青木小学校にうかがう

青木小学校に当時の記録が残っているだろうか？　多少の不安を抱きながら青木小学校に連絡をとると、取材を快諾していただいた。
青木小学校は、京浜急行線「神奈川駅」から5分ほどの高台にあり（東急東横線「反町駅」から徒歩3分）、今年で創立140周年を迎える横浜市の中でも、最も伝統ある学校のひとつだ。
　

校舎外壁に開校140周年を祝う「輝け 青木140」の文字が見える
　

青木小学校校庭から校舎をのぞむ

通常の子どもたちとの活動に加え、140周年を記念する印刷物や行事の準備でお忙しい中、丹波副校長と音楽専任の田中先生が対応してくださった。

校長室前には、1929（昭和4）年に同校の子どもたちが横浜市歌を歌い、レコードに収録されたことが記録され、横浜市歌の歌詞や当時の写真とともに額に納め飾られていた。
　

額中にある「横浜市歌」のCDは、現在横浜市の市民情報センターで販売されている（定価850円）

JOYSOUNDとキングレコードに確認してきた事実をお話して、横浜市歌を録音した経緯をうかがう。
詳しい経緯はわからないと前置きされた後、先生方から当時の青木小学校の様子についてお話していただいた。

青木小学校では昔から熱心な音楽教育がされていた。それがわかるエピソードとして、1920（大正9）年には、青柳善吾（あおやなぎぜんご）(1884<明治17>年～1957<昭和32>年)氏が、青木小学校訓導（唱歌科勤務）となったことが挙げられる。
　

1927（昭和2）年、青木小学校の音楽会

　
青柳氏は後年、文部事務官などを歴任し、音楽教育関連書を多数出版するなど、唱歌教育から音楽教育への転換のきっかけをつくった音楽教育の先駆者とも言われる人物だ。青柳氏は同時に横浜市小学校唱歌科指導を委嘱されており、翌年には、横浜市立教員養成所の講師を委嘱されている。
　

1928（昭和3）年、青木小学校の卒業写真

横浜に数ある学校の中でも青木小学校に通うことは誇り高いことで、東急東横線沿線の良家のご子息がわざわざ越境通学を希望して通うような学校だったそうだ。
横浜市歌の録音がされるにあたり、熱心な音楽教育から青木小学校にその白羽の矢が立ったとしても不思議のない教育環境であった。
　


市民に愛される横浜市歌

当時の様子をお聞きした後、いよいよ1929（昭和4）年に横浜市歌が録音されたというレコードを見せていただいた。このレコードは蓄音機でしか聴くことができず、長い間、学校で聴く機会がなかった。

ところが、近所に蓄音機の収集家の方がいて、それを学校に貸してもらい全校生徒の前でかけることができたそうだ。
　

横書きの文字が右から書かれていて、時代を感じさせる
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横浜市歌が収録されているレコード

ここに収録されている横浜市歌は、現在、カラオケで歌われているものより速いテンポだという。
1929（昭和4）年ごろは、日本ではSPレコードに録音する技術ができたばかりで、多重録音ができず、オーケストラの演奏で一発録音するような時代。

SPレコードはシェラック製という材質で、後にできた塩化ビニール製のLPレコードやEPレコードに比べて破損しやすかったため、溝を細かくしたり、回転数を遅くしたりして長時間収録に対応させることが難しかった。そのため、速いテンポで歌って収録可能な時間におさめたのではないかとも考えられるようだ。
　

ジャケット裏面。蓄音機のイラストが描かれている

青木小学校は長い伝統を守って、現在も、合唱やブラスバンドのクラブが活躍する音楽の盛んな学校。横浜市歌も二部合唱で歌われているという。
横浜市歌が多くの人に愛されることについて、「楽曲の良さというのが、ひとつの要因ではないでしょうか。横浜市歌は、詩も良いし、メロディーも入りやすく、楽曲としての魅力があるのだと思います」と田中先生は話してくれた。
　

取材を終えて