世界遺産になれなかった「鎌倉」は今後どうするのか?
ココがキニナル!
世界遺産になれなかった「鎌倉」今後はどうなるんですか?鎌倉の世界遺産登録に向けた取り組みを知りたい。(にゃんさん、タイサンさんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
物的証拠不足という結果をふまえ調査、研究のうえ数年中に再度コンセプトの提案をする予定。研究結果が不十分であれば申請できないとのこと
ライター:はまれぽ編集部
武家の古都・鎌倉を体現する21ヶ所
「武家政権所在地に大きな影響を与えた場所」というのが選定基準とのことだが、単純に鶴岡八幡宮や円覚寺、建長寺など歴史ある寺社仏閣だけではなく「地形」もその要素に含まれているのが興味深い。
そうして「政権に影響を与えた」歴史的なエピソードを追っていくと現在の鎌倉市に隣接している場所も必然的に選ばれるため、横浜市金沢区の「称名寺」や「朝夷奈切通」、逗子市の「名越切通」なども構成要素となったそうだ。
朝夷奈切通は「朝夷奈三郎義秀」が鎌倉時代に切り開いたとされている
「切通」が5つも
こうして2007(平成19)年ごろから「武家の古都・鎌倉」は神奈川県と横浜市、鎌倉市、逗子市の「4県市」で連携をはじめ、市民のあいだでも2006(平成18)年「鎌倉世界遺産登録推進委員会」が結成されるなど徐々に登録に向けて具体化が進んだ。
2012(平成24)年、文化庁と4県市はユネスコへ推薦書を提出。ユネスコの審査機関「イコモス」による現地調査を迎えた。
誰が何人来たのか、みたいなことはナイショ
「イコモス」はパリに本部がある諮問機関。ざっくりいうと「世界遺産に正式に推薦するかどうか、事前にチェックさせてね」という組織。
そして2013(平成25)年に出た結果は前述のとおり。
「・・・鎌倉はとてもいいところで価値がある街だってことは分かるんだけど、今回は推薦しない」というような結果だった。
推進委員会は結果をうけて「今回は推薦を取り下げてください」と依頼したとのこと。なぜなら「世界遺産委員会で“だめ”と言われたら二度と登録申請できないから」なのだそう。
日本で暫定リストに登録されて、イコモスから「不記載」とされた場所は「武家の古都・鎌倉」が初である。
称名寺の梵鐘は国の重要文化財
では、なぜ「不記載」という結果になってしまったのか。理由は何だろう?
「“武家の古都・鎌倉を証明できる物的証拠が不十分だった”とのことです。“社寺などの武家の精神”が残るものは多数あり、独自性もある。それは評価に値するが世界のほかの地域と比較してもあまり目立つものではない、と」
・・・物的証拠!? 自分たちは「鎌倉幕府」の歴史をずっと習ってきたうえに文献も多く残っているし、何よりそのモノがあるから暫定リストに載ったのだと思っていたのだけど・・・。
これについては桝渕さんも少し困った表情で「史実については認められても政庁や当時の市街地のあとがなく、評価ができない、とのことなんですよ」と言葉を重ねてくださった。
鎌倉幕府の御家人、和田義盛もビックリ
振り返って、登録に向けて、市民とはどう協業していたのか伺った。
「鎌倉出身の解剖学者、養老孟司さんを会長に、市民がワークショップやシンポジウムなどを行う活動が中心です」とのことで、けっこうシンプルな活動内容だったようだ。
企業とはJRや江ノ電などの鉄道会社がのぼりや垂れ幕を作成したり、鎌倉ハムが主導してパンフレットを発行したりするなどはあったが、ごみ問題を想定したり景観を意識し大々的に清掃活動をするなどのイベントはあまりないとのことだった。
江ノ電の車体でもPR(鎌倉世界遺産登録推進協議会HPより)
ズバリ、今後について話を伺うとこんな答えが返ってきた。
「コンセプトから見直して再度分析し、歴史的な物的証拠があるかどうか研究しています。今研究開始から2年目で、2016年中をめどに結果が出なければ、再挑戦は難しいですね」
「同時に課題もあります。じつは半数ほどの住民が登録に反対しているという現状もあるんですよ」
・・・反対意見とは想像していなかった(フリー画像より)
自分の住まいが世界の中で価値がある場所だと認められれば、普通うれしいのではないか? そんな短絡的なものでもないのか。
「そもそも、4県市では“歴史的価値、文化価値を守っていきたい”というのが望みです。しかしながら、観光誘致のように“さらに人が増えるのが困る”という意見がありごみや渋滞が増えるという不満の声が多くあるんです。ただ、鎌倉は昔から観光地で、渋滞やごみの問題がつねにあった。これは、ちょっと論点が違って、世界遺産に登録しようがしまいが、解決しなければいけないことなんです」
観光地の宿命。渋滞、そしてごみ問題(フリー画像より)
単純に「行政も世界遺産に登録されれば財政が潤っていいのでは」と思っていたが、そんなことは話の土台にも上がらない。現状「観光誘致」などは十分すぎる鎌倉市にとって、世界遺産の登録は普段から住民が不満に思っていたことを刺激する材料にもなっているようだ。
桝渕さん、お忙しいなかお時間ありがとうございました。
鎌倉市役所をあとにし、後日、世界遺産登録にかかわる横浜市の教育委員会生涯学習文化財課の中村さんと逗子市の教育委員会社会教育課の佐藤さんに「今後の世界遺産についての試み」を伺ってみると、二者とも「鎌倉市と同様の意見です」とのことだった。
候補地の大半がある鎌倉市に主導権がありそうな印象だ。
では鎌倉市民はどう感じているのか。実際の声を聞くべく駅周辺で「市内在住」の方20名ほどにインタビューをすることにした。
ごみと渋滞
御成通りへ
通りを歩いている60代の男性(写真はNG、勝新太郎さん<仮名>)に「鎌倉が世界遺産に再挑戦することについてどう思いますか?」と伺うと苦虫をかみつぶしたような顔をしてこう答えられた。
「いやあ・・・いいよ。君、見たことある? 観光客がごみをそのへんに捨てていくの。分別もできてないし、鎌倉市は2015(平成27)年からごみを捨てるのに有料袋を買わなきゃならないんだよ。なんでよそから来た人間が捨てたごみを自分たちのお金で始末しなければいけないのかねえ」
ごもっともだ。そして、ごみのことは桝渕さんのおっしゃっていたことでもある。世界遺産登録に向けてはあまりというか、少しも肯定的ではなかった。ありがとうございました。
続いて、この地で創業57年の鎌倉彫「松仙堂」の廣田(ひろた)さんに話を伺った。
鎌倉の世界遺産登録はなぜ実現しなかったと思いますか?
京都に比べると汚いからじゃない? と廣田さん。背後にあるのは廣田さんの作品たち
「看板もちょっと品がよくないところがあるし、申請しているエリアも広すぎたよね。自分は鎌倉の歴史的価値をのちの人たちに伝えていくのはいいことだと思ってるよ。鎌倉生まれ、鎌倉育ちの人はそう思うんじゃない? でも、登録に向けては何もしないね」
と前の方とは打って変わって肯定的な意見だった。
続いて場所をかえ、奥様たちに突撃
お子さんをお持ちで鎌倉在住10年ほどの奥様たちに声をかけてみた。
「うーん。世界遺産にはあまり登録してほしくないと思うわね。3連休後なんかはけっこうごみも散らかっているし・・・。車も混むし・・・。これが改善されるなら登録してもいいと思います」とお二人で仲良く会話を続けてくださった。
渋滞緩和対策「ロードプライジング」は2020年から実施予定
小町通りに場所を移し「観光人力車のパイオニア」であるという有風亭(ゆうふうてい)の青木さんに伺った。青木さんは鎌倉で33年本職の車夫をしている。
よろしくお願いします
「なんで今さら世界遺産のことなんか聞いてくるの(笑)。確かに当時は何となく登録されればいいかな、と思っていたけどね、よくよく考えたら鎌倉には当時の姿が残ってないでしょ。そりゃあ無理だよね」
「高徳院の大仏さまは鎌倉時代のものだけど、ほかは江戸時代以降の再建のものばかりでしょ。だから物的証拠がない、と言われても仕方ないんじゃない。富岡製糸場は1つに絞ったから登録されたんじゃないかな。ちょっとよくばりすぎた感じがするよね」
鋭いご意見をいただいた。なるほど・・・「再建」のものだから認められないという意見は理にかなっているような気がする。
最後に、鎌倉氏を名跡とする鎌倉智士(かまくら・さとし)さんの意見を頂戴した。
「現段階での世界遺産には反対の意見をもっていたので、登録されず、ホッとしています。登録されることはないと思っていましたし、登録に向けて特に何も行っていませんでした」
源頼朝に現状を説明したらどう答えるだろうか
「登録されなかった理由は遺産が遺されてはいないからだと思います。新しい家など建物が建てられれば遺跡が発見されますが、埋まっていた遺跡がそのまま遺されることはありません」
「たとえば由比ガ浜南遺跡(現在の由比ガ浜地下駐車場)のように、遺跡が出てきてもだいたいは壊してその上に何かを建ててしまっています。遺跡と呼べるものは破壊されてしまっているか、もしくは街の下にあって表面上には何も遺っていないのです。そんな状態で登録なんてされてしまってはとても残念です」
「渋滞や交通機関の混雑、私有地などに多くの観光客が立ち入ってしまいかねないなど、鎌倉に住む人々のことを考えると、現段階で世界遺産に登録されても地域に対してデメリットしか想定できないです。再挑戦に向けても特に何もしていません」
とのことだった。
20人インタビューをとって「興味が全くない」という方1人を除いて1人が賛成、18人が「ごみ」や「渋滞」を想定し、反対しているという結果が出た。
取材を終えて
鎌倉には確かに「武家政権」が存在し、価値のある「古都」であることは誰もが認めることであると思う。
世界遺産への登録に向け、今後その「価値」について「世界基準で分かる見せ方」をすることで登録が実現されたら、みなどんな意見を持つのだろうか。
現状についても、読者のみなさんから率直な意見を伺いたい。
-終わり-
@@さん
2020年02月05日 01時05分
宅地開発で遺構を壊しまくってるのに世界遺産登録なんてイマサラでは?
きらきら星40さん
2017年01月11日 15時36分
それでも鎌倉市は世界遺産登録を目指して税金を使っている。市役所内にはこれに携わる公務員を常駐させている。なんてこった。税金を払っている市民の身になってください。もういい加減にしときなさい。いつまでもこんな公務員を雇っていたら賄賂性を帯びてくるよ。
はまぽれさん
2016年02月17日 12時11分
世界遺産の登録に対して地元から慎重論が出ることもある、なんていうことは、あたりまえすぎるほどあたりまえの話です。「反対意見があるなんて想像だにしていなかった」とか「自分の住まいが世界の中で価値がある場所だと認められれば普通うれしい」とか、この記者の見識の浅さには驚くばかりだ。「ユネスコ」という組織に認めてもらうことがあたかも絶対的な価値と信じて疑わない無邪気さには呆れるしかない。