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横浜から始まった日本初の国産石鹸が今でも買えるって本当?

ココがキニナル!

横浜は石鹸も発祥の地で、堤磯右衛門という実業家が製造に成功したそうです。当時の石鹸が復刻され一般にも販売されているらしい。復刻に至った経緯やその使い心地などがキニナル。(だいさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

堤磯右衛門(つつみ・いそえもん)は、日本初の国産石鹸を製造した磯子の人物。一度復刻した石鹸をもう一度復刻したいという思いが形になった。

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ライター:松崎 辰彦

「磯右衛門石鹸」が復刻された



それでは石鹸に関して、復刻云々と投稿にあるのはどういうことなのか。
「今から20年以上前の横浜博覧会のとき、とあるグループが博覧会にあわせて、日本初の国産石鹸を復刻する計画を立てて、私のところにも相談にきたんです。当時は私の父が応対したのですが、先祖の供養にもなることだし、協力することにしました」

 

横浜博覧会開幕式 1989(平成元)年3月25日
(横浜市史資料室広報課写真資料)
 

横浜博覧会会場となったみなとみらい
(横浜市史資料室広報課写真資料)
 

復刻するにしてもデザインに使用した金型は磯右衛門が職人たちに渡してしまい、家になかったが、横浜開港資料館に現物が残存し、それを使用させてもらうことができた。またラベルは幸いなことに堤家に何枚か残されており、それらを使うことにした。

 

当時の堤石鹸の包装紙と、箱に使われたデザイン
 

問題は石鹸の原材料だった。初期の製品の原材料は牛の脂身・煙草の茎・食塩だったという。その後、椰子(やし)油・アザラシ油・落花生油・牛油・ソーダ・香料さらに蜂蜜やバニラといったものを使用するようになった。しかし、当時の石鹸を再現しても、現代人の使用に耐えるものにならない。それでこの部分は現代的な原材料と製法で行うことにした。

こうして完成した復刻版の「堤磯右衛門石鹸」は評判もよく、注目を浴びたが、問題もあった。
「石鹸表面のデザインがあまりに美しいので、多くの人がせっかく買ったのに使ってくれず、商品の売れ行きに影響したのです。石鹸は消費されてなくなり、新たに買ってくれなければ商売にならないわけですが、あたかも貴重な美術品のように捉えられてしまったんです」と堤さんは苦笑する。

 

横浜博覧会で復刻された石鹸
 

たしかに復刻された「堤磯右衛門石鹸」は実に繊細なデザインが刻印されており、現代ではこれだけ手の込んだ石鹸をほかに見出すことは難しい。このデザインも、おそらく絵心のあった磯右衛門がみずから描いたものではないかと真和さんは推測する。
この金型も、最初は木型を使用したがうまくいかず、最終的に金型になるまで試行錯誤したという。ハチをデザインしたものもあり、原材料に蜂蜜を使用したという話を裏付けている。

 

ハチが刻まれている。“HONEY”の文字も
 



「お母さんの残り香」が漂う石鹸を目指して



このように横浜博覧会で復刻した「堤磯右衛門石鹸」だが、来客や知り合いに配るなどして、徐々に数も減ってきた。真和さんはもう一度復刻したいと考えたが、個人で石鹸の復刻などできようもなく、思案を巡らせた。

そうした真和さんの目に留まったのが、中区で活動する「株式会社エクスポート」という企業であった。2009(平成21)年の7月ごろに“横浜の魅力を発信する”ことをテーマとして、さまざまな横浜の商品を復刻してきた同社に真和さんが連絡をとったところ、同社もまさに「堤磯右衛門石鹸」を復刻したいと考えていた矢先だった。

 

エクスポートがある万国橋SOKO
 

「エクスポートは横浜の魅力を発信することをテーマとしており、石鹸のほかにもかつて横浜で外国人の間で飲まれていたペールエールというビールを復刻し『横浜エール』として販売するなどしています」

 

横浜エール
 

こう説明するのはエクスポートのスタッフである田中あづささん。彼女はすでにはまれぽ記事「横浜のマスコット『ブルーダル』ってどんなキャラクター?」にもご登場いただいている。このときはブルーダルをデザインした「NDCグラフィックス」の社員としてであった。

 

磯右衛門の石鹸を持つ田中あづささん
 

実はエクスポートとNDCグラフィックスは社長を同じくする兄弟会社で、NDCグラフィックスで作ったデザインを、エクスポートで商品化して販売している。

 

磯右衛門の石鹸を抱えるブルーダル
 

「磯右衛門石鹸」再復刻に関してお話を伺った。
「私どもも堤磯右衛門の石鹸を復刻したいと考えていましたが、きっかけがなくなかなか実現しませんでした。そんなときに堤真和さんから再復刻のお話があり、ちょうどいいチャンスだということで、協力させていただくことになりました」

やはり横浜開港資料館にあった金型を使用して、デザインを再現した。気になるのは石鹸の原材料。ここでエクスポートは考えた。
「昔のままの石鹸では、どうしても現代人の使用に耐えません。新しい原材料と製法を使うことにして、古い石鹸の復刻なので懐かしさを強調したいと考え、イメージしたのは“懐かしい、お母さんの残り香”でした」

 

繊細なデザインが素晴しい
 

石鹸製造を担当したのは、東京の「玉の肌石鹸株式会社」。こうした歴史的文物に理解のある会社で、エクスポートの出した条件も承諾してくれたという。

「私どもは石鹸の専門会社ではないので、数万個の石鹸を確保してもそれらを売りさばくことはできません。ですから最低限の個数の製作をお願いしたところ、承諾していただきました」「また、石鹸の成分に関しても、現在は植物性の油を使うのがほとんどということですが、人の肌に近いといわれる牛脂を使っていただきました」

現在は石鹸も短い時間に大量生産するのが一般的だが、「磯右衛門石鹸」は大きな釜を使って何日もかけてじっくり化学反応させるという、昔ながらのやり方で作ってもらったそうだ。
「おかげで、こちらのイメージした通りの、どこか懐かしい、お母さんの香りを思わせる石鹸ができました」

 

当時のデザインをそのまま使う(画像提供:株式会社エクスポート)
 

かくして2010(平成22)年7月に完成した復刻品は「磯右ヱ門SAVON」(いそえもんサボン:1個648円)と命名され、現在は横浜ランドマークタワーや横浜マリンタワーなどで販売されている。
「ぜひ手にとって、この表面のレリーフを見ていただきたいと思います。これは単なる商品ではなく、物語がある石鹸です。磯右衛門が自信を持って世界に出したものであるという歴史的事実を感じて、使っていただければと思います」
再び甦った堤磯右衛門の石鹸。こうした雑貨一つにも昔人(せきじん)が大変な心血を注いだことを、その優美なレリーフが物語っているようである。



「磯右ヱ門SAVON」を使ってみた



実際に「磯右ヱ門SAVON」を使ってみた。
まず何より、香りがよい。田中さんは「お母さんの残り香」と表現したが、たしかに自然な芳香が感じられる。

いざ水に濡らして手を洗ってみたが、泡立ちはさほど目立たない。細かな泡が肌によりそう感じである。

 

磯右衛門の石鹸を使ってみた
 

もちろん、手には香りがほんのりと残る。
インクを指につけて洗ってみたが、充分に実用的な洗浄力があることが分かった。

 

洗浄前
 

一回石鹸で洗うとこれくらい汚れが落ちる
 

レトロな雰囲気と実用性を併せ持つ堤磯右衛門の石鹸。横浜ならではの逸品である。



取材を終えて



横浜は多くのものの生誕の地。国産石鹸もその一つである。
堤磯右衛門という名前は初めて耳にしたが、取材を進めていくと、ベンチャー精神に富んだ、時代の変わり目ならではの人物像が目に浮かんだ。
彼が現代に生まれていれば、ITの世界に飛び込んでいたかもしれない。

水に濡れ、表面をこすられて泡と消える石鹸。そこにこれだけ繊細で美しいレリーフを施した彼の美意識の高さは、特筆されてよい。彼のみならず、彼を生んだ当時の日本、横浜の芸術的ポテンシャルがそれだけ充実していたということである。
現代の商業デザイナー、アーチストも、うかうかしていられない。

 

磯右衛門の石鹸の箱に使われた絵
 

横浜の魅力は、こんな日用雑貨にも隠れている。ランドマークやマリンタワー、みなとみらいももちろんいいが、バスルームで「磯右ヱ門SAVON」を肌で味わい、“横浜”を感じるのも贅沢な時間であろう。


─終わり─


取材協力
株式会社エクスポート
http://www.xport.jp/index.html
※磯右ヱ門SAVONはサイトでも購入可

参考文献
『月刊wedge』(ウェッジ社) 2014(平成26)年9月号 P82〜P84「なりわいの先駆けたち」植松三十里

 
 

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  • 久しぶりに(ごめんなさい。いつも楽しいですが)満足のいく内容でした。こういった内容のレポート大好きです。ヨコハマっ子で鼻高々です。石鹸のデザインもいいですね。アールデコっぽい雰囲気もして私も使わないで眺めてしまいそうです。堤さんはこれからも胸を張ってご先祖様を誇ってください。追伸ながら、「ブルーダル」も久しぶりで嬉しかったですねー。レポートお疲れ様です。

  • 橫浜土産としても良さそう!

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