伊勢佐木町が大プッシュ! 「ヨコハマメリー」から11年、『禅と骨』公開中!
ココがキニナル!
「ヨコハマメリー」の中村高寛監督が11年ぶりに新作映画「禅と骨」を公開! 横浜愛あふれる監督に徹底取材!(はまれぽ編集部)
はまれぽ調査結果!
横浜の近現代史を多彩に表現! ウエンツ瑛士をはじめ永瀬正敏ら豪華役者に愛されるまっすぐキャラの監督でした!
ライター:大和田 敏子
タイトル『禅と骨』に込めた想いとは?
映画鑑賞後、後日、中村監督にインタビューさせていただいた。
インタビューは、映画のトップシーンの場所からスタート。まずは、ヘンリ・ミトワ氏のドキュメンタリーを撮るに至ったきっかけを伺った。
山下公園内にある「赤い靴を履いてた女の子」像前で
「ミトワさんが、童謡『赤い靴』の映画化の準備をしていると林海象(はやし・かいぞう)プロデューサーから聞きました。その映画の実現は難しいが、彼の人生の方が面白いからドキュメンタリーを撮ったらどうかという話になったんです」とミトワさんとの出会いのきっかけを話してくれた。
氷川丸も、映画の中で重要なシーンに登場する
完成まで8年をかけた映画は『禅と骨』。撮影時間は実に400時間。撮影は編集作業と同時に実施していたが、撮り終ってからの編集にさらに2年間かかっているという。
「ドキュメンタリー監督はマゾヒスティックでないとできない仕事。どれだけ自分を追い込んでいけるかというところですね」と語る。
気分転換は映画鑑賞。ハリウッド映画が大好きだとか
「『ヨコハマメリー』で僕はドキュメンタリー監督のイメージになりましたが、自分ではドキュメンタリー監督ではなく映画監督だと思っています。けれども、ドラマのように設定をきっちり決め、スケジュールを組んでどんどん撮っていくものより、考えながら撮っていけるドキュメンタリーの方が指向性や僕のペースに合っているのかも知れませんね」と話す。
根っからの映画好き、マゾヒスティックな編集作業もいとわない中村監督の事務所にお邪魔して、さらに『禅と骨』について深く伺うことにした。
中華街にある事務所へ向かう
書籍や撮影機材が所狭しと置かれた事務所でインタビュー
―『禅と骨』というタイトルに込めた想いを教えてください。
禅僧ヘンリ・ミトワがキーワードだと思ったので、禅についてはかなり勉強しました。禅には不立文字(ふりゅうもんじ)という言葉があって、禅の教え自体は文字にできないという考え方があります。
「禅僧ヘンリ・ミトワゆえに禅が大きなテーマ」。写真は映画の1シーン
文字にできないものをどのように映像化できるかと考える中で、天龍寺のある住職の方が「坐禅をすることが禅というわけではない。
それぞれの世界、それぞれの道でそれを極めていけば禅の道に通じていく」と話してくれた。
その話を聞いて、僕なりの禅をやろう、自分の映像表現を極めようと考えて作ったのがこの映画です。
ドラマやアニメ、ドキュメンタリーの中でもさまざまな手法を使いました
―「骨」というのは、どういったところから?
この映画ではミトワさんの全人生を描いています。生まれて亡くなって最後には骨になって土に還り、地球に還っていく。骨しか残らないし、それさえもなくなっていく。
でも、映画はそれでは終わらせたくないと思っていて、骨の先に何があるのだろう、骨になっても大事なものとか何かが残るんじゃないかと。それが後半部分の1つのテーマとしてありました。
何が残ったのかというのは、映画を観ながらみんなに考えてもらいたいと思っています。
ミトワさんの全人生を描いた映画。その先にあるものが1つのテーマだ
ドキュメンタリーの一部としてのドラマパート
―ドラマパートがあるのは新鮮でした。
シーンにとって最上の表現は何だろうかと考え、さまざまな手法をとってきました。ドラマパートも、僕からすればドキュメンタリーの一部で、役者さんに演じてもらいながら、当時のミトワさんの心境を考えていくという方法です。
―キャスティングや撮影の上で、どのようなことを考えていかれたのでしょうか。
ウエンツ瑛士さんがミトワさんにそっくりだというだけではなくて、背景を調べると、ドイツ系アメリカ人のお父さんと日本人のお母さんというところも一緒だったんです。これはおもしろいなと思った。
同じ背景を持っている人が演じることで、時代を超えて共通した部分があるだろうし、その感情を探れるんじゃないかと思いました。
映画の1シーン。舞台は綱島温泉だ
ウエンツさんに、ミトワさんの自伝『祖国と母国のはざまで』を読んでもらって、僕が作った台本を投げたときに、彼が何を感じるのか、どんな表情で演じるのだろうと興味があった。
正直言うと、ほぼ任せています。それが、その当時のミトワさんの感情を探っていくことになるのではないかと・・・。
ミトワさんのお母さんへの想いは、重要なポイントになっている
それは余貴美子さんについても同じです。ミトワさんのお母さんの写真を見ると、そこまで似てはいないけれど、僕の中で、ミトワさんのお母さんはこの人だと思うところがあった。
余さんは横浜の女優さんで、横浜という独特の場所のメンタリティをわかっている。そういう人でないと、ミトワさんのお母さんは演じられないと思っていました。
俳優さんに役を演じてもらうというよりも、彼らが何を考えるのかカメラを通して探っていく。そういう意味で僕にとってはドキュメンタリーの手法と同じ。自分が託せる俳優さんをキャスティングできた時点でOKでしたね。
―すごい豪華キャストですね。
佐野史郎さん、永瀬正敏さんも含めて、直に代表者番号に電話しました。お金もないですから、ある意味、感情に訴える感じでお願いして、素晴らしいキャストに恵まれました。
横浜生まれの禅僧ミトワさんへの強い興味
―ミトワさんが横浜で生まれ育った方だったというところは大きかったのでしょうか。
それが一番大きかったですね。大正生まれで横浜生まれ、日系人の禅のお坊さんといったら、僕の知らない世界を見ている。当時の伊勢佐木町はどんなふうだったのかとか知りたいじゃないですか。
そういう人達がどんどんいなくなっているので、生の声を聞いてみたいというのが、最初の想いとしてありました。
マリンタワーが見える横浜を代表する地も、ラストで印象的に使われている
―ミトワさんを通して描こうとしたのは、どんなことですか。
『ヨコハマメリー』では、進駐軍の娼婦、ハマのメリーさんを通して、横浜、日本の戦後史を描きたいと思いました。その中で、メリーさんがずっと見続けた先にあるアメリカを描かないと、日本の戦後史は見つめられないんじゃないかと思ってきた。
ミトワさんに会って3年ほど付き合っていくなかで、アメリカ人であるミトワさんのお父さんが生きた明治時代からずっとやっていくと、ひとりの人間を通して日本、横浜の近現代史が描けるんじゃないかと考えました。
晩年、『赤い靴』映画化に奔走するミトワさんの姿
ひとりの人間の中から浮かび上がってくる近現代史の中には、いろんなテーマが隠されているんです。だから映画を観ると、人それぞれ、同じ人でもその時の感情によって、ひっかかるところが変わってくる。
この映画はそういう映画でいいし、正解はないと思っています。
ひとりの人間を多面的に描くこともテーマでした
ドキュメンタリーでひとりの人間を描こうとするとき、一般的には、ある一側面をとらえていかないと人物像を描くことは難しい。
けれども、人間はもっと多面的なんじゃないか、いろんな面があって、だからこそ人間って豊かで面白いんじゃないかと、そういう青臭いことを30後半の僕は考えていた。人間を多面的に描くことも、この映画のテーマとしてありました。
―なるほど、奥が深いですね。ところで、本作の音楽には、横浜のアーティストの方が多く参加されていますね。
横山剣さんは『ヨコハマメリー』でもコメントを寄せてくれていて、横浜で音楽といったらケンさんと思っていましたし、自分が大好きだったこともあって第2作ではお願いしたいなとずっと思っていました。
テーマを煮詰め、「骨」をイメージさせる曲を探す中で『骨まで愛して』を見つけたとき、これはぜひケンさんにと思ってお願いしました。出来あがった歌は、ホントに素晴らしくて感動しました。
エンディングではケンさんが歌う『骨まで愛して』が流れる
オープニングテーマは、親しくさせていただいている中村裕介さんとエディ播さんに、お願いしました。
―伊勢佐木町には、映画のポスターがたくさん掲げられていました。
『ヨコハマメリー』を撮り、横浜在住で横浜にこだわる映画監督をバックアップしようと、伊勢佐木町1、2丁目商店街の方がたくさんのポスターを貼ってくれました。主催や共催でもないにもかかわらず、ここまですることは初めてだそうで、プレッシャーもありつつ、うれしいです。
伊勢佐木町の街なかには『禅と骨』があふれていた
ドキュメンタリー撮影は恋愛に似ている!?
―撮影の中で、一番大変だったことは何ですか?
その都度、大変ではあるんですが、苦しくてやめたいと思ったことはないです。
ドキュメンタリーを撮るのは、恋愛にすごく似ているんです。撮る前はお互い気になっていて、お互いにここだというタイミングでないと付き合えない。でも、結婚まで行ってはいけなくて、結婚前の、お互いもっと一緒にいたい、もっと知りたいという感じがいいんです。
ケンカもするんだけれど、どうやって仲直りしようかとか、それを含めて恋愛って楽しかったりする。その時はすごく苦しくても、それを含めて全部いい思い出になったりする。そういう感覚なんです。
「僕とミトワさんが恋愛関係になって作ってきたみたいな感覚です」
―次回作の予定はありますか?
まだ考えていません。今はひとつの恋愛が終わったばかりなので、次の恋愛にはまだ行けない。
槇原敬之の「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」みたいな感じですね。
取材を終えて
中村監督の映画への熱い想い、横浜愛に触れることができ、楽しい取材だった。『禅と骨』は、多くの方が語るように奥の深い映画だと感じた。横浜の方にとっては、特に興味深く観られる映画ではないだろうか。ぜひ多くの方に観ていただければと思う。引き続き横浜ニューテアトルで上映中だ。
―終わり―
〈書籍情報〉
『ヨコハマメリー』中村高寛著(河出書房新社)
今宵月男さん
2017年09月23日 01時57分
すごく観てみたくなりました。まだやってるかな?余貴美子さん好きです。
中山さん
2017年09月22日 10時51分
ニューテアトルの良い所は 大きい映画館ではやらない映画を上映したり、ドキュメンタリーフィルム、過去の映画も上映したりしますね?
I☆YOKOHAMAさん
2017年09月19日 09時57分
横浜ニューテアトルにて9月16日17:10の回を鑑賞しました。上映終了後に舞台挨拶もあり、いい時間を過ごすことができました。戦後、多くの文化を受け入れてきた街、横浜でこれほどまでにグローバルな人物、ヘンリ・ミトワさんが生まれ育ち、その人生にスポットを当てた「禅と骨」というグローバルな映画はまさに「YOKOHAMA」だと思います。横浜の文化をかじることが好きな小生ですがミトワさんの存在は初めて知りました。舞台挨拶でもおしゃっていましたが、もう一度見ると違う感情が沸き起こるんだろうなと思わせる・・・「I☆YOKOHAMA」の人にはたまらない映画だと思います。もちろん私もその一人です。