横浜市神奈川区の青木橋近くにある本覚寺。その巨大な石積みの震災復興史を紐解く
ココがキニナル!
青木橋近くの本覺寺を支える道路擁壁は昭和3年に復興局によって築かれたものだとか。ただの土留めの石積みではなく、関東大震災復興の土木遺産と言うべきもの。復興の歴史を取材してみませんか?(ねこぼくさん)
はまれぽ調査結果!
全潰レベルの震災被害から復興を遂げた古寺・本覺寺。その一環として修復された道路擁壁は、足下の鉄道擁壁との形状の調和も配慮された。また、横浜にはほかにも貴重な復興局施工の道路擁壁が残る。
ライター:結城靖博
もう一つの復興局による道路擁壁
同書には本覺寺前のものとは別に、もう一つ復興局が設計した道路擁壁が紹介されていた。
それは西区宮崎町にある「野毛の切通し」だ。建設は本覺寺と同じ年。
場所は野毛坂交差点のすぐ近く
右へ上がる脇道の先には伊勢山皇大神宮がある
近づいて見てみると、ここは谷積ではない
同書によれば、この石積みは「間知石風(けんちいしふう)割石練積」様式なのだそうだ。ちなみに「間知石」とは、四角い表面を持った石材のことで、短辺が30cm前後。6個並べると約180cm(1間)になるので、そう名付けられたという。
ところでこの野毛の切通しも本覺寺同様、開港期の歴史とつながりが深い。そもそも、この切通しは、東海道と開港場をつなぐ要路としてつくられたからだ。時は1873(明治6)年、英国人技師デービスの指揮のもと切り下げ工事が行われ、震災復興時に市電長者町線の整備にともないさらに深く切り下げられたそうだ。
ついでながら、野毛の切り通し復興道路擁壁のすぐそばにある、もう一つの歴史的土木遺産も紹介しておこう。
これは「野毛山住宅亀甲積(きっこうづみ)擁壁」
野毛坂交差点からさらに野毛山公園方面へ上る坂の途中に続く石垣。道の向かいには横浜市中央図書館がある。
ここは明治の豪商・平沼専蔵(ひらぬま・せんぞう)の屋敷跡だ。坂の上方の石垣に建つ煉瓦壁とともに、横浜市認定歴史的建造物に指定されている。
古色蒼然たる煉瓦壁も味わい深い
擁壁の石はよく見ると六角形だ
亀の甲羅に似ているので「亀甲積」と名付けられたそうだ。
前出の『都市の記憶―横浜の土木遺産』によれば、「亀甲石積の施行精度は横浜随一」だという。
これは、復興局による震災復興擁壁ではない。けれども、大震災の揺れを見事に耐え抜いた明治期の優れた土木遺産であることを思うと、また見え方も違ってくるだろう。
取材を終えて
本覺寺の道路擁壁を復興するにあたって、目の前の鉄道擁壁との景観的調和を配慮したという話から、かつて筆者が扱った「横浜の入江橋と境橋に残る『復興局』銘板の歴史」を思い出した。
その取材でも、橋の復興の際には、強靭性・機能性だけでなく、当時流行したアール・デコ調のデザインを親柱(おやばしら)に施すなど、審美的にも細やかな心くばりがされていたことを知った。
未曽有の大規模災害に打ちひしがれた当時の人々が、復興を単なる過去の再生とみなすのではなく、よりよい社会を築く契機としようとする強い意志。橋からも擁壁からも、そのことが読み取れるような気がする。
―終わり―
取材協力
横浜市中央図書館
住所/横浜市西区老松町1
電話/045-262-0050
開館時間/火~金9:30~20:30、その他9:30~17:00
横浜市史資料室
住所/横浜市西区老松町1 横浜市中央図書館地下1階
電話/045-251-3260
開室時間/9:30~17:00(閲覧申請受付時間/9:30~16:30)
休室日/日曜日及び横浜市中央図書館の休館日
横浜都市発展記念館
住所/横浜市中区日本大通12
電話/045-663-2424
開館時間/9:30~17:00(券売は16:30まで)
休館日/毎週月曜日、年末年始ほか
観覧料/一般200円(団体150円)、小・中学100円(団体80円)
参考資料
『横濱復興録』小池徳久著、横濱復興録編纂所発行(1925年12月刊)
『横濱復興誌 第四編』横浜市役所発行(1932年3月刊)
『都市の記憶―横浜の土木遺産』横浜市都市計画局都市デザイン室編、横浜市+「明治の土木展」横浜市実行委員会発行(1988年10月刊)
『ガーデン・テクニカル・シリーズ2 石積作法』龍居庭園研究所企画・制作、建築資料研究社発行(2003年6月刊)
Yang Jinさん
2020年02月12日 16時38分
またまた沢山の取材たいへんご苦労さまですねー