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京急線戸部駅~日ノ出町駅間のトンネルのカーブが凄いのはなぜ?

京急線戸部駅~日ノ出町駅間のトンネルのカーブが凄いのはなぜ?

ココがキニナル!

京浜急行の戸部と日ノ出町の間にある長いトンネル。先頭車両で観察していると結構グニャグニャと曲がっている事に気づきました。なぜ、あそこまで曲げる必要があったのか調査をお願いします(zumiwoさん)

はまれぽ調査結果!

京浜電鉄(当時)が横浜~日ノ出町間を建設する際に横浜市や地域と協議を重ねた結果、曲がりくねるようにトンネルを建設したと推測できる。地上の老松中学校を避けた可能性も高い。

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ライター:若林健矢

延伸をめぐった衝突



京浜電鉄は日ノ出町駅への延伸に向けて1925(大正14)年頃から工事予定部分の実測を行っていた。でも当時は1923(大正12)年に起きた関東大震災の爪痕が残っており、横浜市の復興工事のために京浜電鉄が受けた制約も多い。そのため建設する区間の大部分を高架線や地下線で建設しなければならなかった。

そこで、横浜~戸部間は高架線をメインに、戸部~日ノ出町間は地下線(トンネル)をメインに建設することに。当時の横浜市は高架線建設に賛成だったが、平沼地区の住民が猛反対。結果として、京浜電鉄は平沼地区を高架線で通過する代わりに「平沼駅(現在は廃駅)」を開設する、ということで協定書が結ばれ、解決した。

 
京急線戸部駅~日ノ出町駅間のトンネルのカーブ
竣工当時の戸部高架橋(画像提供:土木学会附属土木図書館)
 
京急線戸部駅~日ノ出町駅間のトンネルのカーブ
当時の平沼地区住民は最初、高架線での延伸に猛反対だったらしい
 

そして野毛山隧道にも建設反対の動きがあった。『京浜電気鉄道沿革史』によれば、野毛山隧道の建設は京浜電鉄が担当したが、その用地買収には湘南電鉄の社員も協力していた。両社の担当者が地主へ交渉しに言ったところ、何度話しても地主が一歩も引かなかったために、しびれを切らした京浜電鉄が工事を強行したこともあったという。

当然その地主は反発し、内務省や宮内省に陳情と嘆願書を提出。2人の担当者と当時の京浜電鉄社長・生野團六(いくの・だんろく)氏が戸部警察署に呼び出され、警察の仲介のもと地主との和解に至ったというエピソードがある。線路を敷設するための地理的な条件だけでなく、沿線住民との問題も解決しなければいけないところに鉄道建設の難しさが垣間見える。



野毛山隧道はなぜ曲がりくねっているのか




現地や資料をいろいろ見て来たが、結局のところ、野毛山隧道はなぜ曲がりくねっているのだろうか? その理由は、当時の京浜電鉄が横浜市や沿線住民と交渉を重ねた上で路線を決定したからではないか、とわたしは考えた。同社が路線の実測を始めた時点では、横浜は関東大震災から立ち直る途中だったため、さまざまな制約を受けて苦心を重ねた上での決断だったように思える。

今回調べた中では、トンネル建設時に老松小学校(当時)の校舎地下を避けたことに関する資料は見つからなかったが、平沼地区の事例や野毛山隧道建設時のトラブルを見るに、同校校舎を避けた可能性は高い。法律上は土地利用にさしたる影響がないとしても、建物の下を鉄道が通ることに対して、住民と鉄道会社の両社が慎重になっていたのではないだろうか。

そのものズバリな資料は見つからなかったが、多数の参考資料を見て推測した結果として、今回はこのような回答とさせていただきたい。



現在の用地取得の方法は



参考までに現在の鉄道用地買収についても軽く触れておこう。今日、新たに鉄道のトンネルを建設する場合、地表に近い部分や開削工法の予定地は、原則鉄道会社が買収することになる。

シールド工法による掘削の場合、地中深くにトンネルを掘る場合がほとんど。トンネルの上下端部左右の端部から一定範囲を区分地上権と定め、地表面からのトンネル上部まで区分地上権の範囲以上の深さがあれば、その土地の買収は行われず、土地所有者も移転をしなくて済む。

逆に地表からの深さがそれよりも浅い場合は鉄道会社がその土地を買収することになる。イメージとしては、筆者が資料を参考にして描いた下のイラストのようになる。

 
京急線戸部駅~日ノ出町駅間のトンネルのカーブ
地下の浅い部分にトンネルが設けられる場合、該当の地表部分は用地取得対象に
 
京急線戸部駅~日ノ出町駅間のトンネルのカーブ
地中深くのトンネルの場合、単純に地下に線路が通る形になる
 

いずれの場合も民有地の下を鉄道が通過するか、民有地そのものを鉄道会社が買い取るため、土地所有者には金銭補償が行われる。ただしこれは、あくまでこれから新しく鉄道を建設する場合の話ということには注意してほしい。

野毛山隧道の場合、現地には京急電鉄管理地があり、これは確かにトンネルの真上にある鉄道会社の敷地といえる。他の位置には現在も多数の住宅があるが、現地の隧道と住宅の関係については資料が見つからなかったため、説明は割愛させていただきたい。



取材を終えて



今回の結論としては、当時の京浜電鉄が横浜駅から線路を延ばす過程で、横浜市や沿線住民らとの協議・交渉・調整を重ねた上で野毛山隧道を建設した。その過程でまっすぐトンネルを掘ると当時の老松中学校校舎の地下に当たるため、それを避けるためにカーブを設けた、という可能性がある。

調べてみると非常に難しいテーマだったが、日常的に電車に乗っていて、何も考えずに通過してしまいがちなトンネルの意外な歴史に触れることができたのではなかろうか。今日の京急は確かに便利だが、その背景には、当時の沿線住民と鉄道会社が積み重ねてきた過去があることを忘れてはならない。


-終わり-


取材協力
京浜急行電鉄株式会社

画像提供
京浜急行電鉄株式会社

横浜都市発展記念館
住所/横浜市中区日本大通12
電話/045-663-2424
開館時間9時30分~17時(入館券販売は16時30分まで)
休館日毎週月曜日、年末年始ほか
http://www.tohatsu.city.yokohama.jp/

公益社団法人土木学会附属土木図書館
住所/東京都新宿区四谷1 外濠公園内
電話/03‐3355-3441
開館時間/9時30分~17時
休館日土日祝日、振替休日、毎月第2水曜日、年末年始
http://www.jsce.or.jp/library/index.html

参考資料
『京浜急行百年史』 発行・編集:京浜急行電鉄株式会社 1991年
『京浜電気鉄道沿革史』 発行:京浜急行電鉄株式会社 1949年
『トラベルMOOK 京急電鉄の世界』 発行:交通新聞社 2014年
『京急電鉄 明治・大正・昭和の歴史と沿線』 著:宮田憲誠 JTBパブリッシング 2015年
『鉄道とトンネル―日本をつらぬく技術発展の系譜―』 著:小林寛則、山崎宏之 ミネルヴァ書房 2018年
『考え方と設計がよくわかる実務シリーズ① トンネルの設計』 編:大成建設株式会社土木本部土木設計部 山海社 2007年
『交通ブックス108 やさしい鉄道の法規―JRと私鉄の実例―』 著:和久田康雄 成山堂書店 1997年
『区制50周年記念 横浜西区史』 編集:横浜西区史編集委員会 発行:横浜西区史刊行委員会 1995年
『ものがたり 西区の今昔』 編集:西区の今昔・編集委員会 発行:西区観光協会 1973年
『目で見る老松のあゆみ』 発行:横浜市立老松中学校 編集:記念誌編集委員会 1977年
『土木建築工事画報 1932年6月号』 発行:工事画報社 1932年 「京浜電鉄横浜乗り入れ線建設工事概要」より 文:相良守(京浜電鉄株式会社技師)
『復刻版・湘南電鉄沿線名所図絵』 吉田初三郎 発行:横浜都市発展記念館 2014年

参考ウェブサイト
鉄道・運輸機構ホームページ
相鉄・東急直通線 用地取得について
横浜高速鉄道株式会社 みなとみらい線車両留置場計画について
横浜と鉄道 京浜急行・野毛山トンネル線形の謎!
 
 

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  • 地下水とか岩盤がちよー堅かったからとかじゃないかな?

  • 小学校の下を通ることに対する反対というのは今ならよくわかるが、戦前どういう形で反対があったのか想像が難しいので説得力がやや弱い気がする。図解もわかりにくい。

  • 幼少の頃、親に分からないことを聞くと「自分で調べろ」と言われました。調べる。大切なことと、改めて思いました! そこにね歴史も、真実も、あるからです!! でも、このトンネルには、地質とか、外にもありそうな気もします^_^?

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