四六時中海水に浸かっているベイブリッジの橋脚のサビは強度的に問題ない?
ココがキニナル!
ベイブリッジなど、橋脚が海水に浸かっている橋は錆びやすいような気がするのですが、錆を防ぐためにどのような加工がされているのでしょうか。(恋はタマネギさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
ベイブリッジの水面下の部分はコンクリート製、鋼製の橋脚が錆びないのには塗料を何層も塗り重ね、ひと目で破損がわかる技術などが使われていた!
ライター:すがた もえ子
錆止めの対策方法とは?
もちろん鉄が使用されている部分は錆止めがしっかりと施されている。
ベイブリッジに使用されている錆止めの方法は、次のとおり。
下地に鉄よりも錆やすい亜鉛粉末が入った塗料を塗り鉄まで錆が達する時間を遅らせ、下塗りに高防食性のあるエポキシ樹脂を何度か塗り重ね、最後に紫外線に強いポリウレタン樹脂を上塗りし塗膜の性能を上げている。
下地、下塗り、上塗りはこのようなイメージ
ベイブリッジ建設当時は上塗りにはポリウレタンが使用されていたが、現在はより耐候性(たいこうせい:劣化などを起こしにくい性質)に優れるフッ素が利用されることが多いという。
ちなみに下塗りのエポキシ樹脂塗料は、錆っぽい色をわざと使用している。これは上塗り塗料の損耗を見つけやすくするためだといい、錆っぽい色を使っているが、実際は錆ではなく下塗りの色が見えていることがほとんどなのだそうだ。
取り替えるタイミングを教えてくれるタンスの防虫剤を想像すると分かりやすい。
上塗り塗料が薄れ、下塗り塗料が見えてきているところ(画像提供:首都高速道路株式会社)
飛来塩分を含んだ海風にさらされているベイブリッジでは、塗装の痛みは橋本体の腐食につながるため、少しでも痛んでいる部分を見つけたらすぐに塗り直している。
しかし角に当たる部分などは塗料が乗りにくいため、平滑面より錆やすい。
角部の塗装が損傷し、錆汁が流れ出ている状況
左手の黒くなってしまっている所は錆ではなく、何層にも塗装を重ね塗りする際にホコリや塩分などの不純物が混入してしまったために、塗装が層間で剥がれてしまったのだろうという。これは重ね塗りをする塗装の弱点ということだった。
また、橋全体に当てはまることだが、構造上雨水が溜まってしまう部分があると錆が出てしまうのだという。
角が多いボルトも、塗料が乗りにくい場所の一つ(画像提供:首都高速道路株式会社)
ところで、そもそも錆って何?
身近にある錆(フリー画像)
なぜ鉄が錆るのかというと、酸化還元反応により鉄表面が電子を失いイオン化し、鉄表面から溶け出していく・・・分かりやすく言えば、鉄は水や酸素など化学反応を起こす相手がいなければ錆ない、ということのようだ。
錆を誘引するものとしては塩(海水)がよく知られているが、海に架けられている橋の橋脚などは、海水の満潮・干潮にさらされ、塩分を含んだ水をかぶっては空気に触れるという、一番厳しい環境なのだという。
雨ざらしよりもむしろ海底に沈みっぱなしの方が触れる空気の量が少なくなるため、錆る速度は遅くなる。状態が悪くない保存状態で沈没船などが発見されるのはそういった理由らしい。
では、錆止めとして塗装が施されるようになったのはいつごろからだろう? そう思って尋ねてみた。
「これが、結構歴史が古いんですよ」と住吉さんに見せていただいたのが『鋼道路橋塗装・防食便覧』という本。
社団法人日本道路協会発行(2014〈平成26〉年3月)
この本によれば、油性塗料の始まりは1390年代のベルギー北部で作られたものだという。
1868(明治元)年に長崎県に建造された「くろがね橋」が日本初の鋼橋(こうきょう)で、輸入品と思われる塗料が用いられている(当時は国内で塗料の生産が行われていなかったため)。
国産の塗料メーカーが登場するのは1881(明治14)年のことになる。
鉄の寿命について語る蔵冶さん
「錆び止めは鋼面に塗ります。錆止めの塗料を使用して腐食因子(酸素や水など)を断ちきちんとメンテナンスしていけば長期間に渡って橋の機能を維持できます」と蔵治さん。
環境によって左右されるので、一概に塗装を塗ったから橋の寿命が何年延びた、ということは言えないが、メンテナンスによっては100年以上の年月、橋を維持していくことができるようだ。
メンテナンスによって保持される鋼橋たち
国内の例としては、1910(明治43)年に架けられた兵庫県美方郡香美町(かみちょう)にある山陰本線の余部橋梁(あまるべきょうりょう)が挙げられる。
旧・余部橋梁(フリー画像)
適切な保守により2010(平成22)年7月16日まで現役で供用され、98年という長期にわたる運用実績を残した。橋が新しくなった現在も、展望施設「空の駅」に旧・余部橋梁の橋脚3本が使用されている。
鋼橋の錆止めの方法は、ベイブリッジに使われている重ね塗りの方法のほかに、水や土に接する部分にチタンとなっている鋼材を使ったり、ステンレス板を巻き付けたり、アルミニウムやマグネシウムを含んだ亜鉛を溶かして吹き付けたり、安定錆びができやすい「耐候性鋼板」という材料を使うことでわざと表面を安定錆で覆ってしまう方法があるのだと教えていただいた。
わざと錆させる「安定錆び」の方法は主に潮風に当てられない山岳部で用いられ、見栄えの理由からも都心部ではほとんど用いられることはない。
高知県の八百轟橋(はっぴゃくとどろきばし)、安定錆びを使用
(画像提供 :Pinqui・Wikimedia Commons,)
ちなみに錆止めの技術だが、もともとは船の技術から生まれたそうだ。
造船技術の発展したイギリスには1779(安永8)年に世界初の鉄橋「アイアンブリッジ」が架けられた。現在は車の通行は規制されているものの、歩行者の通行は可能だ。
コールブルックデール橋、通称「アイアン・ブリッジ」
(画像提供:首都高速道路株式会社・蔵治さん撮影)
現在は歩行者のみ通行することが可能(画像提供:首都高速道路株式会社・蔵治さん撮影)
造船の技術と鋼橋を作る技術には板組や溶接など共通点が多く、造船業が発達した国に鋼橋を建てる技術が育まれている。
日本でも造船会社が鋼橋の製作に関わっており、岸壁で橋を仮組立している横に納品前のタンカーが横付けされていたりた。
ベイブリッジのメンテナンスだが、通常のメンテナンスのほかに5年に一度「人間ドック」のように詳細な点検が必ずされているという。
現在は2014(平成26)年より、約10年をかけた塗装工事が行われているところだ。
塗装作業の様子(画像提供:首都高速道路株式会社)
塗装作業の様子(画像提供:首都高速道路株式会社)
取材を終えて
ベイブリッジの普段目にしない水面下の基礎部分がコンクリート製だったということに驚いた。
現在もメンテナンスや点検、補修、バックアップ、見回りなど、たくさんの人々の手によって支えられている。
海風や満潮・干潮の影響など、水や酸素や塩分という腐食因子はあるけれど、これからも横浜のシンボルともいえるその美しい姿を保ち続けてほしい。
―終わり―
tokusannさん
2015年06月07日 07時18分
鉄は国家の血液なり、日本は封建時代から製鉄の(刀造り)技術が伝承され、近代製鋼法まで引き継がれています、何れも熱処理がきちんと護られて居るためです、近代製鉄は精錬法の進歩により、耐腐食技術は材料強度保障と併せ世界一でしょう、我々が当然のごとく使用している社会インフラもメーカーの努力の賜物、静電気防蝕法、勝手の主流がベイブリッジ当たりから変わったのでしょうね今回の取材有難う御座いました。
BANDO_ALFAさん
2015年06月05日 13時13分
ベイブリッジもさる事ながら、私は氷川丸の錆や腐食が気になります。
mirrorさん
2015年06月05日 12時58分
かつての日本は造船大国だったのですよね。常時海に浮かんでいる船舶は100年以上も平気だったりするのですよ。その技術の蓄積が今、巨大建築物の建造や保守に応用されているのですよね。