シンプルながら奥深い味わいが魅力の片倉町「とんぱた亭」と、さらりとしたアブラのバランス系スープの弘明寺「とん桜」が登場!
長らくお待たせしていた「家系ラーメン全店制覇」。再始動となる28回目の今回は、「家系」と呼ばれる店舗が数多あるなかで、「美味い家系ラーメン店」と知られ、多くのファンを持ちながらも店名に“家”を付けていない店を取材する。
それが横浜市営地下鉄ブルーラインの片倉町駅にある「とんぱた亭 片倉町店」と、同じく横浜市営地下鉄ブルーライン、弘明寺駅の「とん桜」だ。両店とも「家系ラーメン」として地元民に愛され、人気を博している。その秘訣とルーツを辿っていこう。
「家」を持たない元祖はどこか?
全店制覇再始動として気合を入れて最初に向かったのは「とんぱた亭 片倉町店」。
片倉町駅を出て三ツ沢方面にゆるい坂を上ると
落ち着いた色合いの看板が見えてくる
見ての通り、同店の看板には“家”の表記がどこにもない。散歩中という近所にお住いの60代男性に同店をご存じか尋ねてみたところ、「知ってるに決まってるよ! とにかく美味い家系だよ。キミ知らないの?」と逆に質問されてしまった。
「知らないの?」と聞かれて思わず言葉が詰まる筆者。家系ラーメンは好きだが、出不精故に食べたことがない有名店も多い。家系ラーメンと言えば“職人の世界”というイメージだ。素人がホイホイ気軽に踏み込んでいいのだろうかと不安が募るなかで・・・
店内を見つめ「とんぱた亭、かなり久しぶりの訪問ですよ」と話すこの男
今回も家系マイスター・マーコ氏に、その豊富な知識と経験を生かして、全店制覇をサポートしていただく。マーコ氏によると、とんぱた亭は同じく店名に“家”を持たない「せんだい」など、実力派家系ラーメン店を輩出した名店であるという。
辛口と聞いたマーコ氏が穏やかに語る姿を見て、俄然期待が高まってゆく。今回は「とんぱた亭 片倉町店」の小柳明(こやなぎ・あきら)さんに話を伺った。
とんぱた亭は1992(平成4)年9月に、片倉町に1店目をオープン。創業から24年が経ち、現在は片倉町だけでなく、子安店や三枚町店、さらには日産スタジアム店と店舗を増やしているが、そのなかで創業当時の味に最も近いと言われているのがここ片倉町とのこと。

店内はカウンターのみで12席と店外のスペースに12席の計24席
看板の色や店内の色合いも相まって、落ち着いた雰囲気。整理された厨房内では小柳さん(残念ながら写真NG)と白井龍太郎(しらい・りゅうたろう)さんが腕を振るう。
カメラを向けるとすかさずポーズを取ってくれるノリの良い白井さん!
小柳さんは「自分が強面だから、スタッフはみんな愛想が良くてとっつきやすい子たちにしてるよ」と話すが、取材中もひっきりなしに訪れるお客さんへ優しく声を掛け、細やかな気配りをする姿に勝手ながら親近感が沸いてくる。そんな小柳さんは他店で3年間ラーメン作りを経験し、1996(平成8)年からとんぱた亭に入ったという。
メニュー表も看板と同じくブラウン
家系ラーメン店で見かける「麺の硬さ・味の濃さ・アブラの量」についての記述は店内に見受けられないが、「言ってくれれば対応しますよ」と小柳さん。「アブラなし、超カタみたいな注文もOKです。基本的にお店にある材料でできるものなら、できる限り対応します」と、かなりフレキシブル。
自分好みの味を探せるのも家系の楽しみのひとつだが、こんなに細かな対応をお願いできる同店が家の近所にあったら毎日通っていたかもしれない。メニューを食い入るように見つめる筆者を見て「まずは食べてみますか」と言ってくれた小柳さんに感謝しつつ、今回はスタンダードな「ラーメン(650円)」と、人気の「辛子味噌ラーメン(800円)」、トッピングに「キャベツ(100円)」をいただくことに。
カウンターから調理風景がよく見える
麺は酒井製麺の中太ストレート。麺上げは平ザルで
シンプルながらそそる見た目の「ラーメン」
スパイシーな香りが食欲を刺激する「辛子味噌ラーメン」
トッピングの「キャベツ」は別盛りも可能とのこと
今回は同店の開業初期のラーメンを食べたことがあり、当時を知るマーコ氏が「ラーメン」を、初とんぱた亭となる筆者が「辛子味噌ラーメン」をいただく。
いただきまーす!
スープはやや乳白色で、雑味のない優しい味わい
スープを一口すすり、「昔は超濃厚だったと記憶していますが、今はややさっぱりしていて食べやすくなりましたね」とマーコ氏。小柳さんによると、昔はアブラとスープを合わせてかなり濃厚にしていたそうだが、家族連れや女性のお客さんが増えてきたこともあり、10年ぐらい前から時代に合わせて食べやすいラーメンへと少しずつ変えてきたそうだ。
とんこつは冷凍物を一切使わず、背骨、ゲンコツ、骨ガラ、そしてトリを使用。何よりも「ブレがない」味を提供することにこだわっていて、スープを完まく(完飲)する女性もいるのだとか。
こちらは辛子味噌。まろやかなスープを辛味が引き締める
普段あまり味噌ラーメンを食べない筆者は、味噌ラーメンと言えば少し甘めで「とんこつしょうゆ」と比べるとパンチが薄く食べ応えがないと勝手に思っていたが、ミソの甘さや風味を引き立てつつもしっかり味を締める辛さがクセになる。またキクラゲやモヤシなどの野菜が辛ミソによく合い箸が止まらない状態に。
「とんぱた亭と言ったらこれ入れなきゃでしょ!」とマーコ氏に差し出されたのは創業当初から手作りしている「ニラキムチ」。
フタを開けると、これまた食欲を刺激する香り!
キムチにあたるトウガラシなどの香辛料が粉末に近い形状だが、しっとりしていてニラと麺によく絡む。思わず「家にほしい・・・」と呟いていた。
とんぱた亭の美味しさを実感し、お腹もいっぱいになったところで、同店はなぜ店名に“家”を付けていないのか改めてお話を伺う。
小柳さん(左)の軽快かつ興味深い話に引き込まれるマーコ氏
「とんぱた亭を立ち上げた畑秀幸(はた・ひでゆき)社長は“さつまっ子”で経験を積み、今のオリジナルの味を作り上げました。家系ラーメンとして作ったわけではないので、店名に“家”を付けなかったそうです」と小柳さんは語る。ちなみに、とんぱた亭の名前の由来は“とんこつ”の“とん”に畑社長の“はた”を合わせたことから来ているそう。
なるほどなるほど・・・
家系ファンや地元の方に同店が「家系ラーメン店」と認識されていることに対しては「とんぱた亭のラーメンを、自ら“家系ラーメン”とは言わないですね。でも、“家系ラーメン”として皆さんに親しまれているなら、そう呼ばれること自体がダメ! なんて言うつもりはないですよ。それぞれが自由に捉えて、美味しく召し上がってもらえれば嬉しいです」と優しく笑う小柳さん。
味もさることながら、家系ラーメンに対する謙虚で真摯な姿勢と、小柳さんや白井さんの親しみやすい人柄も人気の秘訣だなと感じられる。
また今回の取材で、東京都青梅市の「梅浜亭(うめはまてい)」や千葉県市川市の「風凛(ふうりん)」も同店出身だということが判明。家系家系図に新たな道筋が見えてきた。
桜を愛する弘明寺の街
とんぱた亭を食べ終えたあと、「もっと勉強の必要がある!」とマーコ氏に諭され、ちょっとお茶をするような流れで軽やかに連れてこられたのが、大岡川の桜で有名な弘明寺の街。この街にも店名に“家”を持たない家系ラーメンの人気店がある。
目的のお店は横浜市営地下鉄ブルーライン・弘明寺駅下車で
徒歩5分ほど、オシャレな外観の「とん桜」に到着
「なんかポーズしてください」という雑なフリに応えてもらう
取材に対応してくださったのは、とん桜店長の守屋健太郎(もりや・けんたろう)さん。
雑なフリPart2にも応えてくださった優しい守屋さん
とん桜は2012(平成24)年開業。元々イタリアンや和食を学んでいた守屋さんと、以前いたスタッフの2人で今のラーメンを作り上げたという。店名は“とんこつ”の“とん”に、弘明寺は桜が有名で愛されているので、“桜”を加えたことを由来としている。
ここでふと、先ほどのとんぱた亭と名前の由来が似ているなと感じ聞いてみると「実は以前いたスタッフが、とんぱた亭さんで修行を積んでいたんです」と守屋さんが話してくれた。なるほど、店名に“家”を持たない家系ラーメンはここに繋がるのか! と驚く筆者と、既知の情報から同店へ筆者を導いた、落ち着いた面持ちのマーコ氏。家系の奥深さを痛感する。
明るく清潔感溢れる店内、カウンター11席に
4人掛けテーブルが2つ
なにやらキニナル、額縁に入れられた「筑波山もち豚」
守屋さんによると、筑波山もち豚は茨城県筑波山の麓で飼育された豚肉で、さらりとしたアブラと食べ応えのある食感が特徴とのこと。同店ではチャーシューはもちろんのこと、スープに使うとんこつもすべて筑波山もち豚を使用しているという。また、野菜はその時々で一番良い国産のものを八百屋さんから仕入れており、そばの製麺で有名な八角(やすみ)製麺に特注した中太麺を使用するなど、随所にこだわりを見せる。
「まずは食べてみてください」とのお誘いを受け、早速「ラーメン」と最近若いお客さんにかなりの人気だという「まぜそば」をお願いした。
家系ではやや珍しい、白磁のどんぶり
湯切りはテボで
先ほど食べたばかりだというのに、スープの匂いに誘われて、お腹はすでに臨戦状態だ。家系ラーメンマイスターでありながら、まぜそばも大好きというマーコ氏のテンションも上がっている。そうしてやってきたのがこちら!
驚きのコストパフォーマンス、「ラーメン(550円)」
麺は通常の1.5倍! ボリューム満点の「まぜそば(750円)」
まぜそばは具材のネギ、青菜、モヤシ、キャベツ、フライドオニオン、チャーシューが麺を覆い隠している。こちらの麺も通常のラーメンと同じ八角製麺の中太ストレートを使用。
背ガラ、ゲンコツ、コミガラ、トリガラを使ったラーメンのスープについては守屋さんが「バランス系です」と話してくれたが、どうだろうか。
好みは“普通”でオーダーしたが、もともとアブラの少ないスープのようだ
「確かにバランス系と言うのも分かる、控えめだがしっかりまとまっているスープ。ただ、鶏油(ちーゆ)が効いたパンチのある家系に慣れていたら物足りない。でも、この味でこのコストパフォーマンスはかなりキてますねぇ~」とマーコ氏。
筆者もいただいたが、「地元密着で、家族でも女性だけでも入りやすい店、食べやすいラーメンを大切にしている」と守屋さんが話す通り、お年寄りやお子さんでも食べやすいだろう、マイルドで柔らかな味のスープだ。さらりとしたアブラの筑波もち豚のおかげなのだろうか、スープ自体もアブラが控えめ。シンプルなスープと絡む歯切れの良いもっちり麺と、肉のうま味をしっかり感じるチャーシューが嬉しい。
筆者がラーメンを味わっている前で、マーコ氏は普通のラーメンを軽くたしなみ、続いてまぜそばに挑む。
1.5人前あるまぜそばに、文字通り食らいつく
マーコ氏に「これこれ!」と差し出されたのは「壺七味」
とんぱた亭と比べると辛味は強めで粉末感が高いが、ラーメンやまぜそばにもベストマッチ。1.5人前のまぜそばを「美味いけど多いな・・・」と言いながらもマーコ氏は10分ほどで食べ終えた。
「もう無理」と言いながら顔は幸せそうである
筆者は本日2杯目のラーメンであるが、すんなり完食できたことに驚いた。やはり同店の食べやすさが生きた結果ではないだろうか。
「弘明寺は年配の方も多いので、老若男女、小さなお子さんまで安心して食べられるラーメンを作り続けていきたい」と言う守屋さんの言葉に納得の1杯だった。
取材を終えて
今回は店名から家系図が見えてくるという、面白さと奥深さを感じる取材となった。時代に即した味、また修行先からのオリジナルの味へと変化する、その変移を追ってみるのもひとつの楽しみかもしれない。
「家系の道はまだまだこれからだ」と背中で語るマーコ氏

―現在の全店制覇状況― ※クリックして拡大
※上記軒数は2016年6月時点で再調査した家系家系図内の店舗数となります。開店・閉店・発見により軒数が変動する場合があります。
※現在特設ページの家系図は調整中で、近日中に更新予定です。
―終わり―
取材協力
とんぱた亭 片倉町店
住所/横浜市神奈川区片倉2丁目2-2
電話/045-481-5925
営業時間/午前11時~午後11時
定休日/なし
とん桜
住所/横浜市南区通町3-71 スターフィルド 1F
電話/045-731-7110
営業時間/11:30~23:00
定休日/木曜日