『今夜、ハマのバーにて。 vol.3』〜「ダイキリ」と太田圭介さん〜
ココがキニナル!
ホテルニューグランドのバー「シーガーディアンⅡ(ツウ)」。チーフバーテンダーの太田圭介さんと、バー初心者の筆者が毎週1杯のカクテルをとおして、「バー」という場所のたしなみ方を考えます
ライター:はまれぽ編集部
今夜のカクテル:ダイキリ
ラムをベースに、レモンジュースとシロップを入れてシェイクするダイキリ。ラムが有名なキューバの鉱山「ダイキリ」が名前の由来で、技師として働いていたアメリカ人たちがラムをレモンジュースで薄めて飲んでいたのがはじまりとされる。
「僕の中でおいしいカクテルの条件は、ベースのお酒がしっかりしていて、甘みと酸味のバランスがシェイカーの中で調和し、まとまっていること。ダイキリは、まさにその三位一体が表現できるカクテルですね」と、「シーガーディアンⅡ」のチーフバーテンダー、太田圭介(おおた・けいすけ)さんはいう。
チーフバーテンダー・太田さんの歩み
バー初心者の筆者に、毎度いろいろなことを手取り足取り教えてくれる太田さん。今回は、そのバーテンダー人生に迫ってみたい。太田さん、バーテンダーになった経緯を教えてください!
「学生のころ、カクテルブック(写真付きのカクテルのレシピ本)で見かけたカクテルの美しさに魅了されたんです。バーテンダーになることを決めました」
奥深きカクテルの世界のトリコになった太田青年は、そのカクテルブックでまずはカクテルの勉強を始める。その中で運命的な“あること”に気付いた。
「どんな本にもほとんど、ホテルニューグランドの名前が出てくるんですよ。あ、ニューグランドのバーってすごいところなんだって」
使い込まれたあとの残るカクテルブック
そうして「シーガーディアンⅡ」のバーテンダーになることを志し、高校卒業後、ホテルの専門学校を経て、念願だったホテルニューグランドへの入社を果たす。
しかし、憧れの場所で配属されたのは「シーガーディアンⅡ」ではなく、フレンチレストラン「ル・ノルマンディ」。太田さんがバーテンダーとして「シーガーディアンⅡ」のカウンターに立ったのは、その7年後だった。
7年。夢を追いかけ期待でいっぱいの若者にとって、じっと待つには長すぎる時間ではないだろうか。心が折れかけた太田さんは、当時のチーフバーテンダー、故・宮本友春(みやもと・ともはる)さんに自身の希望がなかなかとおらない、もどかしい思いをぶつけた。
「『太田君、ニューグランドのバーは君が憧れたところだよね? 20代の若造がカウンターにいても、お客さんは喜ばない。バーテンダー人生は長いから、もっと研鑽を積んでからだって遅くないよ。今は与えられたところで努力しながらチャンスを狙って、夢をあきらめないでやってなさい』っていわれたんです。その言葉があったから7年待てたのかもしれない」と振り返る。
フレンチで働きながら、バーテンダーの資格を取得するなどバーについて勉強を重ね、夢をかなえた。その7年間は無駄ではなかったという。
「バーテンダーにとって、無駄なことってないんですよ。全部お客さんとの会話につながるので。会話の引き出しの多さがお客さんをもてなす力にもなります」
「バーテンダーにとって一番大事なのはカクテルメイキングじゃなくて、絶対的に“人間力”なんです。5年修行すれば人並みにおいしいと思っていただけるカクテルの製作技術は身に付きます。だけど、人間を磨くにはそれじゃ全然時間が足りない。会いたいなって思わせるバーテンダーになる必要があるんです」
キリリと冷えた「ダイキリ」は
『なにかバーテンダーさんの得意なカクテルを』。そんな注文を受けたとき、太田さんは今夜のカクテル、ダイキリを作るのだという。
「ダイキリは、シェイカーに霜が付くくらいハードシェイクで仕上げます。しっかり上手にシェイクすることで、ラム、レモンジュース、シロップのバランスがとれるんです」
霜がびっしり。これが難しく、なかなかできないのだとか
真っ白なダイキリ。表面は凍りシャラシャラしている
ぐいっとグラスを傾けると、目の覚めるような冷たさとともにラムが香り、甘みと酸味が口の中でふわっと爽やかに広がる。これが太田さんのいう“三位一体”か。
取材当日、「きょうは車でいらしてないですよね? ダイキリは絶対に飲んでいってね」と声をかけてくれた太田さん。その一言からもダイキリにかける思いがうかがえる。
見識が広く、バーに限らずいろいろなことを教えてくれる太田さんだが、いつもこちらの言葉にも耳を傾けてくれる。お話しているととてもリラックスでき、一瞬取材を忘れてしまうほど楽しい。でも同時に、なんだか背筋が伸びる思いがするのだ。
太田さんにとって思い入れのあるカクテルだというダイキリを味わいながら、それは、果てしない努力と鍛錬の末に今、「シーガーディアンⅡ」のカウンターに立っている太田さんの前で、恥じない自分でありたいという緊張なのではないかと思った。
まだまだ底の見えないバーとバーテンダーの世界。これからも、おいしいカクテルとともにその魅力に迫っていきたいと、襟を正した夜でした。
次回は~「ヨコハマ」とストーリー~をお届けします。
―終わり―
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