開催直前、「横浜マラソン」参加者必見!? 素人が42.195km走り切れるのか徹底調査!
ココがキニナル!
横浜マラソン2015まで後8日! フルマラソンに挑戦する編集長・吉田は脂肪のついた身体でも10kmは走れたがその先が不安。暴飲暴食を避け3日に1度走り当日にそなえる。完走できるかは当日のお楽しみ
ライター:山口 愛愛
壮絶な陸上人生を送った専門家を味方に
藤沢市に移動し、湘南台にあるプレス工業株式会社の陸上競技部の若葉寮へ。同チームは、神奈川県実業団対抗駅伝競走大会で7連覇を果たし、毎年元旦に行われる実業団駅伝の最高峰、ニューイヤー駅伝にも5年連続で出場。昨年は26位の成績を残している。部員は15名の少数精鋭でありながら、駅伝やマラソンのレースに向け、仕事と両立しながら過酷な練習を積んでいる。
藤沢市内にある若葉寮
今回、指導を仰ぐのはヘッドコーチの上岡宏次(うえおか・こうじ)さん。上岡さんは「命がけ」で陸上競技に向き合ってきた選手。まずは上岡さんのプロフィールを紹介しよう。
選手時代はマラソンでロンドン五輪を目指していた上岡さん
高校は駅伝名門校の兵庫県の西脇工業。全国高校駅伝大会ではアンカーを務めるつもりが故障で大会に出場できなかったが、チームは全国優勝。東海大学に進学し、箱根駅伝の7区を走る予定も、前日にメンバー変更されてしまい悔しさを味わった。学生時代まで故障に悩まされたが、自分の可能性を信じ、卒業後はアルバイトをしながら、独自で練習を続けたそうだ。
「学生時代は怪我をしていても追い込んでしまった」
25歳のときに、日産自動車株式会社の陸上部の合宿に自費で飛び入り参加し「就職試験のつもりで自分の走りを見てもらった」。このかいがあり、日産自動車の陸上競技部に入部できたが、2009(平成21)年に陸上競技部が休部となり、エスビー食品へ移籍。
フルマラソンを2時間15分3秒で走り、ロンドン五輪も見えてきたころ、脳炎を発症し、2週間意識不明となり生死をさ迷ったという。これを機に競技選手としては引退するも、奇跡的な回復を遂げ、東京マラソンに出場するなど、走り続けてきた。現在は指導者としてプレス工業のヘッドコーチを務める。
過酷な競技人生を聞き、身が引き締まる思い
日産自動車にいたころは「みなとみらいをよく走ったんですよ。景色を楽しめるコースですね」と、苦難の欠片も見せずに屈託のない笑顔で話す。「故障者の気持ちも分かるし、自分次第で道は開けることも分かった」という上岡さん。
スタート地点は日産グローバル本社のすぐ近く
血の滲むような努力で数々の苦難を乗越えてきた上岡さんに対し「太りすぎて心配なんですよね。しばらく走っていないんですけど、あと3週間でどうにかフルマラソン完走できませんかね?」と質問をぶつける吉田。
本当に心配しているのか?
「体力があっても体重を支えるのが厳しいかも。膝が痛くなったり、足の筋力がもたなくなったりするのは間違いないですね」と上岡さん。
「3年前はハーフマラソンを1時間50分で走ったんですけど」と吉田は返すが「半年前だとしてもその経験はゼロとみなしても良いですね。3ヶ月、1ヶ月走らないと体力は元に戻ってしまいます。実業団レベルでは3日間走らないと身体がふわっとしてしまい、自転車の軽いギアのような感覚で足を動かしても進まなくなってしまうんですよ」と現実をつきつけられる。
3日で戻ってしまうことを考え「残り3週間でも、30分程度でも良いので3日に1回は走ることがポイント」。プレス工業の選手は1日に50km~70kmくらいを毎日走っている。マラソンレースの4ヶ月前ころから追い込み、最後の1ヶ月はペースを落とすという。我々は、通常なら調整期間に入っているころに慌てているのだ。
「うーん、練習しないでフルマラソンは無謀ですよねぇ」と上岡さんは苦笑い。
吉田はラクして走れる方法を聞き出そうとする
「今からやるなら、1回はハーフを走っておくと良いと思います。直前では疲労がたまるので、レースの10日前が良いでしょう。実業団選手も最後の刺激として10日前に20kmくらいをレースと同じ感覚で走ります。このくらいなら疲労も回復するので、思い切りいけると思いますよ」とのアドバイス。「ただ、当日、ハーフの後に地獄を見ますけどね」と付け加える。
「無謀ですよぉ、後半走れなくなりますよぉ」
「自分はハーフのレースに出ていたので、初マラソンのときも、ハーフの2倍の距離ならいけると自信があったんですよ。でも後半はハーフの3倍、4倍くらいの感覚。30kmからは体に錘(おもり)をつけたかのようになり、自分の足ではないみたい。1kmがとても長く、何度も辞めたくなりましたね」と経験を語る。
「ええ! 上岡さんでもそんなになってしまうんですか・・・」と急に逃げ腰になってしまったが「そのためにも前半の走り方がポイント」と丁寧にアドバイスをしてくれた。
上岡さんが上げてくれたポイント5ヶ条
・市民マラソンの選手は雰囲気に興奮し、出だしで飛ばしすぎるので注意! 調子が良いと勘違いしないこと。前半にタイムを稼ぐより、後半の落ち込みを抑えることが肝。ペースを守って、ラクに感じたら後半にスピードを上げれば良い。
・ウオーミングアップは、通常はしっかり行うが、市民ランナーレベルのフルマラソンなら必要最低限で、体が温まる程度でOK。前半の5~10kmくらいがウオーミングアップと思えばヨシ。
15km地点でギブアップしてしまった前回
・上り坂(後半の首都高速道路、杉田入口)は気合いで! しかし、無理にもがかないこと、力が入りすぎてしまうのでリラックスして。
・給水はスタートの方から少しずつ。摂り過ぎるとお腹が張ってしまう。スポーツドリンクは浸透圧が高すぎてお腹にたまりやすいので、水と半々にするなどして薄めよう。給食のお菓子などは、後半のエネルギー源になるが、血糖値が上がり過ぎないように、コマメに摂る。
・レースの3日前からは揚物、お酒を控えて内蔵疲労を少なくする。当日の朝もおかゆやうどんなど消化の良いものを。カステラやゼリーなどでもOK。競技選手は3時間以上前に食べるが、5時間以上走ることが予想されるので、レースの1時間前に軽く食べてエネルギー源に。
あくまで軽く
我々と同じように不安を抱える参加者にも役立つであろう、ワンポイントアドバイスだ。
「なるほど。なんか完走できる気がしてきた」と調子に乗る吉田。
吉田が「レース前までは糖質多めのカーボローディングすると良いですか?」と聞いてみると、「うーん、吉田さんはすでにエネルギー蓄えている感じですからね・・・」と上岡さんは笑う。
「選手レベルだと3日間くらい完全に糖質を抜いて枯渇させてから、糖質多めにして蓄えるやり方もしますが、体調に合わない人もいるので、食べる量は変えずに、おかずを減らしてごはんを増やす程度で良いと思いますよ」と上岡さん。
すでにエネルギーは蓄えられていたようだ
三幸苑で糖質が多いメニューだけを二人前食べてしまったが、そのような食べ方は間違っていたのだった。「エネルギーを蓄え過ぎていると思うので、膝の負担も考え、食べ過ぎない方が良いかもしれませんね」とアドバイスをもらい、お腹をさすりながら頷く吉田であった。
レース前や当日の展開での注意点など貴重なアドバイスをいただいたのでフォームも見ていただくことに。着替えて近くの公園で指導していただいた。
まずは二人のフォームをチェックしてもらう。
走りのクセをチェック
上岡さんがじっと見つめる
走り終わると「足の出し方などいろいろありますが、今から確実に直せるとしたら腕振りかな」といい、改善点を教えてくれた。
腕が外に開くと上半身がぶれ、バランスを崩し負担にもなる。前に進むリズムも取りにくくなるので「肩を起点にして体に沿ってまっすぐに振るように意識してみましょう」と上岡さん。
少しだけ脇を締め腕振りの練習
肘が横に開かないように意識する
前に振るときは少し肘をたたんでコンパクトに
丁寧な助言が続く
「当日は整列してからスタートまでの間が長いので、その間に立ちながらできるストレッチをして準備しておくと良いですね」との助言も。「仲間がいる場合は肩を借りて、腿の前側のストレッチなども有効」とのこと。
腿の裏側をストレッチ
ふくらはぎは
2種類のやり方で伸ばしておく
スタートまで仲間の肩を借りてストレッチも
ここまで終えると「これだけ練習しないでレースに出るとどうなるのか見てみたいなぁ。完走できちゃったら、報告してくださいね」と笑う上岡さん。
「上岡さんに教えていただいたことを胸にがんばってきます! ありがとうございました」とお礼を言い、残り3週間であってもしっかり練習しようと誓ったのであった。
取材を終えて
数々の苦難を乗越えてきた上岡さんは器が大きいのだろうか、大した練習もせず、レース寸前に駆け込んだ我々にも丁寧に助言をくれ、頭が下がる。上岡さんのためにも怪我をしない程度にがんばりたいと思う。
筆者はアドバイス通り、レース10日前に初めて20kmを通しで走った。15kmで足がかたまってしまい失速し、フルマラソンの過酷さが見えてきたが、あと数回走り、コンディションを整えたい。初の横浜フルマラソン。ボランティアスタッフや応援の方もふくめ、参加者のみなさんとともに気持ちよく走りたい。当日、吉田を見かけたら、ゲキを飛ばしてほしい。
―終わり―