野毛近くにあるお寺「横浜成田山」西参道を辿ると奥深い歴史が見えてきた
ココがキニナル!
横浜成田山の西参道を登ると旅館を改装したゲストハウスなど新しい施設ができていますが、旅館の跡地など昭和の歴史を感じるエリアです。昔はどんなところだったか知りたいです。(紅葉坂さんのキニナル)
はまれぽ調査結果!
成田山西参道は明治・大正期には参詣者で賑わう人気の参道として多くの店が建ち並んでいた。震災・戦災を経て特殊な旅館街へと変貌するが、その旅館街も衰退し、今また新たな変化の兆しが見える。
ライター:結城靖博
人気カレー店は、やっぱり元ホテルだった
この店も、気安く取材を許可してくれた。店の名前は「Kikuya Curry(キクヤ カリー)」。ネットで調べてみると、かなりの人気店であるらしい。
参道入り口の左角に店を構える
昼のオーダーストップ直前、14時半前に店を訪ねると、店内のテーブルはほとんどお客で埋まっていた。
まずは人気のカレーを食べなくちゃ。というわけで注文したのは、店員さんおススメの一品、スリランカ風豚バラカレーだ。
これにライスとサラダがついて1050円(税込)
肉厚とろとろの豚バラと野菜がゴロゴロ、それに半熟卵が入ったスープカレーだった。ルーは脂っこくなく、さらっとしている。独特の風味が癖になりそうだ。
あとで店主から聞いた話では、昔馬車道にあったスリランカ風カレーの名店「キャンディストリート」の味を念頭に置き、独学で生みだしたのだという。「ま、オニオングラタンスープがベースなんだけどね」と、ちょっと種明かし。なるほど、だからすっきりした味なんだ。
完食するとちょうど閉店の時間となり、その後店主の吉井由昌(よしい・ゆうしょう)さんから、西参道についてお話を伺う。
シックな店内をバックに、気さくに話をしてくれた吉井さん
吉井さんは現在67歳。ということは、子ども時代のこの辺りをよく知るはずと思ったが、子どものころは元町に家があったという。
「でも、母親がこの建物の隣りで旅館を経営していたんだ」。今はアパートになっているが、かつてはそこも「みどり旅館」という宿だったという。
おまけにこのカレー店の建物まで、実は以前は「ホテル金港(きんこう)」という名の宿だった。しかも晩年の5、6年ぐらいは、吉井さん自身がホテルの経営者だった。2000(平成12)年ごろまでホテルをやっていて、数年後に建て替えてレストランを始めたそうだ。
このコンクリート打ちっぱなしのモダンなビルが、かつてどんなホテルだったのか
「すると、ホテル金港さんもやっぱり旅荘野毛のような客層だったのでしょうか?」と尋ねると、「いや、いろんなお客がいましたよ」とケムに巻かれた。
「でもね」と、参道に旅館が軒を連ねていたころの面白いエピソードを話してくれた。「この通りの宿は、客がいっぱいになると看板の灯りを消してしまうんだよ。そうやって、今どこの宿に空きがあるか客に知らせるんだね」
最盛期は7、8軒はあったと吉井さんが記憶する同業者どうしの、暗黙のルールだったようだ。
「それでも、満室なのに玄関をドンドン叩いて入って来ようとする客がいるんだな」とクスクス笑って当時を懐かしむ吉井さん。
「いい時代だったよ」
「えっ、そうでしたか?」
「そうさ、賑わいがあってね」
現在の夜の西参道
その賑わいが徐々に衰えていったのは、やはり萬徳寺副住職が言うように平成に入ってからだという。
そんな今、ご本人がオーナーの空き家をゲストハウスとして再生したFUTARENOさんについてどう思うか訊いてみた。
「不動産屋を通して二組のゲストハウス希望の話があったんだけど、あの夫婦はしっかりした書類を持参して、熱意が凄く伝わってきたから彼らに決めたんだ」
「借りるときに吉井さんから『この通りをまた盛り立ててほしい』と言われたと、田中さんに聞きましたよ。このカレー店にもそんな思いが込められているんじゃないですか?」
「うーん。盛り立てたいという気持ちはあるけど、周りの後押しがないとね・・・」
静まり返る西参道とその先にそびえるランドマークタワーが対照的だ
ほとんどがアパートになり、そのアパートには東南アジア系の外国人が多く住み、地元との交流もないようだ。
商店組合もなく、店ごとのバラバラな取り組みだけではなかなか難しいだろう。だが、カレーのいい香りとともに、通り沿いを微かに新しい風が吹き始めているのも事実だ。
取材を終えて
実は西参道のそばには、もう1軒店舗がある。
参道入り口右側のビル1階の「いづみ書房」
こちらは幼児教材や知育玩具などを扱う専門書店だ。ここにも問い合わせをしてみたが、「当地に店を構えてそれほど長くないので、西参道の歴史についてはわからない」とのことだった。
また「最近白人が、この通り沿いの家をリフォームして住んでいる」と、複数の取材先から聞いた。その当人らしき男性が、取材中、目の前を通り過ぎたので声をかけてみた。
すると、詳しい素性は明かしてもらえなかったが、猫が好きなのだという。で、「うちの猫を見ないか」と家の中へ誘われる。場所柄だけにちょっとためらいつつも思い切って中へ入ってみると、ベランダにいるカワイイ猫たちを見せてくれた。
謎の外国人宅のベランダの猫たち
チャッチャと歩けばたった1分ほどの坂道に、これほど多くの物語が隠されているなんて、やはり横浜は深い。実に面白い取材だった。キニナル投稿をしてくれた「紅葉坂」さん、ありがとう!
―終わり―
取材協力
成田山横浜別院延命院(野毛山不動尊)
住所/横浜市西区宮崎町30
電話/045-231-4935
http://yokohamanaritasan.com/top/
萬徳寺
住所/横浜市西区宮崎町32
電話/045-242-4533
GuestHouse FUTARENO
住所/横浜市中区野毛町4-173-5
電話/045-308-8577
http://futareno-gh.oops.jp/
Kikuya Curry(キクヤ カリー)
住所/横浜市中区野毛町4-173 天悦ビル101
電話/045-231-0806
横浜市中央図書館
住所/横浜市西区老松町1
電話/045-262-0050
開館時間/火~金9:30~20:30、その他9:30~17:00
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/tshokan/central/
参考資料
『復刻版 横浜繁盛記』横浜郷土研究会編集・発行(1997年3月刊)
『復刻版 横濱市史稿・風俗編』横浜市役所編纂、臨川書店発行(1985年12月刊)
ホトリコさん
2019年12月18日 13時40分
今ではカレーにらっきょうは希少なので、さっそくここのカレーを食べにいこう。福神漬けとらっきょうが揃わないと寂しい客も減っているんだな。
たけむらさん
2019年12月16日 22時10分
図書館からの帰りに、気分を変えてふらりと通る道。独特な雰囲気があるけど、カレー屋さんで食事したくらいで、あとは入ったことのないお店や旅館ばかり。はずかしながら成田山さんと萬徳寺さんが別のお寺だということもこの記事で知った。身近なところでも、まだまだ知らないことばかり。だから横浜は面白い。