)年5月。ところが、この山田土筆細山美術館が開館して間もなく、テレビ朝日の『名画の旅』で紹介される。この反響はすごかった。北海道や九州など全国から美術館に人が詰めかけた。庭の小路では足らず表まで行列が伸びるほどの盛況ぶり。消えゆく日本の原風景を描いた日本画を見ることができる美術館として、その後も新聞や雑誌にたびたび取り上げられ、土日のみ開館というユニークさもあって人気を集める。
 


いつまでもどこかに残っていてほしい懐かしい風景


「全国の方がここに展示されている絵を見て、『うちの方もついこの間までこういう風景でした』と懐かしそうに言ってくれます」との言葉に、全国でどんどんこうした風景がなくなっているからこそ、こうした絵を鑑賞する価値が一層高くなってきているのだと感じる。

ここで、制作中の作品があるアトリエも特別に見せていただけることに!



今も毎日、アトリエで絵を描き続けている

美術館から渡り廊下や階段を進んだ先の、ご自宅部分にアトリエはあった。自然そのままの高低差を利用した建物なので迷路のような楽しさがある。途中にも作品が所狭しと飾られ、展示していない大量の作品や下絵、コレクションの膨大な美術書が並ぶ部屋を通っていく。
 


美術書の入った棚の上には、教え子たちから送られたプレゼントが並ぶ


天井の高いアトリエには大きな作業台があり、ここにも作品や下絵、スケッチが大量に置かれている。
 


アトリエの入口で。後ろには大量のスケッチブックが並んでいる


作業台の上には描きかけの絵があり、背後にも作成中の絵が数点飾られている。
 


木々を渡る風が入ってくるアトリエで、制作中の作品に向かう


11月6日(木)から立川にある多摩信用金庫本店のたましんギャラリーで例年行っている地元の作家による創土会のグループ展があり、そのための作品を今、仕上げているそう。キャンバスのサイズは、120号だから長辺が2メートル近い作品もあるとか!
 


作業台の横に並んだ岩絵具。どこかひんやりとした上質な鮮やかさがあって、とてもきれいだ


山田土筆先生の日本画は、スケッチからはじまる。水彩を施したそのスケッチを基に、完成サイズの下絵を描く。その下絵を和紙の上に写して、和紙を木のパネルに貼り込んでから、岩絵具で色を付けていく。
 


展示室で見せていただいた下絵


「色をつける岩絵具は、鉱石や半貴石(はんきせき)を砕いて作った顔料なので、粒子の大きさで色が変わります。また、膠(にかわ)で練って絵具として使いますが、残った絵具は何度も水を替えて膠を抜きます。なまけるとダメになってしまうので大変ですね」とのこと。
 


壁際の棚にも岩絵具が並んでいた


塗っては数日乾かしてを繰り返しながら描いていくので、1枚の製作期間は数ヶ月ほど。そのため数点を並行しながら描いていくことが多い。

「これまで一貫して、“詩を描く画家”になりたいと考えてきました。細山は私の感性を育ててくれた故郷。ですからそこに一番惹(ひ)かれるのだと思います」と山田土筆先生。
 


60年間、絵を描き続けてきた。「絵を描くのはもうやめられないですね」と微笑む


こうして描かれたものだと理解した上で展示室に戻ると、色の重なりやニュアンスがいっそう深く心に染み込んできた。



取材を終えて

山田土筆細山美術館は、昔の麻生区をはじめとする日本の原風景を描いた日本画を鑑賞するだけでなく、描いた作者から往時のことを教えてもらえるとても贅沢で貴重な場所だった。

庭の山野草も昔の多摩丘陵に自生していたものばかりなので、昔このあたりにどんな風景が広がっていたのかが皮膚感覚で伝わってくる。

時代の趨勢(すうせい)によって消えてしまうものがある。山田土筆細山美術館はそうしたものを丁寧にすくいあげて、地域の魅力としてそれを伝えていく、稀有(けう)な美術館だった。
 


小学生の時に描いた紙芝居。近所のお寺に保管されていて、最近見つかったもの


最後に見学したい方に重要なお知らせを。

「個展や展覧会が定期的にありますし、地元の文化事業などに協力しているので、臨時休館がけっこうあります。そのため、山田細山美術館の見学をご希望される際には、必ず事前に電話をください」とのこと。


― 終わり ―


取材協力
山田土筆細山美術館(やまだどひつほそやまびじゅつかん)
所在地/川崎市麻生区千代ヶ丘6-3-7
電話/044-966-4083
入館無料

土・日曜・祝日のみ開館(1月、8月、12月は休館) 10:00~16:00
※都合により、開館日でも休館する場合があります。
見学希望の場合は、前もって電話でお問い合わせください。
 

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  • 恥ずかしながら、山田土筆先生の事を全く存知あげず、ただ単に(当時)ご近所に住んでいたというだけで、2度アタック(失敗)したのは、もう10年ほど前のお話。当時の新百合ヶ丘駅前は、まだ狸絵の「動物注意」標識がある程度には田舎でしたが、今やすっかり大都会に変貌しました。でも、この民家・・じゃなくて、美術館付近の風景は、当時とまったく一緒!ぜひ近いうちに、3度目のアタックを敢行して、変わらない庭の景色と、残したい昔の風景画の両方を楽しみたいと思います。素晴らしいレポート、大変ありがとうございました。

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