横浜の人間文化財! 匠の技を持つ「横浜マイスター」ってどんな人たち?
ココがキニナル!
「横浜マイスター」という制度は、さまざまな手仕事に熟達した職人の中から選定し、技能の普及や後継者育成を推進してもらうというもの。どんな人たちがいる?(はまれぽ編集部)
はまれぽ調査結果!
「横浜マイスター」は横浜の傑出した技能を持った職人に贈られる名称。高橋畳店と神取石材店を取材した。
ライター:松崎 辰彦
仕事道具が遊び道具──神取石材店
「“石屋”というと多くの人は『ああ、墓石屋さんね』といいます。しかし、私は墓石のみならず、石に関することならおよそ何でも手がけています」
そう語るのは横浜市瀬谷区で「神取石材店」(創業1946<昭和21>年)を経営する神取優弘(かみとり・まさひろ)さん。1947(昭和22)年に磯子で生まれ、今年で68歳になる。
神取優弘さん
神取さんは父親から石材店を引き継いだ2代目。前述の高橋さんとは違い、職人気質の父親にときに殴られながら厳しく仕事を仕込まれた。
「生まれたときから否も応もなく『お前は石屋になるんだ』と親父にいわれ続けました。2~3歳のときから仕事の道具をおもちゃにして遊んでいました。でも道具をまたいだりすると、それだけで殴られました」
そんな神取さんの父親は仲間内から“石屋の神様”といわれるほどの技量の持ち主で、神取さんも幼いころから父のまわりに集うトップクラスの職人たちの仕事を目の当たりにし、彼らの優れた技術に触れ続けた。
墓石なども扱っている
「私の親父は幼くして両親を亡くし、親戚をたらい回しにされ、貧乏のどん底を味わいました。学校に行くにも靴がなく、冬のことで寒くてたまらず、道に落ちていた布切れを足に巻いて通ったこともあったそうです」
そんな父親のもと、現場の空気を吸って成長した神取さんは、若くして人に信頼される石工に成長した。
自分で彫刻も行う
17歳で工事責任者に
神取さんが横浜マイスターになったのは2008(平成20)年。その卓越した技術が高く評価されてのことだった。
「17歳で横浜市立病院の第一期工事の責任者になりました。階段や玄関回りを担当し、その年齢で40~50歳の職人を束ねたんです。もう石屋としての技術はすべて身についていました。工事の最中に、大手建設会社の30代の監督と技術的なことが原因でケンカしましたよ。そのときに向こうの所長さんが出てきて自分の部下たちに『お前らが口を出すな。石屋さんはコンマの世界の技術を生きているんだ。石屋さんにまかせろ』といってくれました。私のいい分が、理論・技術とも正しいことを認めてくれたのです。今思い返しても、人を見る目のある所長さんでした」
マイスターの授与証
若くして群を抜いた技術を我が物とすることができたのも、父親に幼いころから仕込まれたからだと神取さんはいう。
「歌舞伎の世界と同じですよ。一つの技術を体で覚えるのは15、6歳までです。それ以降は理屈で仕事をするようになる。高校や大学を卒業してからですと、どうしても頭で仕事をするようになり、理屈が合わないと何もできなくなります。そういう若い子が多くなりましたが、私は『それはお前に技術がないからだよ』と注意しています」
今では厳しかった父親に感謝しているという神取さんである。
プロの石材業者を相手に技術講習会(画像提供:神取石材店)
石は地球からの贈り物
石工(いしく)の仕事、というものは素人には墓石や彫刻などしか想像できないが、神取さんは墓石や彫像はもちろん、建築で使われる石材や庭石など、石に関することならばほぼすべて手がける。
こうした道具で石を扱う
中でも得意とするのは耐震工事。鎌倉芸術館や横浜外国人墓地などで、建物の石材部分を担当した。200~300kgある石材を建物に安全に付着させるのは、きわめて高度な技術が必要と強調する。
横浜外国人墓地資料館も手がけた(画像提供:神取石材店)
「現在では『耐震接着剤』というものがメーカーから売り出されていて、それを使えば地震でも大丈夫なんていわれています。しかしこうしたものはたしかに優れた性能をもってはいるけれども、それは完全な施工を行った上での話であって、そうでなかったら何の役にも立たないんだよということをよく若い石屋にいいます」
最近の石工の技術力の低下に、神取さんは危機感を持っている。安易な方法に頼り、腕を磨こうとしない若い職人に警鐘を鳴らす。
「耐震接着剤のような、メーカーお墨付きの便利な品々を使って結局崩壊してしまった墓石や建物を、私は阪神大震災や東日本大震災でたくさん見てきました」
石を斬り、石を運び、石を刻む神取さん。エジプトのピラミッド(「すごい石工集団がいたはず」と神取さんはいう)など世界の石造建築にも造詣が深い。
鎌倉芸術館外壁も神取さんの仕事(画像提供:神取石材店)
大手の建設会社も工事に行き詰まると、神取さんに相談を持ち込む。また戦国時代の城の発掘調査でも、学者がお手上げの問題があると、神取さんにお呼びがかかる。各方面から寄せられるさまざまな難問に、神取さんは長年にわたって現場で石と対話し、格闘した経験をもとに知恵を授ける。
建長寺の大玄関でもその技術を披露(画像提供:神取石材店)
中華街関帝廟記念碑施工にも参加した(画像提供:神取石材店)
「学校で呼ばれて話をすることも多いですが、子どもたちに『石は地球からの贈り物だよ』と教えるんです。1000年前、2000年前の建物で残っているものなんて、石造りのものしかありません。つまり、もし石屋がいいかげんな仕事をすれば、1000年後、2000後もそれが残ってしまうということです」
悠久に残る石が相手の仕事はごまかしがききません、と神取さん。職人の仕事の厳しさ、そして素晴しさを教えてくれた。
大理石で作った花。アロマオイルを垂らすのだとか
取材を終えて
人間のいるところ、“手作業・手仕事”がないところはない。パソコン全盛の現代でも、私たちの生活を根底から支えているのは2本の手に頼る細密な作業であり、職人仕事である。
今回は横浜マイスターのお二方を紹介したが、いずれも年季の入った職人で、含蓄ある言葉を語ってくれた。
「職人にとって一番大切なことは、嘘をつかないことです。石の仕事ではごまかそうと思えばいくらでもごまかせます。しかし、地震のようなことがあると、しっかり基礎を築いてなかった墓石などはあからさまに壊れてしまいます」
神取さんはいう。
今はさまざまな技術の継承が問題となっているが、横浜でもそうした危機感を持ち、素晴しい職人の技術を後世に伝えていただきたい。はまれぽも、これからそうした職人の方々に注目したい。
─終わり─
取材協力
横浜市経済局
http://www.city.yokohama.lg.jp/keizai/
高橋畳店
鶴見区下末吉1-17-26
神取石材店(商号 ライフストーン)
http://www.lifestone14.com/
じょーかーさん
2015年02月14日 12時20分
畳マイスターの高橋氏を取り上げで戴きありがとうございます♪自分も高橋氏から色々な事を教わっています。最近、畳離れと言われる事もありますが、これを機会に少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです♪