電車の中でテレワーク!?シェアオフィスになった電車とバスの博物館B棟を見学してきた!
ココがキニナル!
宮崎台駅徒歩2分の電車とバスの博物館B棟をシェアオフィスとして暫定活用するとの情報が東急より届いた!内覧会に参加し、オフィスとなった博物館を取材したい!(ライター・若林のキニナル)
はまれぽ調査結果!
8月1日より電車とバスの博物館B棟をシェアオフィス化し、約1年間の暫定活用期間を設けてオープン。旧型電車や飛行機の座席でデスクワークができ、休憩コーナーには運転シミュレーターも!
ライター:若林健矢
最近、JRの駅で電話ボックスみたいな小さな個室を目にしたことはないだろうか?あの個室ブースは「STATION BOOTH」といって、一人用のワークスペースになっているのだ。東京駅や横浜駅など、一部の主要駅には「STATION DESK」というシェアオフィスも用意されている。
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、可能な企業ではテレワーク・リモートワークの導入が行われたことと思う。本来会社で行う仕事の一部を自宅で進めたり、PCを持ち歩いてカフェやコワーキングスペースで仕事をしたりする人は、コロナ禍の中増えたのではないだろうか。JRの駅にワークスペースができたことで、「どこでも仕事ができる」ということを実感しやすくなった気もする。
そんな7月のある日、「休止中の博物館B棟をシェアオフィスにします」という驚きのニュースが東急電鉄より飛び込んできた!田園都市線の宮崎台駅にある「電車とバスの博物館」にて、休館中のB棟を、8月1日より約1年間の期間を設けた上でシェアオフィスとして暫定活用することになった。そしてそのオープン前の内覧会が7月29日に行われた。
博物館1棟をまるごとシェアオフィスにしてしまうという大胆な発想に衝撃を受けた筆者・若林としてはぜひとも、どう活用するのか取材してみたい。今回はユーザー投稿のキニナルの調査ではないが、報道関係者の一人としてシェアオフィスとなった博物館に潜入してきた!
休館中のB棟、シェアオフィスに転身
東急電鉄の博物館、電車とバスの博物館はA棟とB棟に分かれている。A棟では、ヒストリーシアター、ミニライブラリー、鉄道模型コーナーなどがある。
さらには過去に走っていたデハ3450形や「たまでん」デハ200形など保存車両の見学や、本物の運転台を利用した運転シミュレーターで東急線の運転体験もできる。A棟は宮崎台駅に直結しているので、電車を降りて改札を出て何の迷いもなく遊びに行けるわけだ。
電車とバスの博物館A棟は宮崎台駅直結!
一方のB棟は、宮崎台駅から坂を下った「宮崎台駅入口」交差点に位置する。もともとは「キッズワールド」として、お食事休憩やこども向けの施設として開放していた。
B棟は子ども向け施設として供用していた
2020系の顔出しパネルと木の看板がお出迎え
ここからは、この事業を担当している、東急電鉄株式会社鉄道事業本部・運輸計画部運輸計画課の澤口俊彦(さわぐち・としひこ)主事より、詳しい経緯を聞いていこう。
「DENBUSワークスペース」の解説を行った、東急電鉄の澤口主事(マスクを外してもらったのは撮影時のみ)
先述のとおり東急の懐かしい電車や、鉄道模型、運転シミュレーター、キッズワールドなど大人から子どもまで誰でも楽しめる博物館なのだが、新型コロナウイルスの影響により、A棟も含め、施設自体が2020年2月末より休館を余儀なくされていた。
同年6月に感染拡大対策を行ってA棟のみ営業再開するも、B棟は依然として長期休業の状況が続く。B棟はもともと、不特定多数の子どもたちがおもちゃで遊ぶことや、イベント向けのスペースとして活用することがメインの施設。コロナ感染防止の観点で見れば、今までと同じ形でB棟を運営することは困難となり、遊休資産と化してしまっていた。
合わせて、世の中はコロナ禍の影響で生活様式が変わり、可能な企業ではテレワーク・リモートワークを導入したことで、在宅勤務の人が増えてきた。すると自宅周辺の環境やニーズにも変化が生じるように。一例として冒頭で述べたJRの主要駅構内のワークスペースに関しては、すでに多くの人が目撃していることだろう。
遊休資産化してしまった子ども向けの施設と、最近の生活様式・勤務形態の多様化を受け、東急としては「大人がワクワクするアミューズメントシェアオフィス」をコンセプトに掲げ、電車とバスの博物館B棟をワークスペースとして活用することになったようだ。
高校生以上が利用可能で、料金は1時間200円、最大1,000円(5時間分)まで。かなりお安く利用できるが、博物館という、すでにあるものを有効活用するからこそ実現したこと。後述の「Suup」というアプリを通しての利用となり、アプリ初回登録時にはクレジットカードの登録が必要になるため、現時点では実質クレジットカード決済のみと考えることになる。
B棟入口の門にもアプリ登録に関する掲載があった
社会人のテレワーク・リモートワークでの利用が主とはいえ、学生でクレジットカードを使える人はそうそういないようにも思えるが、澤口主事によれば、近隣の学生や、家族カードでの利用も考慮に入れた上で高校生以上が対象になっている。
その上で、「お客様の声が見えて、即座に改善可能なものは、現場の意見を吸い上げて即座に対応していく、といった気持ちです」とのことだった。
博物館が駅の古材を活かしたワークスペースに
さてさて、東急側の意図がわかったところで、電車とバスの博物館B棟改め、「DENBUSワークスペース」を詳しく見てみよう。「DENBUSワークスペース」は4つのエリアに分かれており、それぞれ全く違った雰囲気となっている。
来館時は、事前に「Suup」というアプリをダウンロードし、登録しておく必要がある。「Suup」アプリにログイン後、「チェックイン」のボタンを押すとQRコードを読み取れるようになっている。「DENBUSワークスペース」入口の改札機に「Suup」用のQRコードがあるのでそれを読み取ることで、ワークスペースにチェックイン。
チェックアウト時は再度「Suup」アプリを開き、出入口の改札にあるQRコードを読み取れば退館となる。料金は自動決済だ。言い方を変えれば、改札のQRコードを読み込まない限りはチェックイン中の状態なので、お昼休憩で外に出たり、近隣のお店でご飯を買ったりしてもOK!その代わり作業を終えてチェックアウトする時のQRコードは忘れずに!
改札機のQRコードを「Suup」アプリで読み込み入退館を管理
一度チェックインした後はどこで作業を始めてもかまわないが、入館後最初に足を踏み入れるエリアは「えきもくオフィス」となる。
4エリアの中では最もオーソドックスで、一般的なワークスペースともあまり雰囲気の変わらないエリアだ。
入館してすぐのエリアは「えきもくオフィス」
しかしながら、ここの特徴は机にある。あまり目立たない箇所ではあるものの、実は天板と脚をつなぐ側面部分に、過去に駅で使われていた古い木材が使用されている!
これらは東急池上線の池上駅や旗の台駅の木製ベンチなどに使われていた過去があり、駅改良工事にともない撤去されたものをワークスペースのデスクとして活用している。
また、駅舎を支えていた柱は一部のデスクの脚に再利用。廃材や、イベント時に使用された長机などのリユース品を活用することで破棄を減らし、環境配慮も実現した。
「えきもくオフィス」では入ってすぐ左のデスクの脚に駅の古材が利用されているほか、他エリアにも古材が脚に生まれ変わったデスクがある。
入ってすぐ左側のテーブル。この脚には駅の木材が使われている
木がアクセントの落ち着いた空間
ショーケースにはナンバープレートや方向幕なども!
「えきもくオフィス」は全13席用意されており、電源とWi-Fiが利用可能で、Web会議と飲食も可能だ。電源とWi-Fiは全席で利用可能なため、エリアによってWeb会議と飲食ができるかが変わってくる。よくあるワークスペースに近い空間でテレワークする場合はここがちょうど良いだろう。
電源は机の裏側
着席した座席でできることが緑の用紙にまとめられている
屋内のアウトドアでテレワーク!?
「えきもくオフィス」の奥には、何やらどこかのキャンプ場みたいな雰囲気のスペースが用意されている。これもれっきとしたワークスペースの1つで、「アウトドアスタイル」と名付けられている。
見ての通り足元には芝生(人工芝)が敷き詰められ、Snow peak製のデスクセットを利用してデスクワークができる空間だ!
これらの備品も、イベント向けに使用しているものをシェアオフィス用に転用したものとなっている。なお、このエリア内は靴を脱いで上がることになる。
屋内にアウトドア風の空間が出現!
やや暗いスペースにランタンの光が暖かく灯る
エリア内は全体的には少し暗いが、卓上のランタンで作業中の手元は明るく、暖かく照らされる。作業の邪魔にならない音量で小鳥のさえずるBGMも流れており、演出に一役買っている。目を閉じたら等々力渓谷にワープした気分になるかも?
ランタンを卓上ライトに活用
アウトドアチェアに座って仕事ができる
ちなみに1席だけ普通のデスクもある
「アウトドアスタイル」は全9席。電源は足元に設置されており、Wi-Fi利用とウェブ会議もOK。最近は外出自粛要請が続いているために外出の機会が減っている人もいると思うが、ここなら自然の中のような空間を楽しみつつ作業できる。たまにはこんな環境で仕事しても良いではないだろうか。
昭和の雰囲気を残す旧型電車もシェアオフィスに
出入口の改札から向かって右の扉の外には、目に見えてお古なダークグリーンの電車が静態保存されている。
これは1931(昭和6)年から1936(昭和11)年にかけて製造されたモハ510形という車両で、目黒蒲田電鉄・東京横浜電鉄時代から活躍。1942(昭和17)年に3450形と改称され、1989(平成元)年まで東急各線で走っていた。
車内は当時らしく、木造の車内に緑の座席と暖色の室内灯で暖かみのある空間になっているが、現役時代は絶対なかったであろうデスクが置かれていた。
歴史を感じるその顔は、入り口付近からも見ることができる
「まさかここも・・・?」と思った人、そのまさかだ。「DENBUSワークスペース」3つ目のエリアは、なんとこのモハ510形そのもの!ワークスペースとしての名称もそのまま「510形」とされている。
車内のロングシートに沿って用意されたデスクにPCや紙の資料などを置き、デスクワークができるようになっている。当然、座る座席はこの懐かしいロングシート!電車移動の合間に作業をするのではなく、電車というワークスペースで作業することが、電車とバスの博物館で実現した。
旧型電車の車内にワークデスクが置かれた!
以前に横須賀線E235系1000番台のグリーン車で見た通り、最近の電車には座席に電源やWi-Fiが設置されているのは認知が広まっていることだろう。しかし、まさか保存されている旧型車両がそのままワークスペースになるとは筆者も思っていなかった。
走行中の電車では、降車駅によってはあっという間に降りることになってしまうが、保存車両なら時間の許す限りいつまでも作業していられる。揺れることもないので乗り物酔いの心配もない。
このデスクの脚にも駅の古材を再利用!
もう走らないが、その分時間も揺れも気にせず作業できる
「510形」車内ワークスペースは全6席で、電源は足元に設置されている。ここでは静かに作業をすることが前提のため、Web会議と飲食はNGだ。だが電車の車内でテレワークができるせっかくの機会、楽しみつつ仕事してみてはいかがだろうか。
懐かしの飛行機もワークスペースに!1席のみのレア体験
4つ目のエリアは、510形の奥にある航空機「YS-11」そのもの!旧型電車の後なのでもう露骨に驚くことはないが、航空機の保存体もワークスペースになった。
「YS-11」はもともと、1966(昭和41)年から~1989年まで活躍した、国内製造では初のターボプロップ形式(タービンエンジンでプロペラを動かす形式)の中型航空機。過去に東急が所有していた日本エアシステムという会社の航空機として活躍し、「なると」の愛称で親しまれた。その機体の頭部がここに保存されている。
「なると」の愛称を冠したYS-11中型航空機
作業用のデスクは新たに用意されているものの、座席は「510形」と同じように、「YS-11」にもともとあった座席に座れる。また、このデスクの脚にも駅で使われた木材が活用されている。
まさか保存されている旧型航空機の機内でテレワークができるようになるとは、旧型電車以上に予想がつかなかった。鉄道ファンだけでなく航空ファンにも、この施設はおすすめだ。
1席のみだが、航空機の保存体で仕事ができるのはうれしい
壁を隔ててすぐ隣にコックピット!
「YS-11」は1席のみで、電源とWi-Fi利用可能、Web会議も可能となっている。しかし1席しかないので一人連続1時間までしか利用できない。譲り合って使ってほしい。
休憩コーナーに運転シミュレーター、博物館ならでは!?
最後に、出入口の改札から見て左側の、プラレールの線路で「DENBUS」と描かれたスペースが「ブレイクコーナー」となっている。全4席で飲食可能な休憩エリアになっているので、作業の合間に適宜肩の力を抜くのにちょうど良い。
プラレールの線路で描かれた「DENBUS」が目印
一息入れたいときはこのブレイクコーナーを利用
ちなみに運転シミュレーターもある!鉄道運転シミュレーターがあるワークスペースだなんてめったにないのだから、せっかくの機会にチャレンジしてみるのもいかがだろうか。
世にも珍しい、運転シミュレーターで遊べるワークスペース
ちなみに、「DENBUSワークスペース」利用当日、「Suup」画面の「DENBUSワークスペース」画面を提示することで東急ストアのお寿司・お弁当・サンドイッチ・おにぎり・飲み物が10%引き(サービスカウンターでの会計による)になる。その期間は10月31日まで。
また、東急線のPASMO定期券ユーザー限定のサブスクリプションサービス「TuyTuy」で600円引きクーポンが2回分配布されるので、それを使えば「DENBUSワークスペース」の利用料が3時間分無料になる。「TuyTuy」は東急線のPASMO定期券利用者しか利用できないが、機会があったら試してみてほしい。
取材を終えて
駅舎時代の古材やリユース品を活用した設備を導入したことで、楽しみつつ仕事をできるようなワークスペースに、B棟は見事に生まれ変わっていた。モハ510形とYS-11航空機に関しては、車内の座席に座ったり、懐かしの雰囲気に包まれながら自分の仕事をできるようになっていた。
移動の合間に仕事をするのではなく、仕事のスペースとして電車や飛行機を活用できるのも、博物館ならではの良さといえるだろう。
約1年間、博物館を活かしたシェアオフィスが宮崎台で体験できるぞ
しかしあくまでも暫定活用のため、コロナの終息状況にもよるが、約1年後にB棟は今まで通りの博物館に戻る予定。利用状況や、事業性の高さに応じて東急内でも検討が進められるとは思うが、基本的には今しか体験できない施設と考えて、シェアオフィスになった博物館を体感してほしいと、筆者は感じている。
また、電車とバスの博物館B棟以外にも、東横線・目黒線武蔵小杉駅、田園都市線長津田駅の旧定期券売り場もシェアオフィスとして活用しているので、「駅で自分の仕事をする」と思い立ったらぜひ、武蔵小杉駅、長津田駅、宮崎台駅(電車とバスの博物館B棟)のいずれかをのぞいてみてほしい。
―終わり―
取材協力
東急グループ
TSO DENBUSワークスペース(電車とバスの博物館B棟)
神奈川県川崎市宮前区宮崎2-10-12
東急田園都市線 宮崎台駅より徒歩2分
営業時間/9:30~17:00(博物館の営業時間に準ずる)
定休日/毎週木曜日
座席数/全29席+休憩コーナー4席
利用料金/1時間200円 1日最大1000円 高校生以上が利用可能
決済方法/「Suup」アプリによるクレジットカード決済
※利用状況により変更の可能性あり
- 前へ
- 1
- 次へ
駅馬車さん
2021年09月30日 20時25分
ネット会議で使えると良いですね。後ろに飛行機の操縦室が見えるなんて面白い。