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一見、横浜に関係なさそうな「ふぐ」をまつる「供養碑」が本牧にあるのはなぜ?

ココがキニナル!

ふぐ料理店「忠勇」の創業者・永島四郎氏は、「ふぐ供養碑」を建立し、ふぐ調理免許制度をつくった方だと聞きました。横浜伝統の「ふぐ料理」などと併せて取材してください(寿さん、アルミンさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

永島四郎氏はフグの調理技術を確立した人。供養碑は、「神奈川県ふぐ協会」設立20周年記念に建てられた。横浜伝統のフグ料理は特にない。

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ライター:松本 伸也

神奈川全域にフグ調理技術を広めた「忠勇」永島四郎さん



到着しました。市営バスなら「中村橋」、市営地下鉄なら「吉野町」ね


堀割川のたもとにある「忠勇」。昼過ぎにガラガラガラ~と引き戸を開け、迎えてくれた調理服の男性に来意を伝える。

「ほおおおお、おじいさん・・・四郎さんとフグについてですか。それは嬉しい。実は私たちも四郎さんのことはいろいろと取り上げていただきたいと常々思っておりまして」

どうぞどうぞこちらへ、と突然の客でない客を大歓迎してくれたのは四郎氏のお孫さんである永島章広(あきひろ)さん。いま父を呼んできますからそれでお話ししましょ、ということで、やって来たのは現在の「忠勇」の代表で、先代である四郎氏の跡取り息子・豊さん。なんと御年82歳。お若い。

「父のことを尋ねてくださり、ありがとうございます」と微笑む豊さん、問わず語りに「忠勇」のこと、そしてフグについての話が始まる。
 


出迎えてくれた「忠勇」、左から、永島章広さん、豊さん、満千代さん


「このお店は創業から95年になります。父の故郷は千葉の久留里というところでして、呉服問屋をやっておりました。三男でしたので実家を継ぐことはなく、近所の造り酒屋の日本酒『福祝(ふくいわい)』を横浜などに売りに行く商売を始めたんですね。久留里は水がきれいですからお酒も美味しい。よく売れましてね。それならばそんなお酒を飲めるところも横浜に作っちまえばいい、そんなことで『忠勇』ができました」

それが95年前、1919(大正8)年のこと。そしてそこからフグとの関わりができてくる。

「ありがたいことに父には釣り船が二艘ありしまして、それに乗り込んで釣った魚を振る舞ったりしていたんですね。いまも本牧沖や磯子沖は釣り場ですが、当時ももちろんそうです。で、それでフグも上がっていたんですよ」

「日本のフグ食は日本書紀にも記述があるくらいです」と豊さん。ことほど左様に大昔から食べられていたようだが、なにせ毒があるのは今も昔も同じ。公の提供など御法度だったのが公式に解禁されたのは1888(明治21)年、伊藤博文の手によってだという。
 


ふぐ料理屋といえばの“ふぐ提灯”。「これはトラフグですね」


「小学校時代の私のお弁当に、フグの天ぷらが入っていることがあって、それを友達とかが食べたら『とてもおいしい』、と。まあ当たり前ですよね(笑)。それでこんなに美味しいものを多くの人に食べてもらいたい、でも毒があるから調理が難しい・・・ということで父が行動に出たんです」

それは・・・
「横浜のみならず神奈川県でフグを安全に食べてもらいたい、その思いから、自分のフグ調理技術を神奈川県の隅々まで教えに歩いたんですよ。もともとは『忠勇』を始めたときにほかの調理人さんに教わったり文献などでフグの勉強をしたりして、毒の部分を取り除いてお客さんに提供できる、そして人に教えられるだけになったのですが、その技術などを体系づけて伝えていったわけです」
 


フグを美味しく安全に食べるために奔走した四郎氏


『忠勇』の一手販売ならば利益も独占できるのだろうが、「いやいや、他人様に対して“どうぞどうぞ”の人ですから(笑)」と笑いながら豊さんの話は続く。
「調理技術の確立や流通なども含めて、できるだけ安くて美味しいふぐを提供するために、『神奈川県ふぐ協会』の準備、設立・・・“市民酒場”というのもまとめましたね」
 


新子安の市民酒場「諸星」


市民酒場”は以前、はまれぽでも紹介した神奈川県が音頭を取って戦後に整備した大衆酒場。戦後の時代、「闇市があった野毛地区には、毒があり扱いが難しい魚としてフグが安価で取引されていたそうで、それが現在の野毛にフグ料理を扱うお店が多い理由の一端」(神奈川県ふぐ協会)だそうだが、「野毛などで安かったフグを安全に提供できるよう技術を教えたり、“市民酒場”を盛り上げるために自治体とも行動をしていた」のも四郎氏なのである。

さて、神奈川県ふぐ協会の設立準備が始まったのが1947(昭和22)年、そしてその3年後に神奈川県ふぐ協会設立と、流通側の“神奈川県ふぐ取扱業取締条例(販売営業条例、現在は神奈川県ふぐ取扱及び販売条例)”が施行。さらに翌年の1951(昭和26)年に“神奈川県ふぐ調理師免許(現在はふぐ包丁師)”の第1回試験が実施された。

ところで先頭に立たれた四郎氏は初代の協会会長ではないようで(初代は木村甚三朗氏)・・・
「いや、それはね(笑)。会長はとりあえず別のやる気がある人が・・・ということだったみたいで、技術を惜しみなく教えに行ったのと同じく“どうぞどうぞ”の人だったから。ただ、“行動する人”としてはちょっと物足りなかったらしくて、3代目に会長になったんですよ」

“行動する人”が会長に就任し、協会設立20周年を記念しようと行ったのが、当時の行政長への“直訴”。「ふぐ供養碑にも書いてありますが、当時の津田文吾神奈川県知事、それと飛鳥田一雄(あすかたいちを)横浜市長に陳情に行きまして、最初は山下公園に建てる話をいただいたんですよ。でも山下公園じゃ漁港っぽくはないので、ここでも行動しまして、漁港でもあった本牧を見渡せる今の場所になったんです」
 


『ふぐ供養碑』はここ山下公園に建立された可能性も


記念が供養碑になったのは、「食べているのもそうですが、試験でもいっぱいフグに力になってもらってますからね。その供養です」という豊さん。ここで同じ年の奥さま、満千代さんからこんな情報も。「あの供養碑、最初は金色だったんですよ。でもねえ、雨とかに洗われて、いま青銅っぽくなっちゃって。だから私この間、金のペンキでも塗ろうかと思ったんだけど、『それだけは止めてくれ』って作者の人に止められちゃった(笑)」
 


『ふぐ供養碑』の碑文の元がこちら。奥には四郎氏の肖像が


ここまで豊さんの話を聞いていた章広さん、四郎さんが礎を築いたフグ食だからこそと最後にこう付け加える。
「四郎さんは、フグを調理する技術を体系づけた人として、一介の料理人にもかかわらず昭和天皇から勲章も戴きました(1968〈昭和43〉年。勲六等単光旭日章〈くんろくとうたんこうきょくじつしょう〉)。これは私たち家族だけでなく、横浜市、神奈川県、そして全国のふぐ調理人の名誉だと思います。しかし、そんな調理師免許を受けた料理人が、安易に肝などを提供して事故を起こす。近年も著名人の求めに応じて肝を提供し、連れの方が食べて重体になる事故が東京でありました。それは自分の所持する免許にも、それを築いてきた四郎さんを始め多くの調理人への冒涜だと思います。どうかそんなことは止めてほしいですね」
 


「ぜひこの冬も神奈川県で安心、美味しいフグを召し上がってください」


“元祖”と謳われる忠勇はもちろん、そして神奈川県で提供されるフグ料理。前出の柳田さん曰く「オーソドックスなラインナップ」の中に“伝統”があるとすれば、包丁師免許制度やふぐ協会の設立、さまざまな条例の施行という、フグ食に関する一連の体系づけのことを指すのだろう。

「今日はわざわざありがとうございました」
いやいや、感謝するのはこちらのほうでしょう。その“伝統”に――。

根岸湾を見渡す、本牧臨海公園「ふぐ供養碑」。
多くの人に“福”をもたらせた偉人、その子孫、そしてその“伝統”を受け継ぐ多くのふぐ料理人の誇りが、そこにある。

今年もフグの冬が、やってくる。



取材を終えて

忠勇さん、実のところ「お話は15分くらいで・・・」なんて最初のお願いでしたが、結局は1時間近いお話になりました。

たとえば・・・「そうそうこの写真見てよ。来てくれて一緒に撮った『大沢』なんだけどね」と、そこに豊さんと満千恵さんと一緒に写っているのは元日本ハムファイターズ監督の大沢“親分”啓二さん。たしか神奈川県立商工高校出身でしたね、とこちらが受けると「そうそう! よく知っているね。実は私と同級生なんですよ。彼は昔から男気があってね・・・」としばらく“大沢啓二(おおさわけいじ)伝説”に。それを端から章広さんが「話、脱線しすぎでしょ(笑)」と軌道修正しながらの展開でした、ずーっと。「(筆者が)さっきから困っておられるから(笑)」とも言っていただきましたが、いやいや、そんな話も大好きです(笑)

ご家族そろって接客、大好きなんだろうな。
そんな印象で店を出ました。ああ残念なノンアルコールにノン酒肴。楽しい話も付くかもしれない、そんな期待とともにみなさんも忠勇、足をお運びくださいませ。


―終わり―

店舗情報
忠勇
住所/横浜市南区睦町1-3-6
電話番号/045-731-2727
営業時間/17:00~22:30(時期によりランチ営業あり)
定休日/月曜日

本牧 やなぎ田
住所/横浜市中区本牧三之谷14-12
定休日/月曜日
 

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  • 記事にしていただき、ありがとうございます。ふぐ包丁師の方のお話など入れて、とても良い記事ですね。忠勇の皆様、お元気そうで何よりです。お店ののぼりにもあるように、うなぎもおいしいです。うなぎを注文するとその場でさばくので、動いている心臓を出してくれます。食べられます、勇気があれば。

  • 会社の上司にゴチになった十数年前にたった一度だけ、鍋でいただきました。フグ関係はてっきり関門海峡が発祥かと思いきや、横浜と関わりがあったなんて!豆腐協会に次ぐ食のビックリ意外ニュースですね。

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