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「さば神社」がやたら横浜にあるのはなぜなのか? 知られざる理由を徹底調査! 後編

ココがキニナル!

いずみ中央周辺にはサバ神社が多数あります。左馬神社や佐婆神社、鯖神社だったり、何か由来があると思うのですが調べてもらえませんか。(mocoさんのキニナル)

はまれぽ調査結果!

源義朝(みなもとのよしとも)・源満仲(みなもとのみつなか)の官職だった左馬頭(さまのかみ)から名付けられた神社だが、詳しいことは分からない。

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ライター:細野 誠治

個性的な社が続く、藤沢の4箇所の「さば神社」

(つづき)

藤沢市(3)佐波神社(佐波大明神)
 


藤沢市石川141


次の「さば神社」は唯一、境川支流・引地川沿いに建立されており、地図上でも密集しているエリアからは離れて孤立している。
 


引地川沿い唯一の「さば神社」
 

小田急江ノ島線「六会日大前」駅から西へ2kmほどの場所


引地川にぶつかったら秋本橋を越えて正面の坂を登る。すると右手に目指す佐波神社がある。
 


丘の上に建つ佐波神社(佐波大明神)
 

鳥居を潜ると長い参道。木々が生い茂り、石塔・道祖神が並ぶ
 

荘厳な本殿が現れた
 

巡ってきたなかでも有数の広さと、手入れの行き届いた神社


だが一方で、情報が少ない神社でもある。今回、出向いてみて少しだが見えてきたものがあった。
 


鳥居脇の由来書きに勧請年があった


勧請は1611(慶長16)年。今から404年前。安土桃山時代・戦国時代の終焉、徳川家が江戸幕府を開いた8年後のこと。

この石川の地で勢力のあった「石川六人衆」と呼ばれる者たちによって勧請されたという(六人衆の名は入内島、西山、田代、伊澤、佐川、市川)。
6人の詳細は不明だが、動乱の時代に源氏の武者を祀ったのだと知れた。
 


土地の有力者6名による勧請


判明したことが、もうひとつ。ここ、佐波神社の「さば」の字に使われている漢字の「波」について。
由来書きによると最初の神社名は「左馬頭神社(さまのかみ=じんじゃ)」。その後「鯖神社」に。
 


1808(文化3)年鋳造の梵鐘には「鯖神社」と書かれていた


鐘の鋳造から54年後。文久2(1862)年に建てられた奉納碑に書かれた名前は「佐波神社」とある。
字に「波」が使われた理由は、洪水によって被害がもたらされたことによる。
恐らくは鎮魂を願って「波」の字が当てられたのだろう。
 


源氏の荒武者は、やがて鎮守へ。そして水を鎮める神になった


藤沢市(4)左馬大明神(左馬神社)
 


藤沢市西俣野837


ここまで巡ってきた「さば神社」も、ついに最後。
西俣野にある社は神社庁に登録(宗教法人化)されていない、完全な個人宅にあるもの。
場所はこちらも小田急江ノ島線「六会日大前」駅が最寄り。駅から境川方面へ。
 


神奈中バス停「西俣野」からすぐ。案内板もある
 

ビニールハウスの並ぶ農地のなかに建つ
 

6畳ほどの社
 

内部の様子


参拝を済ませて写真を撮影していると、発見。
 


修繕を記録した板に「佐間大明神」と墨書されている


さば神社の字は今まで左馬、鯖、佐婆、佐波など。集めた資料に「佐間」という字面はなかった。これは、どういうことだろう?
聞き込みをすると、この社を所有している方にお話が聞けた。
 


Iさん。お名前、お年など明かさない条件でお話を聞けた


氏神は源義朝。勧請年は不明。宗教法人化しない理由は「近所の面々で細々と祀っているから」だそう(氏子衆は現在、6名のみ)。
「近くの家のみんなで、やってるだけだから。それも段々と人数が少なくなってね。今の若い人は興味ないから」と、Iさん。(社はIさんの土地に建立されている)

若者はともかく、こちらの左馬大明神はさまざまな研究者が訪れており、大変に注目されている。(前に訪れた研究者の著作をいただいてしまった)
 


『新編相模風土記稿』に「左馬頭義朝の祠なり」と記述があるそうだ


勧請年は不明。明治の初めころ、近隣からこの場に移設されたという。
歴史を知る手がかりとしては記述のあった『新編相模風土記稿』。編纂されたのは1841(天保12)年、少なくとも174年前からは存在していたことになる。
 


西俣野バス停近くの資材置き場に、かつての社はあった


移設の理由は不明。「祖母に訳を聞いとけば良かったな・・・」と、Iさん。
  代々、Iさんの家系が社を守っているんですか?
「そうだね。ウチの曾祖父さんの、そのまた曾祖父さんて・・・」
  じゃあ、Iさんのご先祖さまが勧請したかも知れませんね。
「・・・そうかもね(笑)」

最後に、社の天井で見つけた修繕記録にあった「佐間」という表記について疑問をぶつけてみた。
 


「左馬」大明神
 

天井には「佐間」の文字


  佐間大明神という記述を見たのですが?
「何ででしょうかね? 左馬なのに“佐間”って。“左間”とも書くんですよ。それに、この辺りじゃ“日向(ひなた)大明神”って呼ぶんだよ」
  どうしてですか?
「この辺りは昔、日向って呼ばれてたんでね」
 


左馬大明神、日向大明神、佐間、左間・・・


土地の名を取ったということか。(泉区の飯田神社、藤沢市の七ツ木神社と同じだ)
それにしても、字がころころと変わってしまうのを見ると、単に「当て字」をして伝承したのではと思ってしまう(伝承では、ままあることだ)。

仕事に戻るというIさんを見送って、筆者はひとり、小さな社に残った。
そして12社すべての「さば巡り」が終わった。
 


中の宮左馬神社(左)が800~900年前、瀬谷の左馬神社が800年以上前
 

下飯田鯖神社(左)が500年以上前、飯田神社が800年以上前


上記の4社が特に勧請が古いとされている。このなかの、どれかが始まりではないか(現存しているとして)。
建立したのは、源義朝に近しい人物だ。
恐れ敬い、祀った。受け継がれ続けて、やがて分祀され広がっていった。広がりは種のように同じ共同体、集落に蒔かれていった。

形成は、このように考えて間違いないだろう。
 


そしてこの推察、形成以外は、すべて謎だ




取材を終えて



南北10km、東西3kmの範囲に同じ名を冠し、同じ主神を祀った神社が12社もある。このようなものは、ほかに例を見ないという。

鎌倉時代中期から建立が始まった“さば神社”を一体誰が作ったのか? なぜ同じ名を冠していったのか? 今となっては知ることも叶わない。
 


今回のキニナルの答えは「分からない」という答え(すみません)


ただ、興味を持った事柄を調べて、文章を書くという仕事をしている身としては「分からない」という答えすら愛おしい。
「分からない」ことは、少なくとも推測して考えた数以上の可能性があるということだ。こんなにワクワクすることって、ない。
 


今回、網羅した説や考えに、答えは含まれていたろうか?


そして、もうひとつ。西俣野の、小さな社の前に立って考えること。
時代という側面もある。身内や領地の人間を殺していたとされる源義朝が、なぜ神になったのか? 
鎮魂や罪滅ぼし、力を欲するものたちによる勧請と見てきたが、個人的に思ったことは、荒くれ者にも、戦はもちろんのこと、死の直前まで付き従った人間が大勢いたのだということ。
源義朝公は、決してただの暴れ者ではなかったはずだ。

力を持つもの(魅力も力のひとつだ)を、死しても見上げ、祀ったのだ。
 


類まれな者を崇めた、マレビト信仰


分からないことだらけのなかで、さば神社そのものは連綿とあり続けている不思議。

前編・後編と読んでくださった読者の皆さまは、どんな感想を持ったでしょうか?
 


歴史は人の血で、土地の記憶


記事の通りの気ままな「さば巡り」をされても良し。願わくは楽しんで、読んでいただけたら幸いです。

細野誠治でした。それでは。


―終わり―
 


今回歩いたさば神社


神奈川県 大和市
 7)左馬神社(上和田左馬神社) 〒242-0014 大和市上和田1168
 8)左馬神社(下和田左馬神社) 〒242-0015 大和市下和田1110
藤沢市
 9)七ツ木神社 〒252-0802 藤沢市高倉1128
10)鯖神社(今田鯖神社) 〒252-0804 藤沢市湘南台7-201
11)佐波神社(佐波大明神) 〒252-0815 藤沢市石川141
12)左馬大明神(左馬神社) 〒252-0812 藤沢市西俣野837
 

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  • 源義朝、益々興味沸きました。数年前の大河ドラマ平清盛では玉木宏が演じてました。自宅の周辺でこれ程多くの神社でまつられているとは知りませんでした。800年前の出来事、色々空想できて楽しかったです。細野さん、ありがとうございました。

  • まれびと信仰とは、外界から来た者が知識であったり新しい物であったりを持ち込むので、神として崇められることであって、類まれな人を崇めるからマレビト信仰じゃないですよ。

  • サバ神社と杉山神社。太古の昔は川の流域(水を得る)近くに暮らしを持たざるを得ず人的交流も無かったが為か、相模国(相模湾流入域)と武蔵国(東京湾流入域)とで国を分けたんだろうなと思えてくる。(今田左馬神社で、私もパンフと「サバ神社の謎」の本を買わせて頂いたな)

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